6 / 12
第6話
しおりを挟む
Twenty-Fortyの話をする前に、少しだけ昔話をしよう。
もう一三二年前のことだが、一九一八年に、スペイン風邪というものが世界中で大流行した。スペイン風邪は英語でSpanish Flu。その名の通り、インフルエンザが引き起こしたパンデミックだった。
世界中で億単位の人が感染し、何千万人もの人が死んだ。有効な治療薬もなく、当時はどの病原体が引き起こしているかすらわからなかった。過去に例を見ない感染力と凶暴性をもつインフルエンザによって人類の存亡が脅かされていたのだ。
しかし翌年1919年、パンデミックは沈静化した。理由は明快だ。インフルエンザが毎年のごとく突然変異を起こし、獰猛な性質が弱まったからだ。
この話はTwenty-Fortyを知る上で重要だ。
アメリカ疾病予防管理センターはA型インフルエンザの無害化に何十年もの月日を費やしてきた。そしてついに二〇三八年に、インフルエンザの遺伝子改良によって無害化に成功したと発表した。そしてその無害化したインフルエンザをアメリカに大量にばら撒いた。CDCの研究に対して批判的または懐疑的に思う人は少なからずいたが、大半の人は賛成的でった。
だから、その翌々年に起こることを予想できた者はいなかった。
二〇三九年。インフルエンザ発症者数が例年の1000分の1にまで落ちた。CDCはこれを自分たちの成果とした。
それもつかの間だった。
二〇四〇年。未知の感染症がアメリカ全土で流行っているとの情報がCDCに入った。非常に凶暴で、致死率は70%を超える。感染力も非常に強い。
CDCはすぐさまその病原体の解析を行った。
その病原体のRNAデータと七割一致するものがCDCの病原体データの中にあった。
そう、それこそがCDCがばら撒いたインフルエンザウイルスなのだ。しかし、二年の間に突然変異によって性質が大きく変わっていたのだ。CDCが無害化するために付け加えたRNA配列の一部が置き換わり、それがインフルエンザをこの上なく獰猛なもののしていた。
つまり、CDCがインフルエンザをいじったせいで、インフルエンザがヤバくなった、ということだ。
しかし、それに気づいた頃にはもう遅かった。パンデミックは世界中に広がり、アメリカの半分の人口が犠牲になっていた。
アメリカ全土で混乱が広がった。食料不足が特に深刻だった。食料を作る人、運ぶ人、売る人がインフルエンザにかかってしまったからだ。
警察もまた、機能を停止した。そのせいで犯罪が横行した。街で歩いている女性はレイプされ、店は強盗で商品が全部なくなり、かといって家にいればショットガンを持った男が襲撃してくるかもしれない。
アメリカのどこも安全じゃなかった。
私と父はTwenty-Fortyが起こった時、まだアメリカに住んでいた。原因不明のパンデミックが起こっていることはニュースで知っていた。その疫病自体よりも、いつ家に誰かが襲ってくるかの方が余程怖かったのを覚えている。
そんなとき、父が高熱を出した。
明らかにその流行りの病気だ。
私は父の看病をしようと父の部屋に入ろうとした。
鍵がかかっていた。
開けてと言っても開けてくれない。
寝てるのかと思い、数時間後に同じことをしたが、開けてくれない。
父の部屋にはドア以外の入り口がないので、ドアを開けてくれないと看護もできないし、ご飯も渡せない。
ドアの前でノックを続けているとき、私の第六感が働いた。
父は私に病を移したくないがためにドアを開けないのではないか
「開けて!」
私は叫びながらドアを叩いた。
ドアに突進して壊そうともした。
しかし、ドアは私を嘲笑うかのようにビクともしない。
このままでは父が死ぬ。
そのことを思うだけで胸のそこから気持ち悪い恐怖と冷たい焦りが湧いてくる。
消防に電話したが、前述した通りパンデミックのせいで機能を停止していた。
私は父が部屋で一人苦しむのを見殺しにするしかなかった。
私はドアの前で泣き噦った。そうしたら父が私を宥めに出てくるかもしれないという淡い期待を抱いて。
結局、父は出てこなかった。
消防・警察が機能を始めたのは翌年の四月からだった。何を隠そうか。私はこの時には完全に狂っていた。
私は警察が来たときほっとした。やっと父に会える。
警察がドアを開けたとき、父の香りがした。
警察が数人先に入った。
私も続いて部屋に入ろうとした。しかし、警察の一人が私の腕をしっかり掴んで離さない。
離して!
そう叫んで振り解こうとする。
暴れる私は数人の警察に抑えられ、警察署まで連れてかれた。
翌々日、父の遺体の状況を聞かされた。五ヶ月間の間で父の遺体は激しく腐敗していたらしい。また、父の遺体は二重のゴミ袋の中に入っていたのだ。部屋を汚さないようにするために自ら入ったと思われる。
いかにも父がやりそうなことだと私は笑った。
父の遺体は警察が火葬してくれた。
アメリカにも火葬業者はある。
収骨のとき、箸で父の足の骨を持ち上げた。
父は私が抱きついたときはいつも、がっしり受け止めてくれた。
その感覚がどっと私を襲った。
私が箸で持ち上げてる足は明らかに私を受け止めてくれた足とは違った。その感覚の差が私の身体で共振を起こした。
私はその場で嘔吐した。
もう一三二年前のことだが、一九一八年に、スペイン風邪というものが世界中で大流行した。スペイン風邪は英語でSpanish Flu。その名の通り、インフルエンザが引き起こしたパンデミックだった。
世界中で億単位の人が感染し、何千万人もの人が死んだ。有効な治療薬もなく、当時はどの病原体が引き起こしているかすらわからなかった。過去に例を見ない感染力と凶暴性をもつインフルエンザによって人類の存亡が脅かされていたのだ。
しかし翌年1919年、パンデミックは沈静化した。理由は明快だ。インフルエンザが毎年のごとく突然変異を起こし、獰猛な性質が弱まったからだ。
この話はTwenty-Fortyを知る上で重要だ。
アメリカ疾病予防管理センターはA型インフルエンザの無害化に何十年もの月日を費やしてきた。そしてついに二〇三八年に、インフルエンザの遺伝子改良によって無害化に成功したと発表した。そしてその無害化したインフルエンザをアメリカに大量にばら撒いた。CDCの研究に対して批判的または懐疑的に思う人は少なからずいたが、大半の人は賛成的でった。
だから、その翌々年に起こることを予想できた者はいなかった。
二〇三九年。インフルエンザ発症者数が例年の1000分の1にまで落ちた。CDCはこれを自分たちの成果とした。
それもつかの間だった。
二〇四〇年。未知の感染症がアメリカ全土で流行っているとの情報がCDCに入った。非常に凶暴で、致死率は70%を超える。感染力も非常に強い。
CDCはすぐさまその病原体の解析を行った。
その病原体のRNAデータと七割一致するものがCDCの病原体データの中にあった。
そう、それこそがCDCがばら撒いたインフルエンザウイルスなのだ。しかし、二年の間に突然変異によって性質が大きく変わっていたのだ。CDCが無害化するために付け加えたRNA配列の一部が置き換わり、それがインフルエンザをこの上なく獰猛なもののしていた。
つまり、CDCがインフルエンザをいじったせいで、インフルエンザがヤバくなった、ということだ。
しかし、それに気づいた頃にはもう遅かった。パンデミックは世界中に広がり、アメリカの半分の人口が犠牲になっていた。
アメリカ全土で混乱が広がった。食料不足が特に深刻だった。食料を作る人、運ぶ人、売る人がインフルエンザにかかってしまったからだ。
警察もまた、機能を停止した。そのせいで犯罪が横行した。街で歩いている女性はレイプされ、店は強盗で商品が全部なくなり、かといって家にいればショットガンを持った男が襲撃してくるかもしれない。
アメリカのどこも安全じゃなかった。
私と父はTwenty-Fortyが起こった時、まだアメリカに住んでいた。原因不明のパンデミックが起こっていることはニュースで知っていた。その疫病自体よりも、いつ家に誰かが襲ってくるかの方が余程怖かったのを覚えている。
そんなとき、父が高熱を出した。
明らかにその流行りの病気だ。
私は父の看病をしようと父の部屋に入ろうとした。
鍵がかかっていた。
開けてと言っても開けてくれない。
寝てるのかと思い、数時間後に同じことをしたが、開けてくれない。
父の部屋にはドア以外の入り口がないので、ドアを開けてくれないと看護もできないし、ご飯も渡せない。
ドアの前でノックを続けているとき、私の第六感が働いた。
父は私に病を移したくないがためにドアを開けないのではないか
「開けて!」
私は叫びながらドアを叩いた。
ドアに突進して壊そうともした。
しかし、ドアは私を嘲笑うかのようにビクともしない。
このままでは父が死ぬ。
そのことを思うだけで胸のそこから気持ち悪い恐怖と冷たい焦りが湧いてくる。
消防に電話したが、前述した通りパンデミックのせいで機能を停止していた。
私は父が部屋で一人苦しむのを見殺しにするしかなかった。
私はドアの前で泣き噦った。そうしたら父が私を宥めに出てくるかもしれないという淡い期待を抱いて。
結局、父は出てこなかった。
消防・警察が機能を始めたのは翌年の四月からだった。何を隠そうか。私はこの時には完全に狂っていた。
私は警察が来たときほっとした。やっと父に会える。
警察がドアを開けたとき、父の香りがした。
警察が数人先に入った。
私も続いて部屋に入ろうとした。しかし、警察の一人が私の腕をしっかり掴んで離さない。
離して!
そう叫んで振り解こうとする。
暴れる私は数人の警察に抑えられ、警察署まで連れてかれた。
翌々日、父の遺体の状況を聞かされた。五ヶ月間の間で父の遺体は激しく腐敗していたらしい。また、父の遺体は二重のゴミ袋の中に入っていたのだ。部屋を汚さないようにするために自ら入ったと思われる。
いかにも父がやりそうなことだと私は笑った。
父の遺体は警察が火葬してくれた。
アメリカにも火葬業者はある。
収骨のとき、箸で父の足の骨を持ち上げた。
父は私が抱きついたときはいつも、がっしり受け止めてくれた。
その感覚がどっと私を襲った。
私が箸で持ち上げてる足は明らかに私を受け止めてくれた足とは違った。その感覚の差が私の身体で共振を起こした。
私はその場で嘔吐した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる