10 / 11
第9話『夜の通話』
しおりを挟む
夜九時。姫のお誘いで、アプリ通話をすることになった。
『唯都ねえね、カメラオンにしていいですか?』
『いいよー』
スマホをスタンドに立てかけて、角度を調整する。
パッと画面が切り替わり、フリルいっぱいのネグリジェを着た姫の姿がうつった。
『わっ……かわいい!本物のお姫様みたい』
『んふー。ありがとうございます!』
姫は照れながらも自信たっぷりな様子。自慢のパジャマを見てもらいたいのだろう。立ちながら移動し、ネグリジェの全貌をカメラに写そうと頑張っている。
もしかして、私のためにかわいい服を着てくれたのだろうか。そう思うのは、自惚れだろうか。
姫は元の位置に戻ってきた。ネグリジェの上からモコモコパーカーと半纏を羽織る。
『やっぱ寒いので、防寒します』
十二月とはいえ、ここは南の県。そんなに寒くないんだけどな……姫って寒がりなのか?新たな一面を知れて、なぜか嬉しい自分がいる。
『唯都ねえねの私服はじめて見ました!スウェットもかっこいいです!』
『あ、ありがとう』
『シンプルな服が似合う唯都ねえね、非常に良いです』
スウェット姿をこんなに褒められるなんて、普通はお世辞を疑うが、姫の目がキラキラしているから、本音なんだろう。まあ、人見知りで真っ直ぐな姫が、お世辞なんていう技術を身につけているはずないか。
なんだか褒められて、顔が熱くなってきた。赤くなってないかな。
そうだ。そんなことより、真っ先に伝えたいことがあったんだ。
「貸してくれた本、最後の話以外は読んだよ。おもしろかった」
「もう読んだんですか!?」
姫はよりいっそう目を輝かせ、詳しい感想を聞きたそうにしている。一番おもしろかった話はこれだと伝えたら、「唯都ねえねは、倒叙形式が好きなんですね……」と呟かれた。
「とうじょ……」
初めて聞く言葉だ。年上のくせに知らない言葉があると思われたくないので、こっそり検索する。
なるほど。最初に犯人がわかっていて、探偵役が犯人を追い詰めていく過程が主軸になるミステリーってことか?調べていたら、アガサ・クリスティー作品のネタバレが見えそうになったので、ブラウザを閉じた。
あれ?以前の私なら、小説のネタバレなんて微塵も気にしなかったのに。どうせ読まないからいっか……と思うはずなのに。姫の影響で、読書意欲が生まれたのだろうか。
最近、少しずつ、自分が変わっている、ような気がする。姫に出会ってから。
姫は楽しそうに、オススメの倒叙ミステリー小説について話してくれた。私に読ませる気満々だ。多分、私も読むだろう。姫ともっと繋がっていたいから。
『もう……そろそろ……切りますね』
『えっ!?まだ九時半だよ?』
通話前に届いたチャットによれば、十時までは通話が許可されているはずだ。
『ボク……夜に弱いんです……いつも十時になると同時に寝ちゃうんです……』
確かに、今もポワポワしている。眠そう。
……この状態なら、聞けるかもしれない。ずっと感じてた疑問を。面倒くさい女だと思われそうで、今まで聞けなかったけど。
『姫ってさ……』
『んー……?』
『なんで私のこと好きなの?』
だって、出会ったばかりで告白されて、運命の人だと言われて、こんなに好かれている状況、不可解だ。私は特別なモノなんて何ひとつ持っていないのに。
『思慮深くて、世界一優しい人だからです』
即答された。
『えっ?』
『ボク……家族以外と話すのが苦手で……あの時、助けてもらったお礼を言いたくても、上手く言えなくて……だけど、そんなボクを……あなたは嫌な顔ひとつせず長い間待ってくれました……』
それは……何か言いたそうな君を見捨てた方が、あとで嫌な気持ちになるからだ。自分が嫌な思いをしたくなかっただけだ。
『こんな人に出会えたのは初めてで……運命だと思いました。だから……お礼の言葉よりも愛の言葉を伝えることにしました』
『……』
『あなたはボク自身を見ようとしてくれる人です、お母さんが亡くなった今、唯一の人です……学校の人や身内は、ボクに「変わった子」とか「面倒な子」というレッテルを貼って接しますから……』
姫の瞳が濡れている。涙がこぼれそうだ。
『ボクはあなたを心から慕っています』
……結局、お互い顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、おやすみの挨拶をして、通話を切った。私はもらい泣きだ。
自分の都合で姫を泣かせてしまったことを後悔したが、心はふわふわしたものに包まれていた。形容しがたい感情だが、無理矢理言葉にすると『幸福』に近い。
世界から祝福されたような気分だ。姫のために生きてみてもいいかもしれない。そんな大きな決意さえ、今なら簡単にできてしまいそうだ。
告白の返事をしよう。ちゃんと私の好意を、直接伝えなきゃ。月曜日まで待ちきれない。
もう寝てると思うが、姫宛に『明後日の日曜日にデートしない?』とメッセージを送った。
姫は私のことが大好きだ。用事がない限りは断られないと思うが、それでも、ソワソワして落ち着かない。
結局、朝六時に姫から了承の返事が来るまで、眠れなかった。
『唯都ねえね、カメラオンにしていいですか?』
『いいよー』
スマホをスタンドに立てかけて、角度を調整する。
パッと画面が切り替わり、フリルいっぱいのネグリジェを着た姫の姿がうつった。
『わっ……かわいい!本物のお姫様みたい』
『んふー。ありがとうございます!』
姫は照れながらも自信たっぷりな様子。自慢のパジャマを見てもらいたいのだろう。立ちながら移動し、ネグリジェの全貌をカメラに写そうと頑張っている。
もしかして、私のためにかわいい服を着てくれたのだろうか。そう思うのは、自惚れだろうか。
姫は元の位置に戻ってきた。ネグリジェの上からモコモコパーカーと半纏を羽織る。
『やっぱ寒いので、防寒します』
十二月とはいえ、ここは南の県。そんなに寒くないんだけどな……姫って寒がりなのか?新たな一面を知れて、なぜか嬉しい自分がいる。
『唯都ねえねの私服はじめて見ました!スウェットもかっこいいです!』
『あ、ありがとう』
『シンプルな服が似合う唯都ねえね、非常に良いです』
スウェット姿をこんなに褒められるなんて、普通はお世辞を疑うが、姫の目がキラキラしているから、本音なんだろう。まあ、人見知りで真っ直ぐな姫が、お世辞なんていう技術を身につけているはずないか。
なんだか褒められて、顔が熱くなってきた。赤くなってないかな。
そうだ。そんなことより、真っ先に伝えたいことがあったんだ。
「貸してくれた本、最後の話以外は読んだよ。おもしろかった」
「もう読んだんですか!?」
姫はよりいっそう目を輝かせ、詳しい感想を聞きたそうにしている。一番おもしろかった話はこれだと伝えたら、「唯都ねえねは、倒叙形式が好きなんですね……」と呟かれた。
「とうじょ……」
初めて聞く言葉だ。年上のくせに知らない言葉があると思われたくないので、こっそり検索する。
なるほど。最初に犯人がわかっていて、探偵役が犯人を追い詰めていく過程が主軸になるミステリーってことか?調べていたら、アガサ・クリスティー作品のネタバレが見えそうになったので、ブラウザを閉じた。
あれ?以前の私なら、小説のネタバレなんて微塵も気にしなかったのに。どうせ読まないからいっか……と思うはずなのに。姫の影響で、読書意欲が生まれたのだろうか。
最近、少しずつ、自分が変わっている、ような気がする。姫に出会ってから。
姫は楽しそうに、オススメの倒叙ミステリー小説について話してくれた。私に読ませる気満々だ。多分、私も読むだろう。姫ともっと繋がっていたいから。
『もう……そろそろ……切りますね』
『えっ!?まだ九時半だよ?』
通話前に届いたチャットによれば、十時までは通話が許可されているはずだ。
『ボク……夜に弱いんです……いつも十時になると同時に寝ちゃうんです……』
確かに、今もポワポワしている。眠そう。
……この状態なら、聞けるかもしれない。ずっと感じてた疑問を。面倒くさい女だと思われそうで、今まで聞けなかったけど。
『姫ってさ……』
『んー……?』
『なんで私のこと好きなの?』
だって、出会ったばかりで告白されて、運命の人だと言われて、こんなに好かれている状況、不可解だ。私は特別なモノなんて何ひとつ持っていないのに。
『思慮深くて、世界一優しい人だからです』
即答された。
『えっ?』
『ボク……家族以外と話すのが苦手で……あの時、助けてもらったお礼を言いたくても、上手く言えなくて……だけど、そんなボクを……あなたは嫌な顔ひとつせず長い間待ってくれました……』
それは……何か言いたそうな君を見捨てた方が、あとで嫌な気持ちになるからだ。自分が嫌な思いをしたくなかっただけだ。
『こんな人に出会えたのは初めてで……運命だと思いました。だから……お礼の言葉よりも愛の言葉を伝えることにしました』
『……』
『あなたはボク自身を見ようとしてくれる人です、お母さんが亡くなった今、唯一の人です……学校の人や身内は、ボクに「変わった子」とか「面倒な子」というレッテルを貼って接しますから……』
姫の瞳が濡れている。涙がこぼれそうだ。
『ボクはあなたを心から慕っています』
……結局、お互い顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、おやすみの挨拶をして、通話を切った。私はもらい泣きだ。
自分の都合で姫を泣かせてしまったことを後悔したが、心はふわふわしたものに包まれていた。形容しがたい感情だが、無理矢理言葉にすると『幸福』に近い。
世界から祝福されたような気分だ。姫のために生きてみてもいいかもしれない。そんな大きな決意さえ、今なら簡単にできてしまいそうだ。
告白の返事をしよう。ちゃんと私の好意を、直接伝えなきゃ。月曜日まで待ちきれない。
もう寝てると思うが、姫宛に『明後日の日曜日にデートしない?』とメッセージを送った。
姫は私のことが大好きだ。用事がない限りは断られないと思うが、それでも、ソワソワして落ち着かない。
結局、朝六時に姫から了承の返事が来るまで、眠れなかった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる