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ノルドグレーン分断
心の枷 5
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もと王女であるという権威を利用したものか、あるいはアルバレスのような特別な力を持っていたのか、リースベットはエル・シールケルを作り上げたのだ。その集団はやがてリードホルム近衛兵さえも打ち破る存在となり、今もその命脈を保ち続けている。
手紙の写しにはまだ続きがある。ここまでに判明した事実に比べれば、続く内容はベアトリスを驚かせるものではなく、以前からまことしやかに囁かれていた風聞や、ベアトリスの予測を裏付けるものだった。
<これまで三度おこなった討伐を退けた実績からして、ティーサンリードは極めて油断のならない賊徒である。万全を期するには近衛兵の出征をおいて手段はありえない。またアウグスティン大公の暗殺者でもあるから、事後的には近衛兵が出向くだけの大義名分も立つであろう。>
「なるほど……リードホルムはもう軍事的にあとがなく、かつ大逆犯の討伐という名目があれば、国王直属の近衛兵が動く理由としては充分ね」
<手続き上やむを得なかったとはいえ、さきにリースベットの手配書が配布されてしまったことが悔やまれる。四角四面のサンテソンめが、強硬に前例どおりの事務手続きを進めたためだ。これによって賊徒どもに守りを固める猶予を与えてしまうだろう。だが、こちらもリースベットとそれ以外の鉱夫くずれどもを分断する策を講じてある。これが成功すれば、戦わずしてリースベットを葬れるだろう>
この一節には注釈として別紙が添えられていた。「同時期に起きた王立ノルシェー研究所(八年以上前に閉鎖)の炎上が関連していると思われる」とあるが、詳細は記されていない。エディットの情報網をもってしても、リードホルム国内で起きた閉鎖済み研究施設の火災などという事件は調べきれなかったようだ。
<それでも、まさかとは思うものの、近衛兵が敗北するという結果も考えないでもない。万が一、近衛兵が負けるようなことがあれば、それはすなわちリードホルム軍の大幅な弱体化と同義である。その時はノルドグレーン軍によるリードホルム侵攻も選択肢となり得るだろう>
このくだりはベアトリスの予想通りだった。一方エイデシュテットには、実はここで予想もできない事態が発生していた。
当時、リードホルム近衛兵はふたつの派閥に分裂していたのだ。従来からの隊長だったインクヴァル・アムレアンの派閥と、後に加入したエリオット・フリークルンドの二派である。確かな実力と寛容さを兼ね備えたアムレアンの派閥が多数派だったが、他方のフリークルンドは生真面目で融通のきかぬ性格ながら圧倒的な実力の持ち主で、少数の隊員もそれに倣うように実力者揃いだったという。
時のヴィルヘルム王はこの対立を問題視せず、それどころか早馬の競走のように観賞し、煽ってさえいたきらいがある。
エル・シールケル討伐に出陣したのはアムレアン隊で、実質の戦力としては半分ほどでしかなかったのだ。リードホルム近衛兵は、おのれの実力の過信と敵戦力の軽視、そして戦いに臨んで戦力を分散するという三つの愚を犯し、果してエイデシュテットの危惧した「万が一」は現実となった。
その結果を受けてノルドグレーンでは、当時まだ二十歳にならぬ、家督を継いで三年足らずのベアトリスに、出征軍の編成と総指揮が一任された。この人選は、グラディス・ローセンダール家の兵力損耗を企図したヴァルデマルの意向が強く反映されたものである。だがベアトリスはこれを奇貨として版図と財力を伸長させ、かえってヴァルデマルに対抗しうる勢力にまで成長したのだった。
手紙の写しにはまだ続きがある。ここまでに判明した事実に比べれば、続く内容はベアトリスを驚かせるものではなく、以前からまことしやかに囁かれていた風聞や、ベアトリスの予測を裏付けるものだった。
<これまで三度おこなった討伐を退けた実績からして、ティーサンリードは極めて油断のならない賊徒である。万全を期するには近衛兵の出征をおいて手段はありえない。またアウグスティン大公の暗殺者でもあるから、事後的には近衛兵が出向くだけの大義名分も立つであろう。>
「なるほど……リードホルムはもう軍事的にあとがなく、かつ大逆犯の討伐という名目があれば、国王直属の近衛兵が動く理由としては充分ね」
<手続き上やむを得なかったとはいえ、さきにリースベットの手配書が配布されてしまったことが悔やまれる。四角四面のサンテソンめが、強硬に前例どおりの事務手続きを進めたためだ。これによって賊徒どもに守りを固める猶予を与えてしまうだろう。だが、こちらもリースベットとそれ以外の鉱夫くずれどもを分断する策を講じてある。これが成功すれば、戦わずしてリースベットを葬れるだろう>
この一節には注釈として別紙が添えられていた。「同時期に起きた王立ノルシェー研究所(八年以上前に閉鎖)の炎上が関連していると思われる」とあるが、詳細は記されていない。エディットの情報網をもってしても、リードホルム国内で起きた閉鎖済み研究施設の火災などという事件は調べきれなかったようだ。
<それでも、まさかとは思うものの、近衛兵が敗北するという結果も考えないでもない。万が一、近衛兵が負けるようなことがあれば、それはすなわちリードホルム軍の大幅な弱体化と同義である。その時はノルドグレーン軍によるリードホルム侵攻も選択肢となり得るだろう>
このくだりはベアトリスの予想通りだった。一方エイデシュテットには、実はここで予想もできない事態が発生していた。
当時、リードホルム近衛兵はふたつの派閥に分裂していたのだ。従来からの隊長だったインクヴァル・アムレアンの派閥と、後に加入したエリオット・フリークルンドの二派である。確かな実力と寛容さを兼ね備えたアムレアンの派閥が多数派だったが、他方のフリークルンドは生真面目で融通のきかぬ性格ながら圧倒的な実力の持ち主で、少数の隊員もそれに倣うように実力者揃いだったという。
時のヴィルヘルム王はこの対立を問題視せず、それどころか早馬の競走のように観賞し、煽ってさえいたきらいがある。
エル・シールケル討伐に出陣したのはアムレアン隊で、実質の戦力としては半分ほどでしかなかったのだ。リードホルム近衛兵は、おのれの実力の過信と敵戦力の軽視、そして戦いに臨んで戦力を分散するという三つの愚を犯し、果してエイデシュテットの危惧した「万が一」は現実となった。
その結果を受けてノルドグレーンでは、当時まだ二十歳にならぬ、家督を継いで三年足らずのベアトリスに、出征軍の編成と総指揮が一任された。この人選は、グラディス・ローセンダール家の兵力損耗を企図したヴァルデマルの意向が強く反映されたものである。だがベアトリスはこれを奇貨として版図と財力を伸長させ、かえってヴァルデマルに対抗しうる勢力にまで成長したのだった。
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