簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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フィスカルボの諍乱

手がかり 3

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 フォルサンド邸の内外に散らばっていた凶賊きょうぞくの死体は、いったん庭園の端にある倉庫に集め、町で人手を集めて埋葬まいそうすることにした。死体を無造作に折り重ねておくのは忍びないが、かといって手厚く葬るには、その気持ちも人手も大きく不足している。
 黒いスカーフを巻いた死体の最後の一体を、従者の男女が運び終えた。そうしてようやく、ベアトリスたちは緊張きんちょうの糸が緩んでゆくのを感じた。
「アリサ、ルーデルス、ご苦労さま。とりあえずこれでいいわ。応接間に戻りましょう」
「ずいぶん邸内を汚してしまいました。掃除屋と教会を手配せねばなりませんね」
「フォルサンド邸も初日から、いやないわくがついたもんですな」
 鍵穴のまわりにひっかき傷がついた扉を開けながら、ラーゲルフェルトが他人事のようにぼやく。
「別にいいわ。不動産投資として買った屋敷ではないのだから」
はさりながら……」
 最大の功労者であるアルバレスが、なぜか浮かない顔をしている。
「なんです隊長さん、昨日の料理で腹でも壊しましたか?」
「……この男は放っておけばよかったですね」
 ベアトリスも同様に表情は晴れず、菫青石アイオライトの瞳も色あせて見える。
「そもそもなぜ、ここが暗殺者にばれたのかしら」
「そこなんです。尾行されていないことは、道中ずっと確認していたのですが……」
「そうよね。それに、この屋敷が私の所有であることは、フィスカルボではほとんど知られていないはずよ」
「僕はここに来たの初めてですよ」
「一体どこで知られたのかしら……」
「あー、ちょっと待ってください」
 ラーゲルフェルトは寝癖の残るブラウンの髪をきむしりながら応接間の椅子に座り、なにか思い出そうとしている。
「その鳥の巣のような頭から、えさにしていたパンくずでも道中にいてきたのですか? 目印として」
「君の料理よりは、ただのパンくずのほうが美味いかもな? ……最近、課税適正化のための財産登録法令、通称『スヴェドボリ法』が施行されたましたね」
「ええ」
「資産登録はもうお済みですか?」
「まるで申請を促す官吏かんりのような口ぶりね……もちろんよ。賛成票を投じた本人が未登記、なんて言行不一致は滑稽こっけいだわ」
 ベアトリスははっとした顔になった。
 とくに資産家に対する課税額を適正なものとするため、ノルドグレーン行政府はスヴェドボリ法を施行した。これは開明派の議員と多くの市民にとって、同年最大の政治的成果だと言える。同法に準ずるため、ベアトリスは膨大ぼうだいな数の資産を法務省に登記していたのだ。むろんその中には、このフォルサンド邸の情報も含まれている。どうやらそれがオットソン――あるいは彼にベアトリス暗殺をそそのかした誰か――に流出したのだろう。
「……なるほどね」
「まあ実際、この国で法務省を押さえたなら、かなり悪どいことも強引にまかり通せますからねえ」
 ベアトリスは脱力したようにため息をついた。
 ラーゲルフェルトの法務省退官に前後して、同省の人事図は、ある派閥に属する人士が急激に増えていったのだという。その派閥は後に「正統ローセンダール派」を名乗る一党で、首班しゅはんはヴァルデマル・ローセンダールである。
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