傷だらけのチッチ

双葉紫明

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第3話

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 彼女は元気そうだった。
 彼女を認め、眺めてるうちは。
 1年ぶりの再会に記念撮影。
 満面の笑顔を向けてくれた。

 しかし僕が彼女に触れるや否や、例の傷つきやすい性質を押し付けてくる。
 触れただけで血を流してしまうかもしれない。
 それくらい彼女を扱うには慎重さを強いられる。
 ああチッチ、僕だよ、会いに来たよ。
 何を言っても、何をしても、彼女は傷ついてしまう。
 そしてその彼女を傷付けた証は、粘液質にべっとりと僕の指に絡みつき、それは日に当たると乾いて嫌なにおいを出す。
 それを知ってるからわざわざ会いに来る。
 今日もダメだった。
 傷付けた理由はわからないけど、ともかくチッチを傷付けた証拠は僕の指にまとわりついて、沢でどんなに手を洗っても落ちない。
 僕は日陰を選んで歩き、彼女からあの嫌な匂いがしないように気を配りながら車に乗り部屋へ連れて帰る。

 黙りこくっている彼女を側らに僕は考える。
 僕は秋にはたくさんの人に会わなければならず、彼女を疎遠にしていく。
 こんなに構う余裕がないのだ。
 でも、彼女だけが特別変わってるんだろうか?
 みんな教えてくれないだけで、おんなじ様に傷ついてはいないだろうか?

 ともあれ僕は、またこの時期にした熱烈な恋を遠ざけて、世間に戻っていく。
 世の中に君しか居ないのなら。
 もしもそうだったら。

 しかしそれはただの夢で、世の中はきみやぼくみたいな人だけで出来上がってはいない。

 きっと僕はまた君を忘れ、あそこへ帰って行く。
 再びこの不快な季節が巡り来るまで。
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