簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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フィスカルボの諍乱

夕凪 3

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 フォルサンド邸の倉庫に積み上げられている暗殺者の死体については、合法的な解決は望めそうにない。法に従い県令に報告すれば、オットソンは自分に対する威嚇いかくだと判断するだろう。ベアトリスの所領であるグラディスやランバンデットでの事件であれば、手段には事欠かない。だが、私兵を常駐させているわけではないフィスカルボにおいては、ラーゲルフェルトが独自に築いた人脈や金の力のほかに、穏便おんびんな手段は思い当たらなかった。
「オラシオは私と共に。エクレフの屋敷に向かうわよ」
「おっと……」
「どうかした?」
「いや、隊長さんの実力を軽く見るてわけじゃないですが、アリサちゃんをそっちに付けるべきですね」
 相変わらずラーゲルフェルトの口調は軽いが、その表情にはうわついた様子はない。その点はアルバレスにも伝わっているようで、今度は料理の奪い合いには発展しなかった。
「大金を持って貧民街に行くほうが、危険は多そうなものですが」
「とはいえ、見知った場所ですからね。歩き方は知ってます。一方エクレフの屋敷となれば、そこはまがうかたなき敵地です。エクレフ自身は友好的でも、『そうでない親戚』が同席しているかも知れませんよ」
「さっき私が言った、不確定要素が渦巻いていますね」
「というわけです」
 ラーゲルフェルトの言葉に、ベアトリスは静かにうなずいた。だが、納得できない者もいるようだ。
「ちょっと待って、なぜあたし? あたしの実力がルーデルスに劣るっていうの?」
「アリサ」
 食ってかかろうとする部下を、アルバレスが制する。ほぼ同格の立場にある従者として、アリサはルーデルスに対する強いライバル意識を持っているようだ。
「違いますよ。……僕がこれから行く場所は、女だからというそれだけの理由で、んです。不必要に突っかかってくる連中が多い」
「女だから、ってだけで……」
「貧民街に限った話……ではないけれどね」
「そういう点において、とくにあけすけで無遠慮な場所なんです。僕が行くのは。いや、僕もアリサちゃんと一緒のほうがいいんですけどね! いやあ残念だ」
「……アリサ、こっちへ来なさい」
「はい」
 アリサはテーブルに乗り出していた上体を引き、ベアトリスの右側に立った。

 エクレフの屋敷は広壮こうそうだが古風で、従兄弟いとこであるオットソンのそれとは対象的な建築だった。窓枠上部のアーチ以外は直線的なデザインを基調とし、まるで古い教会堂のようでもある。
 ベアトリスたち三人は、庭園で庭仕事をしていた老人を見つけ、彼に取りなしを頼むことにした。老人はひどく無愛想ぶあいそうで、無言のまま屋敷の入口をあごで示すだけだった。
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