簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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ノア王の心裏

爪牙 3

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 マンスタ村の住民は、領主であるベアトリス・ローセンダールの到来を歓呼かんこをもって迎えた。この時代、都市から離れた土地に住む者たちのほとんどは、彼ら彼女らの領主の顔など知らずにその一生を終える。またベアトリスの名は時の人としてとくに知れ渡っており、貴人にまみえるまたとない機会に村じゅうが沸いていた。

 ベアトリスたちの到着まで、村人たちは自警団を組織して警備に当たっていた。その任は二つある守備部隊の一方に引き継がれた。
 百人編成の小隊が二部隊というのは、軍勢としては小規模だ。とはいえよく訓練されて統制は取れており、ほとんどの兵士がジュニエスの戦いで経験も積んでいる。
 むろんベアトリスが理想とするところは、交渉が望ましい結果に終わり、彼らが剣を抜くことなくランバンデッドに帰還する未来だ。だがその交渉が決裂した場合と、マンスタ村の住民を安心させるためにも、二百人の熟練兵というのは最低限必要の戦力だった。
 ただ、人口五百人に満たないマンスタ村には、守備部隊を駐留させられるだけの設備も食料供給能力もない。ベアトリスは近隣の中小都市から物資を集めさせつつ、郊外の休耕地きゅうこうちに陣幕を築いて部隊の拠点とした。

 不安に駆られたマンスタ村の住人が、山賊と小競り合いを起こしてしまわないか――道中、ベアトリスの胸中にはそんな危惧きぐがちらついていた。一応、ヴァルデマルに占拠される以前から、鉱山にはみだりに近づかないよう布告がなされている。幸いなことに、村人たちはその指示を忠実に守っていたようだ。
 その結果として、マンスタ村には山賊についての有力な情報を持っている村人はいなかった。ベアトリスがあらためてスタインフィエレット鉱山の様子を確認させると、やはり今も変わらず、山賊たちに占拠されているようだ。
 マンスタ村到着から二日後、ベアトリスはみずからスタインフィエレット鉱山に向かった。

 マンスタ村からさらに北東に半日ほど、左右にアカマツの木々が青々と針状の葉を伸ばす林道を進むと、スタインフィエレット鉱山はひっそりとその入り口を開いている。鉱山の入口付近は樹木が伐採され、地面は平らにならされていた。そこに軍隊ふうの陣幕や、仮組みの小屋に帆布ほぬのをかぶせた家屋がいくつも建てられている。
「まだひと月も経っていないのに、よくここまで住環境を整えたものね」
 ベアトリスは素直に感心の声をあげた。アリサとルーデルスは信じられないという顔をしている。以前にベアトリスから鉱山を強奪したヴァルデマルの軍勢は、このような建築技術は持っていなかった。
 山賊、盗賊といった者たちも、生まれついてのだったわけではない。多くの者はそれぞれに、生まれた町や村に住み続けられない理由を抱えている。そして生きるために徒党を組んで、汚れ仕事を生業なりわいとする人生を選ばざるを得なかったのだ。
 たとえば、何らかの建設事業にたずさわっていた技術者たちがまとめて行き場を失い、いま山賊を生業としているのなら、ベアトリスの眼前に広がる光景もそれほど不思議なものではないだろう。
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