ハズレっくじに大当たり

双葉紫明

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底なし

模範囚

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 スラムの様な市営住宅。そこはまるで刑務所みたかった。四畳半二間に5人家族。その集合房の、僕は模範囚になって行った。気弱さからひとの顔色を窺い自分の役割を理解していた。ところで僕らは何か罪を犯したのだろうか?貧乏は、その結果だろうか?


 生まれて来た罪。


 ちいさな子供は周囲、とりわけ親が喜ぶ事を察知すると、その事柄への驚く程の記憶力と集中力を見せる。僕は物心ついた頃から、いわゆる「出来る子供」でなければならなかった。甘えは許されなかった。
 しかしそれは、昔風な世継ぎであるからとか、そんな理由ではなく、どうしようもない暮らしの中で母親が望む「掃き溜めに鶴」を必死に演じる醜い家鴨の子だった。

 模範囚。

 そしてその報酬は、母親の愛情の筈だった。しかし無学な母親は、僕は昔から手がかからなかったと信じ込み、身体の弱いのにも突き放した。だから僕は手をかけなくして、身体を強くした。3年生くらいの時にIQテストというのがあり、その結果に教師も母親も驚いた様子で、どうやらそれは良い驚きの様だったから頭が良いふりもしなければならなかった。

 模範囚は、自分ですら自分がわからなくなって行った。ただひたすら「死んだらどうなるんだろう?」と考えた。誰とも打ち解けられなかった。ひとりただ、様々な空想をするばかりで、しかしそれすら功名心に薄汚れた醜い空想ばかりだった。空想の中で僕は野球やサッカーで大活躍をした。実際にはチームに入れなかった。そんな金はなかった。その貧しさを隠す為に嘘つきになった。忘れものが多いフリ。実は忘れたのではなく、持っていなかった。
 好きになった女のコはいつも僕に助けられる為に都合良く窮地に立たされた。そんな傍迷惑な自作自演の「被害者」は、けれども僕に凄く感謝して、僕に好意を持った。

 すべてはチンケな模範囚の薄汚れた妄想。

 毎日が妄想パーティーだった。
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