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ノルドグレーン分断
政略結婚 4
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「とはいえ、この状況下でグラディス・ローセンダール家と手を結ぶということは、ノルドグレーンとの明確な敵対を意味します。ノア王自身は、主公様の軍事力という後ろ盾を得てリードホルム内では主導権を得られる。一方で、より強大なノルドグレーンという敵が生まれることになります。その得失を天秤にかけたとして、はたして……」
「そこは……なんとか説得するしかないわね。この際こじつけでも何でもいいわ」
「……おそらくノア王は、ジュニエスの休戦協定が効いている七年のうちにどれだけ国力を立て直せるか、という短距離の戦車競走のように今の治世を考えているはずです。そこで競争相手のノルドグレーンが内紛で勝手に減速してくれるなら、ノア王としては重畳この上ないといったところでしょうな」
伏し目がちだったラーゲルフェルトが、ようやくはっきりと顔を上げた。声の調子もいつもの軽さを取り戻し、明日なにを食べるか相談するように物騒な謀議をこらす様子も以前のとおりだ。
「ついでにこうしましょうか。……ノルドグレーン主流派はもともと一枚岩じゃありません。根底の部分ではいがみ合っている連中が、ノルドグレーン公国憲章と権威に裏付けられた利害で結びついてるだけです。そこであなたが領土を保持したまま離反されれば、他の有力な県令たちはこう気付くでしょう。議会に、憲章に従っている理由などなかったのではないか、と。では連合してヴァルデマルを打倒してしまえば……と、ノルドグレーン国内が割れるよう仕向けましょうかね」
「それは任せてもいいのね、ラーゲルフェルト?」
「今までフィスカルボで似たようなことをやってたのと比べると、だいぶカネはかかりますけどね」
リードホルムにおける議会設立の話を受けてか、ラーゲルフェルトは覚悟を決めたようだ。
「しかしヴァルデマルも、そうならぬように“反逆者討伐”などという旗印の下に諸侯をまとめあげようとするでしょうが……」
「それはその時、戦うしかないでしょうな。“一つのノルドグレーン”という幻想を失った、足並みの揃わぬ烏合の衆と。さて一体どこの県令が、ローセンダール家の内紛に巻き込まれて戦力を減ずる貧乏くじを引くことになるのやら」
「醜悪な押し付け合いが始まりそうね」
ラーゲルフェルトの変節がもたらした影響は大きい。アリサは、冷たく張りつめていた議場内の空気が水を含んで和らいだように感じていた。
「フィスカルボっていえば、オットソンのことはどうするんです? 味方になるとは言ってたみたいですけど」
「その情報を運んでこの男は、わざわざこのランバンデッドまでやってきたんでしたね。伝書鳩のように」
アルバレスはラーゲルフェルトの頭髪を見ながら言った。そのブラウンのくせ毛は、さきほど持ち主に散々かきむしられたせいで、肉食獣に荒らされた小鳥の巣のように乱れきっている。
「君も怪鳥とか呼ばれてんだから、グラディスくらいまで飛んでったらどうだ?」
アリサだけが笑いをこらえている。
「そこは……なんとか説得するしかないわね。この際こじつけでも何でもいいわ」
「……おそらくノア王は、ジュニエスの休戦協定が効いている七年のうちにどれだけ国力を立て直せるか、という短距離の戦車競走のように今の治世を考えているはずです。そこで競争相手のノルドグレーンが内紛で勝手に減速してくれるなら、ノア王としては重畳この上ないといったところでしょうな」
伏し目がちだったラーゲルフェルトが、ようやくはっきりと顔を上げた。声の調子もいつもの軽さを取り戻し、明日なにを食べるか相談するように物騒な謀議をこらす様子も以前のとおりだ。
「ついでにこうしましょうか。……ノルドグレーン主流派はもともと一枚岩じゃありません。根底の部分ではいがみ合っている連中が、ノルドグレーン公国憲章と権威に裏付けられた利害で結びついてるだけです。そこであなたが領土を保持したまま離反されれば、他の有力な県令たちはこう気付くでしょう。議会に、憲章に従っている理由などなかったのではないか、と。では連合してヴァルデマルを打倒してしまえば……と、ノルドグレーン国内が割れるよう仕向けましょうかね」
「それは任せてもいいのね、ラーゲルフェルト?」
「今までフィスカルボで似たようなことをやってたのと比べると、だいぶカネはかかりますけどね」
リードホルムにおける議会設立の話を受けてか、ラーゲルフェルトは覚悟を決めたようだ。
「しかしヴァルデマルも、そうならぬように“反逆者討伐”などという旗印の下に諸侯をまとめあげようとするでしょうが……」
「それはその時、戦うしかないでしょうな。“一つのノルドグレーン”という幻想を失った、足並みの揃わぬ烏合の衆と。さて一体どこの県令が、ローセンダール家の内紛に巻き込まれて戦力を減ずる貧乏くじを引くことになるのやら」
「醜悪な押し付け合いが始まりそうね」
ラーゲルフェルトの変節がもたらした影響は大きい。アリサは、冷たく張りつめていた議場内の空気が水を含んで和らいだように感じていた。
「フィスカルボっていえば、オットソンのことはどうするんです? 味方になるとは言ってたみたいですけど」
「その情報を運んでこの男は、わざわざこのランバンデッドまでやってきたんでしたね。伝書鳩のように」
アルバレスはラーゲルフェルトの頭髪を見ながら言った。そのブラウンのくせ毛は、さきほど持ち主に散々かきむしられたせいで、肉食獣に荒らされた小鳥の巣のように乱れきっている。
「君も怪鳥とか呼ばれてんだから、グラディスくらいまで飛んでったらどうだ?」
アリサだけが笑いをこらえている。
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