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3.小学一年生、初等教育学校生になる
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あっという間に俺が入学する日が来た。
具体的には、サウロスが書状を送ってから三昼夜後だった。
「キョクヤ、明日から学校に通えるよ」
ニコニコしながらサウロスが言ってきたが……この男、やはり肝心なことが抜けている。
「学校で必要なものは?」
俺に言われてから気付いたのか、サウロスは少し考え込んで顔を上げた。
「これから買いに行こうか」
――そうなると思った。
サウロスを外出着に着替えさせ、俺自身はパッと身なりを整えて、二人で街へ向かう。
「学校で必要なものか……筆記具、記録紙、それから……」
ぶつぶつと呟いているが、そもそもサウロスが学校関係者というわけではない。
だったら、きちんと知っている人に確認した方がいいだろう。
「この街で学校に通っているっていう人は……その、お金持ちの家の子?」
「うん?――まぁ、そうだね。裕福な家の子女だよ。学校は無償で通えるわけじゃないからね」
なるほど、だとしたらそれなりの文房具などが持たされているだろう。
それは店でサウロスが選ぶものを俺が改めて選別すればいい。
「文房具以外に必要なものはあるの?」
「――ブンボウグ……?」
しまった、通じない言葉か。
「ペンとか、ノート……記録紙? そういうの」
言い換えて、気を付けなければと自身を律する。
頭の中の白夜が「困ったね」と呟いた。
まったくだ。
微妙に通じない言葉が多い。
俺はこの世界の言葉を話しているが、根本的なところで日本語で思考している。つまり、この異世界にはない言葉も自動で近い概念に翻訳して口に出している。
そうすると、サウロスですら理解できない言葉を口にしてしまっていることがあるわけだ。
サウロスは何度か頷いて、俺が口にした言葉の意味を咀嚼していた。
「ブンボウグ……文房具、か。なるほど、筆記に使う道具の総称としてわかりやすい。それで行こう」
この辺りが、サウロスの良いところだ。
俺が口にした言葉が自身の知識になくても、なんとか分解して自分に理解できる形にして話を続けてくれる。
当然、俺はサウロス以外にこんな芸当が出来るヒトは、この異世界にはいないと考えていた。
なので、サウロスのこの理解力に甘えてはいけない。
「文房具以外だったね、必要なのは……ナイフ、それから鍛錬用の木剣かな」
――は?
「ぼ、木剣?」
「うん、初等教育学校にも戦闘鍛錬はあるからね。剣術の授業は入学してすぐに始まるよ」
……つまり、小学校で言う体育と同じ感覚で剣術の授業がある、ということか?
一気に気が重くなった。
こう言っては何だが、俺は体を動かすことが苦手だ。
端的に言ってしまえば、スポーツというものが苦手だ。
これは弟もそうだったので、どうにも血筋というやつなのかもしれない。
たかだか小学一年生の体育で、既に苦手意識があったのだ。
それが、剣術、だと?
「それは……みんなやっていること?」
おずおずと尋ねると、サウロスは苦笑した。
「きみは何でもできるような振りをしているけど、苦手なこともちゃんとあるんだね。安心した」
「……」
「できないことでも、やってる振りは上手くなっておきなさい。真面目にやっているように見えれば評価というのは勝手に付くものだよ」
――正論だ。上手く手を抜く方法を学ばなくては。
「そして、きみはきみが最大の力を発揮できる分野で一番になればいい。簡単な話じゃないか」
――簡単ではないが、少なくともそれが手っ取り早いのは理解できた。
「分かった。木剣はなるべく軽くて、長さも短めの方がいい」
「……そうだね。自分が出来る範囲でやるというのはそういうことだ」
サウロスの言葉は穏やかだが、常に大切なことを言っている。
そうだ、何か困った時に相談できるように、サウロスを頭の中に作ろう。
意識して、頭の中にサウロスを描く。
白夜と食事担当の俺の隣に、ふっとサウロスが浮かび上がる。
頭の中のサウロスはフラフラと手を振っていた。
――用があったら話しかけろ、という雰囲気だ。
まぁ、今はこれでいいだろう。
俺はサウロスに導かれて専門店を巡り、文房具と木剣やナイフ、通学用の鞄などを買ってもらった。
ついでに通学用の服や、運動用の服なども買ってもらった。
「着せ替えするの面白いねぇ」
というサウロスののん気なセリフは聞かなかったことにした。
翌日。
朝から大忙しだった。
――朝食の準備と並行して、自分の弁当とサウロスの昼食の作成。それが済み次第、洗濯を済ませて干す。
のんびり起きてきたサウロスに食事を取らせて、挨拶をするというから支度をさせて一緒に屋敷を出た。
街の西部、少し広く取られた敷地の先に学校はあった。
建物自体は俺達の通っていた小学校とは比べ物にならないぐらい小さい。
通っているのは三人だということだから、そんなに広い校舎はいらないんだろう。
サウロスに連れられて学校の中へと入って行った俺は、正面の部屋に通された。
室内にいたのは、優しそうなおじいちゃんだった。
「これはサウロス様、その子が入学希望の子ですか」
「あぁ、スリアン。よろしくお願いするよ」
気楽な様子で話しているが……あぁ、このおじいちゃんは人間だ。つまりサウロスにとってはこの人もずっと年下なんだ。
スリアンと呼ばれたおじいちゃんはゆっくりと立ち上がって、俺の前まで歩いてきた。
「この学校の責任者を拝命しています、スリアン・マステールです」
「キョクヤ・ミフユです。よろしくお願いします」
初対面の印象は大事だ。
俺は丁寧にお辞儀をして挨拶をする。
スリアン老はニコニコと笑いながら俺を先導するように歩き出した。
「それでは、教室へ行きましょう。サウロス様、失礼します」
「うん、キョクヤをよろしく。まだこちらに来て二十日ほどだから、慣れないこともあるからね」
「……? 他の街から来た子供ですか?」
首をわずかに傾けたスリアン老に、サウロスは曖昧に笑った。
「まぁ、そんなところだよ。キョクヤ、しっかり学んできなさい」
それだけ言ってサウロスはさっさと部屋から出て行った。
――あ、面倒になって逃げたな、これ?
微かなため息が口から零れたが、頭の中の白夜が「おじいちゃんが見てるよ」と伝えてくれたおかげで気を取り直すことができた。
「先生、教室はどちらですか?」
「……あぁ、こちらだ。ついておいでなさい」
スリアン老が止めていた足を動かす。
俺もその後に従いながら、教室で待っているのであろう同級生――になるのか?――について思考を割いた。
事前情報として、この学校に通っているのは裕福な家の子供だというのは知っている。それ以上の情報はない。初手で三人の性質を見極めて、敵を作らない様にした方がいいだろう。
少々の緊張を覚えつつ、促されるままに教室に入った。
静かな教室に、一瞬だけ息を呑むような気配が満ちる。
スリアン老が俺を教壇の傍まで連れて行き、そこにいた壮年の男に引き渡す。
「では、後は先生にお任せします」
「お任せください」
そんな短いやり取りでスリアン老は教室を出て行った。どうやら教師らしい男にお辞儀をした俺に、男は頷く。
「私はこの初等教育学校で師範をしている、ガリー・アルドだ。みなに自己紹介をしたまえ」
ふむ……このガリー師範は中々に規律にうるさそうだ。厳しい人なのかもしれない。
俺はすぐさま教室内を見渡して挨拶を口にした。
「キョクヤ・ミフユです。よろしくお願いします」
言いながら、教室にいる三人を確認する。
長机が二つあり、片方に二人の男子、もう一方に女子が一人。
見た目の印象は、全員俺より年上だ。
男子のうち一人は耳が長い……サウロスと同じ種族だろう。他二人は人間だと考えられる。
女子は興味深そうに俺を眺めており、男子二人は胡散臭そうにこちらを値踏みしてた。
――俺は突然の編入という扱いになる。当然、面白くない、という雰囲気は感じられた。
「順に自己紹介をするように」
ガリー師範の声を受けて、一番廊下側に座っている男子が立ち上がった。
人間、俺よりも十五センチほど背が高い。小学校で言えば、多分、五年生ぐらいか?
「ディーコ・ドレディア。十一歳だ」
やっぱり五年生ぐらいか。物言いが少々乱暴。自分に自信があるが故に、やや傲慢なところがあるように見える。
入れ替わりで立ち上がったのは耳の長い少年。
「ククヴァ・ミレナ。二十五歳……人で言えば、まだ十歳相当だよ」
細かい点に言及する……神経質なのかもしれない。或いは、他人に正しく自分の意図が伝わらないのが嫌なのだろうか。
ついで、唯一の女子が立ち上がって優雅に一礼した。
「わたくし、リコス・フィードレセンと申します。八歳ですわ、よしなに」
育ちがいいというより、そう教育されている、という印象の挨拶。少なくとも一番家格が高いのはこの女子の家だろう、というのは察することができた。
――なるほど、それぞれに癖がある。
この初等教育学校が何年制なのかは聞いていないが、この中で上手く立ち回らなくてはいけないということだ。
ガリー師範は全員の自己紹介が終わると、俺を促した。
「キョクヤ、きみの席はリコスの隣だ」
「はい」
返事をして、すぐに座席へ向かい、着席する。
その際に小さく「よろしくお願いします」とリコスに声を掛けておいた。
それでリコスとしては自尊心が満たされたんだろう。
にこりと微笑んでガリー師範へと顔を戻した。
それを待って、ガリー師範は通常通りなのだろう、授業の開始を宣言した。
「では、本日の課程を始める。――最初は算術だ」
む、これは助かる。
最初から剣術などやらされては堪らない。
算数なら難しい言葉がわからなくても、サウロスとの勉強の成果もあってそれなりに理解できる。
俺は慌てて鞄から買ってもらったばかりの文房具を取り出して、異世界で最初の授業に臨んだ。
――まさか、二桁の足し算引き算を延々やらされることになるとは、この時の俺は考えてもいなかった。
具体的には、サウロスが書状を送ってから三昼夜後だった。
「キョクヤ、明日から学校に通えるよ」
ニコニコしながらサウロスが言ってきたが……この男、やはり肝心なことが抜けている。
「学校で必要なものは?」
俺に言われてから気付いたのか、サウロスは少し考え込んで顔を上げた。
「これから買いに行こうか」
――そうなると思った。
サウロスを外出着に着替えさせ、俺自身はパッと身なりを整えて、二人で街へ向かう。
「学校で必要なものか……筆記具、記録紙、それから……」
ぶつぶつと呟いているが、そもそもサウロスが学校関係者というわけではない。
だったら、きちんと知っている人に確認した方がいいだろう。
「この街で学校に通っているっていう人は……その、お金持ちの家の子?」
「うん?――まぁ、そうだね。裕福な家の子女だよ。学校は無償で通えるわけじゃないからね」
なるほど、だとしたらそれなりの文房具などが持たされているだろう。
それは店でサウロスが選ぶものを俺が改めて選別すればいい。
「文房具以外に必要なものはあるの?」
「――ブンボウグ……?」
しまった、通じない言葉か。
「ペンとか、ノート……記録紙? そういうの」
言い換えて、気を付けなければと自身を律する。
頭の中の白夜が「困ったね」と呟いた。
まったくだ。
微妙に通じない言葉が多い。
俺はこの世界の言葉を話しているが、根本的なところで日本語で思考している。つまり、この異世界にはない言葉も自動で近い概念に翻訳して口に出している。
そうすると、サウロスですら理解できない言葉を口にしてしまっていることがあるわけだ。
サウロスは何度か頷いて、俺が口にした言葉の意味を咀嚼していた。
「ブンボウグ……文房具、か。なるほど、筆記に使う道具の総称としてわかりやすい。それで行こう」
この辺りが、サウロスの良いところだ。
俺が口にした言葉が自身の知識になくても、なんとか分解して自分に理解できる形にして話を続けてくれる。
当然、俺はサウロス以外にこんな芸当が出来るヒトは、この異世界にはいないと考えていた。
なので、サウロスのこの理解力に甘えてはいけない。
「文房具以外だったね、必要なのは……ナイフ、それから鍛錬用の木剣かな」
――は?
「ぼ、木剣?」
「うん、初等教育学校にも戦闘鍛錬はあるからね。剣術の授業は入学してすぐに始まるよ」
……つまり、小学校で言う体育と同じ感覚で剣術の授業がある、ということか?
一気に気が重くなった。
こう言っては何だが、俺は体を動かすことが苦手だ。
端的に言ってしまえば、スポーツというものが苦手だ。
これは弟もそうだったので、どうにも血筋というやつなのかもしれない。
たかだか小学一年生の体育で、既に苦手意識があったのだ。
それが、剣術、だと?
「それは……みんなやっていること?」
おずおずと尋ねると、サウロスは苦笑した。
「きみは何でもできるような振りをしているけど、苦手なこともちゃんとあるんだね。安心した」
「……」
「できないことでも、やってる振りは上手くなっておきなさい。真面目にやっているように見えれば評価というのは勝手に付くものだよ」
――正論だ。上手く手を抜く方法を学ばなくては。
「そして、きみはきみが最大の力を発揮できる分野で一番になればいい。簡単な話じゃないか」
――簡単ではないが、少なくともそれが手っ取り早いのは理解できた。
「分かった。木剣はなるべく軽くて、長さも短めの方がいい」
「……そうだね。自分が出来る範囲でやるというのはそういうことだ」
サウロスの言葉は穏やかだが、常に大切なことを言っている。
そうだ、何か困った時に相談できるように、サウロスを頭の中に作ろう。
意識して、頭の中にサウロスを描く。
白夜と食事担当の俺の隣に、ふっとサウロスが浮かび上がる。
頭の中のサウロスはフラフラと手を振っていた。
――用があったら話しかけろ、という雰囲気だ。
まぁ、今はこれでいいだろう。
俺はサウロスに導かれて専門店を巡り、文房具と木剣やナイフ、通学用の鞄などを買ってもらった。
ついでに通学用の服や、運動用の服なども買ってもらった。
「着せ替えするの面白いねぇ」
というサウロスののん気なセリフは聞かなかったことにした。
翌日。
朝から大忙しだった。
――朝食の準備と並行して、自分の弁当とサウロスの昼食の作成。それが済み次第、洗濯を済ませて干す。
のんびり起きてきたサウロスに食事を取らせて、挨拶をするというから支度をさせて一緒に屋敷を出た。
街の西部、少し広く取られた敷地の先に学校はあった。
建物自体は俺達の通っていた小学校とは比べ物にならないぐらい小さい。
通っているのは三人だということだから、そんなに広い校舎はいらないんだろう。
サウロスに連れられて学校の中へと入って行った俺は、正面の部屋に通された。
室内にいたのは、優しそうなおじいちゃんだった。
「これはサウロス様、その子が入学希望の子ですか」
「あぁ、スリアン。よろしくお願いするよ」
気楽な様子で話しているが……あぁ、このおじいちゃんは人間だ。つまりサウロスにとってはこの人もずっと年下なんだ。
スリアンと呼ばれたおじいちゃんはゆっくりと立ち上がって、俺の前まで歩いてきた。
「この学校の責任者を拝命しています、スリアン・マステールです」
「キョクヤ・ミフユです。よろしくお願いします」
初対面の印象は大事だ。
俺は丁寧にお辞儀をして挨拶をする。
スリアン老はニコニコと笑いながら俺を先導するように歩き出した。
「それでは、教室へ行きましょう。サウロス様、失礼します」
「うん、キョクヤをよろしく。まだこちらに来て二十日ほどだから、慣れないこともあるからね」
「……? 他の街から来た子供ですか?」
首をわずかに傾けたスリアン老に、サウロスは曖昧に笑った。
「まぁ、そんなところだよ。キョクヤ、しっかり学んできなさい」
それだけ言ってサウロスはさっさと部屋から出て行った。
――あ、面倒になって逃げたな、これ?
微かなため息が口から零れたが、頭の中の白夜が「おじいちゃんが見てるよ」と伝えてくれたおかげで気を取り直すことができた。
「先生、教室はどちらですか?」
「……あぁ、こちらだ。ついておいでなさい」
スリアン老が止めていた足を動かす。
俺もその後に従いながら、教室で待っているのであろう同級生――になるのか?――について思考を割いた。
事前情報として、この学校に通っているのは裕福な家の子供だというのは知っている。それ以上の情報はない。初手で三人の性質を見極めて、敵を作らない様にした方がいいだろう。
少々の緊張を覚えつつ、促されるままに教室に入った。
静かな教室に、一瞬だけ息を呑むような気配が満ちる。
スリアン老が俺を教壇の傍まで連れて行き、そこにいた壮年の男に引き渡す。
「では、後は先生にお任せします」
「お任せください」
そんな短いやり取りでスリアン老は教室を出て行った。どうやら教師らしい男にお辞儀をした俺に、男は頷く。
「私はこの初等教育学校で師範をしている、ガリー・アルドだ。みなに自己紹介をしたまえ」
ふむ……このガリー師範は中々に規律にうるさそうだ。厳しい人なのかもしれない。
俺はすぐさま教室内を見渡して挨拶を口にした。
「キョクヤ・ミフユです。よろしくお願いします」
言いながら、教室にいる三人を確認する。
長机が二つあり、片方に二人の男子、もう一方に女子が一人。
見た目の印象は、全員俺より年上だ。
男子のうち一人は耳が長い……サウロスと同じ種族だろう。他二人は人間だと考えられる。
女子は興味深そうに俺を眺めており、男子二人は胡散臭そうにこちらを値踏みしてた。
――俺は突然の編入という扱いになる。当然、面白くない、という雰囲気は感じられた。
「順に自己紹介をするように」
ガリー師範の声を受けて、一番廊下側に座っている男子が立ち上がった。
人間、俺よりも十五センチほど背が高い。小学校で言えば、多分、五年生ぐらいか?
「ディーコ・ドレディア。十一歳だ」
やっぱり五年生ぐらいか。物言いが少々乱暴。自分に自信があるが故に、やや傲慢なところがあるように見える。
入れ替わりで立ち上がったのは耳の長い少年。
「ククヴァ・ミレナ。二十五歳……人で言えば、まだ十歳相当だよ」
細かい点に言及する……神経質なのかもしれない。或いは、他人に正しく自分の意図が伝わらないのが嫌なのだろうか。
ついで、唯一の女子が立ち上がって優雅に一礼した。
「わたくし、リコス・フィードレセンと申します。八歳ですわ、よしなに」
育ちがいいというより、そう教育されている、という印象の挨拶。少なくとも一番家格が高いのはこの女子の家だろう、というのは察することができた。
――なるほど、それぞれに癖がある。
この初等教育学校が何年制なのかは聞いていないが、この中で上手く立ち回らなくてはいけないということだ。
ガリー師範は全員の自己紹介が終わると、俺を促した。
「キョクヤ、きみの席はリコスの隣だ」
「はい」
返事をして、すぐに座席へ向かい、着席する。
その際に小さく「よろしくお願いします」とリコスに声を掛けておいた。
それでリコスとしては自尊心が満たされたんだろう。
にこりと微笑んでガリー師範へと顔を戻した。
それを待って、ガリー師範は通常通りなのだろう、授業の開始を宣言した。
「では、本日の課程を始める。――最初は算術だ」
む、これは助かる。
最初から剣術などやらされては堪らない。
算数なら難しい言葉がわからなくても、サウロスとの勉強の成果もあってそれなりに理解できる。
俺は慌てて鞄から買ってもらったばかりの文房具を取り出して、異世界で最初の授業に臨んだ。
――まさか、二桁の足し算引き算を延々やらされることになるとは、この時の俺は考えてもいなかった。
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