簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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ノア王の心裏

欺瞞の空音 12

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「それと、その交渉に訪れた山賊なのですが……」
「まだ何かあるの?」
「かつて、ジュニエスの戦いのあと、ノア王と一緒にいるところを見かけた者がおります」
「……なんですって?」
 休息所についてから初めて、ベアトリスの表情が明確に曇った。――なぜこんなところで、ノア様の名が出てくるの?
「ノア様が山賊などと……」
 ベアトリスははっとして言葉を失った。
 思い至ったのは、ノルデンフェルト邸のサロンでフランシスから聞いた話だ。彼をヘルストランドの地下監獄から救い出した女山賊が、ノアと親しげに話していたという。当時のフランシス――名をヨアキム・クロンクヴィストと偽っていた――は政治犯であり、並の囚人よりも監視は厳しかったはずだ。そんな、困難な脱獄を成功させられるだけの能力とノアからの信頼を兼ね備えた無頼の徒は、いまどこで何をしているのだろうか。
「……その山賊は、男? 女?」
「両方でした。両名ともジュニエスのあと、ノア王と連れ立って歩いていたとか。複数の者が声を一にしております。見間違いということはないかと」
「そ、そう……」
 いま思えば、脱獄後ノアに会ったことを話していたときのフランシスは、ダニエラに制され、あきらかに何かをはぐらかしていた様子だった。情報通のフランシスならば、あるいは山賊の動向を知っていただろうか。――何に気を取られて詳細を聞きそこねたのだろう、私は。
 胸の奥でいくつもの不快な思いがふくらむ。鈴なりの疑惑の果実に光を当てぬよう、ベアトリスは遠くの山稜さんりょうを見やりつつ立ち上がった。
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