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ノア王の心裏
Lの円環 9
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「近衛兵の隊長を倒し、フランシス・エーベルゴードに同行して、ノア様と話していたという先代の首領……その人物は、今どこにいるのかしらね」
バックマンとアウロラからその話を聞いたとき――実のところベアトリスは、ノアのことに気を取られるあまり、その重要人物については聞き落としていていたのだった。もちろんその事実は口に出さずに話を続ける。
「あのアウロラという少女……あれほどの力の持ち主がもう一人いるのだとしたら、私でもお手上げですよ」
「先代、というくらいだから、今はもういないのかもしれない。けど……何者かは調べておくべきだわ」
「じゃあ、フランシスさんに会いに行くんですか? 今はたぶん、もうカッセルに戻ってると思いますけど……」
「……いいえ。おそらく地下監獄の件については、フランシス・エーベルゴードに問いただしても、これ以上なにも出てこないでしょう。けれど、近衛兵の隊長を倒した件については、まだ何とかなるかもしれない」
「インクヴァル・アムレアン隊長ですか……懐かしいですね」
「知ってるんですか?」
「まあ、いちど面晤したに過ぎませんけどね。とはいえ実力のほどは確かでしたよ。すくなくともアリサやルーデルスあたりが、まともにやりあって勝てる相手ではないです。さらにその部下もつわもの揃いですし……だからこそリードホルム近衛兵は、各国から脅威とみなされていたわけです」
「それだけの集団が討伐に出て、あのエル・シールケルはそれを退けたわけね……」
アルバレスは過去にいっときだけ、リードホルム近衛兵と関係があったと噂されている。いまの言葉はそれを裏付けるものだ。だが当然ながら、近衛兵の末路についてまでアルバレスが知っているはずもない。ベアトリスは別の情報源に当たる必要があった。
グラディスの生家に到着してすぐに、ベアトリスはミットファレット特別県の県令代理エディット・フォーゲルクロウへ伝令使を走らせた。
エディットはかつて、首都ベステルオースの内務省治安維持局で要職に就いていた、ベアトリスの友人である。一方、政治の世界では、権謀術数に長けた人物としても知られていた。それを支えていたのが、彼女が築き上げた独自の情報網だ。当時の広汎な情報網を、エディットはまだ維持しているという。彼女に、エル・シールケルの過去についての調査を依頼したのだ。
エディットへの使者は十日後に戻ってきた。
「フォーゲルクロウ女史は調査を承諾しましたが、金銭を要求してきました。それも八十万クローナという大金です」
「……構わないわ。全額払いなさい」
「よいのですか?」
「彼女自身のふところにすべて入るわけではないでしょう。おそらく大半は、外務省から情報を引き出すために必要なお金よ」
リードホルム近衛兵が山賊――エル・シールケル討伐に出征した件は、ノルドグレーンの内通者であるシーグムンド・エイデシュテット宰相が絡んでいたと言われる。ノルドグレーン外務省にとって重要機密であり、容易には手を出せない情報なのだ。
「なるほど。情報網の要路に立つ人物たちに、賄賂……それ相応の報酬を渡す必要があると」
「エディットさんの裏に私がいるとなったら、なおさらね。なにしろ私はノア王と懇意にしているのだから」
「リードホルムには渡したくない情報なのでしょうね」
「その点を含めて考量すれば、八十万というのは決して高い金額ではないわ。それもひとえに、彼女が持つ人脈の力なのでしょう」
バックマンとアウロラからその話を聞いたとき――実のところベアトリスは、ノアのことに気を取られるあまり、その重要人物については聞き落としていていたのだった。もちろんその事実は口に出さずに話を続ける。
「あのアウロラという少女……あれほどの力の持ち主がもう一人いるのだとしたら、私でもお手上げですよ」
「先代、というくらいだから、今はもういないのかもしれない。けど……何者かは調べておくべきだわ」
「じゃあ、フランシスさんに会いに行くんですか? 今はたぶん、もうカッセルに戻ってると思いますけど……」
「……いいえ。おそらく地下監獄の件については、フランシス・エーベルゴードに問いただしても、これ以上なにも出てこないでしょう。けれど、近衛兵の隊長を倒した件については、まだ何とかなるかもしれない」
「インクヴァル・アムレアン隊長ですか……懐かしいですね」
「知ってるんですか?」
「まあ、いちど面晤したに過ぎませんけどね。とはいえ実力のほどは確かでしたよ。すくなくともアリサやルーデルスあたりが、まともにやりあって勝てる相手ではないです。さらにその部下もつわもの揃いですし……だからこそリードホルム近衛兵は、各国から脅威とみなされていたわけです」
「それだけの集団が討伐に出て、あのエル・シールケルはそれを退けたわけね……」
アルバレスは過去にいっときだけ、リードホルム近衛兵と関係があったと噂されている。いまの言葉はそれを裏付けるものだ。だが当然ながら、近衛兵の末路についてまでアルバレスが知っているはずもない。ベアトリスは別の情報源に当たる必要があった。
グラディスの生家に到着してすぐに、ベアトリスはミットファレット特別県の県令代理エディット・フォーゲルクロウへ伝令使を走らせた。
エディットはかつて、首都ベステルオースの内務省治安維持局で要職に就いていた、ベアトリスの友人である。一方、政治の世界では、権謀術数に長けた人物としても知られていた。それを支えていたのが、彼女が築き上げた独自の情報網だ。当時の広汎な情報網を、エディットはまだ維持しているという。彼女に、エル・シールケルの過去についての調査を依頼したのだ。
エディットへの使者は十日後に戻ってきた。
「フォーゲルクロウ女史は調査を承諾しましたが、金銭を要求してきました。それも八十万クローナという大金です」
「……構わないわ。全額払いなさい」
「よいのですか?」
「彼女自身のふところにすべて入るわけではないでしょう。おそらく大半は、外務省から情報を引き出すために必要なお金よ」
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「なるほど。情報網の要路に立つ人物たちに、賄賂……それ相応の報酬を渡す必要があると」
「エディットさんの裏に私がいるとなったら、なおさらね。なにしろ私はノア王と懇意にしているのだから」
「リードホルムには渡したくない情報なのでしょうね」
「その点を含めて考量すれば、八十万というのは決して高い金額ではないわ。それもひとえに、彼女が持つ人脈の力なのでしょう」
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