簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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ノア王の心裏

王の来訪 4

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「……わかりました。次の議会までに人選を済ませておきますわ」
「ランバンデッドは、公国にとって八十五年ぶりの新領土である。その栄誉に恥じぬようにな」
「はい」
 ヴァルデマルは鉱山の一件を忘れているかのようにふんぞり返っている。その不敵な態度を見れば、言外ごんがいの意図があることだけは明白だろう。
 ランバンデッドの件を承諾したベアトリスではあったが、その麾下きかに県令の候補となれそうな人物が乏しい、という問題を抱えていた。現時点での腹案ふくあんとしては、ベアトリス自身が兼任する、あるいは、父エーリクを名目上のグラディス県令とし、ランバンデットにベアトリスが赴任する、といったところだろう。
 いずれにせよ、次の最高議会までの三ヶ月間のうちに、ヴァルデマルの真意を探り出すことのほうが先決問題である。

 最高議会を終えたその日のうちに、ベアトリスは首都ベステルオースをあとにした。そして戻ったグラディスでは、驚くべき報告がベアトリスを待ち受けていた。
「なんですって!?」
 ベアトリスはここ二年でもっとも大きな声をあげた。これほど声を張り上げたのは、ジュニエスの戦いで号令を発したとき以来のことかもしれない。
 リードホルムの若き氷河王ノアが、ベアトリスの所領であるランバンデッドの視察を申し入れてきたという。
 三年半ほど前に即位して以来、王都ヘルストランドから動かなかったノアが行啓ぎょうけいすること自体、まず前例がない。さらにその行き先がベステルオースではなくランバンデッドだというのだから、リードホルム内でも驚きの声が上がっていることだろう。
「……政務に区切りがついたので、余裕のあるうちにグラディスを見てみたい……と、ノア王たっての希望だそうです」
「そう。こ、困ったわね……」
 淡々と説明するルーデルスに、ベアトリスは複雑な顔をつくる。
「視察って言われたって……ノア様を迎えられるような立派な屋敷、ランバンデッドにはないですよね」
「そうなのよね……」
 ベアトリスとアルバレスは、アリサの言葉にうなずいた。
 ランバンデッドには、交易商が泊まるための宿はいくつか建てられている。だが王侯貴族を迎えるような豪邸や、フィスカルボのスヴァルトラスト・ヴァードシュースのような高級な宿は存在しない。建てる予定はあるのだが、いまは質よりも数を優先するため後回しにしていたのだ。
 もっとも豪華、壮麗そうれいと言える建物は、ベアトリスが滞在時に利用している、ランバンデッド湖畔こはんの邸宅だ。外壁は粘板岩ねんばんがんのスレートで覆われ、湖面の照り返しを受けてうっすらと緑色に輝く様子はベアトリスも気に入っている。だがそれでさえ、豪邸と呼べるような規模、内装ではない。もともと官舎としての利用を前提に建築されたもので、いまはベアトリスの居住区域以外、都市管理委員会の詰め所として利用されている。
「ランバンデッドはその成り立ちから言って、非常に珍しい都市です。それに、リードホルム側に行けばすぐにソルモーサン砦、すなわち国境くにざかいにもっとも近い都市でもありますからね。実際に見ておきたいというノア王の心情もうなずけます」
「それは、そうね……」
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