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ノルドグレーン分断
訣別の朝 3
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「もしオットソンが僕の目を欺いているとしたら、彼は大衆演劇の役者になったほうがいいですね。歴史に名が残りますよ」
「そこは確信があるのね?」
「請け合います。あれ以後たびたび話し合いの席を持ちましたが、あれは意外なほど直情的な男です。腹芸はそんなに得意じゃない」
「まあ、そうでなければ、決闘などという暴挙には出なかったでしょう」
「確かにそうね」
「そのへんの温度感を伝えるために、僕はわざわざ雪の中をすっ飛んできたんですから」
ラーゲルフェルトの所感では、オットソンのヴァルデマルに対する嫌悪はなかなかに根源的なものだった。新しい技術や制度を積極的に取り入れて変革を進めてゆく、という志向の強いオットソンに対し、ヴァルデマルはそれと逆行するように、価値観も制度も旧弊な時代に戻そうとしているのだ。
もっとも、ヴァルデマルのほうには古い新しいという尺度はなく、あくまで縁故主義的に自己の権益を強化すべく振る舞っているに過ぎないのだが。
「でも……オットソンが味方になるって言っても、オーヴァシエルって強い軍隊とかありましたっけ?」
「そうですね。オットソンが有力な私兵部隊を持っていれば、主公様への抵抗もまた違った形でなされていたはずです」
「その点はアリサちゃんと隊長さんの言うとおり。財力はあるので数を集めることはできますが、それを動かせる能力も装備もありません。まあ烏合の衆でしょうな」
「……わかったわ」
ベアトリスは積極的に発言することなく、もっぱらアルバレスとラーゲルフェルトの議論が進むに任せていた。
商才はともかく軍事の経験、知識に乏しいオットソンがヴァルデマルから侵攻を受けた場合、単独で退けることはできないだろう。だが、グラディスからグスタフソンが加勢すれば話は別だ。グスタフソン連隊は、現在のノルドグレーンでもっとも高い練度、武装を誇る部隊である。いちど戦って手痛い逆撃を被ったニーダールなどは、再戦の機会を与えられても言を左右にして拒絶することだろう。
だがグスタフソンの一隊だけで、グラディスからフィスカルボまでの東西百数十キロに渡る防衛線を維持することは不可能に近い。ベアトリスの所領の防衛のみを考えるならば、戦力をグラディスに集中したほうが遥かに守りやすいのだ。
「難しいところですね。味方が増えるというのは吉報ですが、純軍事的には必ずしも歓迎できない一面があります」
「……それを踏まえた上で、考えていた計画があるわ」
言葉少なに話を追っているだけだったベアトリスが、静かにうなずいてから口を開いた。
「いま私が採れる道はふたつ。公国の反逆者としてベステルオースに帰参し、議会に……ヴァルデマルに許しを請うか、汚名を拒絶して戦うか、よ」
「そんな……。冤罪を訴えて、議会の決定をひっくり返すことはできないんですか?」
「残念ながらね。思っていたよりもずっと政情は悪いらしいわ」
「後者の道が、ノルドグレーン全体を敵に回すことと同義だとしたら……さすがに分が悪すぎます。グスタフソン連隊と私があと二人ずつは必要ですよ。それに比べ、いくらか穏便に済みそうなのは前者なのでしょうが……」
「フローケン・フォーゲルクロウの報告どおりなら、それすら危ういことでしょう。ヴァルデマルは、恭順の意を示した貴女をさえ手にかける可能性があります」
「そう考えるべきね。もはや、公国憲章に気を使って私を合法的に併呑する必要すらない段階なのだから」
ベアトリスはひとつ息を吸って間をおいた。
「だから私は拒絶の道を選びます。ここで私がヴァルデマルに下っては、父と母の墓前に顔向けならないわ」
「そこは確信があるのね?」
「請け合います。あれ以後たびたび話し合いの席を持ちましたが、あれは意外なほど直情的な男です。腹芸はそんなに得意じゃない」
「まあ、そうでなければ、決闘などという暴挙には出なかったでしょう」
「確かにそうね」
「そのへんの温度感を伝えるために、僕はわざわざ雪の中をすっ飛んできたんですから」
ラーゲルフェルトの所感では、オットソンのヴァルデマルに対する嫌悪はなかなかに根源的なものだった。新しい技術や制度を積極的に取り入れて変革を進めてゆく、という志向の強いオットソンに対し、ヴァルデマルはそれと逆行するように、価値観も制度も旧弊な時代に戻そうとしているのだ。
もっとも、ヴァルデマルのほうには古い新しいという尺度はなく、あくまで縁故主義的に自己の権益を強化すべく振る舞っているに過ぎないのだが。
「でも……オットソンが味方になるって言っても、オーヴァシエルって強い軍隊とかありましたっけ?」
「そうですね。オットソンが有力な私兵部隊を持っていれば、主公様への抵抗もまた違った形でなされていたはずです」
「その点はアリサちゃんと隊長さんの言うとおり。財力はあるので数を集めることはできますが、それを動かせる能力も装備もありません。まあ烏合の衆でしょうな」
「……わかったわ」
ベアトリスは積極的に発言することなく、もっぱらアルバレスとラーゲルフェルトの議論が進むに任せていた。
商才はともかく軍事の経験、知識に乏しいオットソンがヴァルデマルから侵攻を受けた場合、単独で退けることはできないだろう。だが、グラディスからグスタフソンが加勢すれば話は別だ。グスタフソン連隊は、現在のノルドグレーンでもっとも高い練度、武装を誇る部隊である。いちど戦って手痛い逆撃を被ったニーダールなどは、再戦の機会を与えられても言を左右にして拒絶することだろう。
だがグスタフソンの一隊だけで、グラディスからフィスカルボまでの東西百数十キロに渡る防衛線を維持することは不可能に近い。ベアトリスの所領の防衛のみを考えるならば、戦力をグラディスに集中したほうが遥かに守りやすいのだ。
「難しいところですね。味方が増えるというのは吉報ですが、純軍事的には必ずしも歓迎できない一面があります」
「……それを踏まえた上で、考えていた計画があるわ」
言葉少なに話を追っているだけだったベアトリスが、静かにうなずいてから口を開いた。
「いま私が採れる道はふたつ。公国の反逆者としてベステルオースに帰参し、議会に……ヴァルデマルに許しを請うか、汚名を拒絶して戦うか、よ」
「そんな……。冤罪を訴えて、議会の決定をひっくり返すことはできないんですか?」
「残念ながらね。思っていたよりもずっと政情は悪いらしいわ」
「後者の道が、ノルドグレーン全体を敵に回すことと同義だとしたら……さすがに分が悪すぎます。グスタフソン連隊と私があと二人ずつは必要ですよ。それに比べ、いくらか穏便に済みそうなのは前者なのでしょうが……」
「フローケン・フォーゲルクロウの報告どおりなら、それすら危ういことでしょう。ヴァルデマルは、恭順の意を示した貴女をさえ手にかける可能性があります」
「そう考えるべきね。もはや、公国憲章に気を使って私を合法的に併呑する必要すらない段階なのだから」
ベアトリスはひとつ息を吸って間をおいた。
「だから私は拒絶の道を選びます。ここで私がヴァルデマルに下っては、父と母の墓前に顔向けならないわ」
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