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ノルドグレーン分断
政略結婚 3
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「しかし、今までリードホルムでは、そんな動きは全く……」
「それはそうよ。理解はあっても推進すべき理由はないのだから。王家と門閥貴族との力関係が拮抗しているリードホルムで、うまく利害を調整しながら王国を立て直している、というのが今のノア様が置かれた状況よ。そんな中では無理に改革を進めることはできないわ。けれど、今の私の力がノア様と……リードホルム王家と一体化すれば、勢力図は逆転するわ」
「なるほど。さらに言うなら、議会というものは既得権を貴族たちから奪う性質も持ちます。ノア王にとっても議会設立は損のない話ですね」
「しかし、それで民衆は納得するものでしょうか?」
「そう、そこです。議会制を二百年続けてきたノルドグレーンとは違うんですよ」
ラーゲルフェルトとオーデンバリが口を揃えて反論する。図らずも、ベアトリスの右手側に座っているラーゲルフェルトとオーデンバリがベアトリスの方針に異を唱える論陣を張り、左手側のアルバレスがベアトリスの論理を補佐するという構図になっていた。
「いいえ、リードホルムの国民は王によって変わるのよ。前王ヴィルヘルムの代には卑屈で不公正だったものが、王の人格によって、公正で寛容にさえ……王が、上に立つものが範を示せばね。……こう言うとリードホルムの民を愚弄しているようだけれど、君主とは、王政とはそういうものよ」
「その点は、とかく自分の意見を言え――とわがままに育てられたノルドグレーンの市民とは違う、というわけですね」
「良くも悪くも、ね」
「しかし、リードホルムの民衆は、長いあいだ国王の権力に従う制度のもとで暮らしてきました。それを突然、お前たちで代表者を選んで決めろ、と放り出されても……」
「それなら、ちょうど私がいまヘルストランド郊外に作っている学校で、議会制を民衆に教えるのもいいかしらね」
ベアトリスは涼しい顔でラーゲルフェルトの反論に応えた。言い込められたラーゲルフェルトだったが、その表情には婚嫁を聞いた直後よりも生気が戻ってきている。
むろん学校の建設を決めた時点では、ベアトリスはここまで見通していたわけではない。リードホルム国内におけるローセンダール家の印象操作――リードホルムの一部高官に言わせれば売名行為――のために始めた事業だったが、思わぬところでベアトリスの未来を構成する一要素となった。
何よりベアトリスには、ノアに議会制を進言すれば受け入れてくれるだろうという確信があった。ノアがランバンデッドの視察に訪れた最後の夜、彼は民衆の持つ力について語っていた。その力は、議会という制度によってもっとも平和的に行使され得るものなのだ。
「とはいえ、この状況下でグラディス・ローセンダール家と手を結ぶということは、ノルドグレーンとの明確な敵対を意味します。ノア王自身は、主公様の軍事力という後ろ盾を得てリードホルム内では主導権を得られる。一方で、より強大なノルドグレーンという敵が生まれることになります。その得失を天秤にかけたとして、はたして……」
「そこは……なんとか説得するしかないわね。この際こじつけでも何でもいいわ」
「それはそうよ。理解はあっても推進すべき理由はないのだから。王家と門閥貴族との力関係が拮抗しているリードホルムで、うまく利害を調整しながら王国を立て直している、というのが今のノア様が置かれた状況よ。そんな中では無理に改革を進めることはできないわ。けれど、今の私の力がノア様と……リードホルム王家と一体化すれば、勢力図は逆転するわ」
「なるほど。さらに言うなら、議会というものは既得権を貴族たちから奪う性質も持ちます。ノア王にとっても議会設立は損のない話ですね」
「しかし、それで民衆は納得するものでしょうか?」
「そう、そこです。議会制を二百年続けてきたノルドグレーンとは違うんですよ」
ラーゲルフェルトとオーデンバリが口を揃えて反論する。図らずも、ベアトリスの右手側に座っているラーゲルフェルトとオーデンバリがベアトリスの方針に異を唱える論陣を張り、左手側のアルバレスがベアトリスの論理を補佐するという構図になっていた。
「いいえ、リードホルムの国民は王によって変わるのよ。前王ヴィルヘルムの代には卑屈で不公正だったものが、王の人格によって、公正で寛容にさえ……王が、上に立つものが範を示せばね。……こう言うとリードホルムの民を愚弄しているようだけれど、君主とは、王政とはそういうものよ」
「その点は、とかく自分の意見を言え――とわがままに育てられたノルドグレーンの市民とは違う、というわけですね」
「良くも悪くも、ね」
「しかし、リードホルムの民衆は、長いあいだ国王の権力に従う制度のもとで暮らしてきました。それを突然、お前たちで代表者を選んで決めろ、と放り出されても……」
「それなら、ちょうど私がいまヘルストランド郊外に作っている学校で、議会制を民衆に教えるのもいいかしらね」
ベアトリスは涼しい顔でラーゲルフェルトの反論に応えた。言い込められたラーゲルフェルトだったが、その表情には婚嫁を聞いた直後よりも生気が戻ってきている。
むろん学校の建設を決めた時点では、ベアトリスはここまで見通していたわけではない。リードホルム国内におけるローセンダール家の印象操作――リードホルムの一部高官に言わせれば売名行為――のために始めた事業だったが、思わぬところでベアトリスの未来を構成する一要素となった。
何よりベアトリスには、ノアに議会制を進言すれば受け入れてくれるだろうという確信があった。ノアがランバンデッドの視察に訪れた最後の夜、彼は民衆の持つ力について語っていた。その力は、議会という制度によってもっとも平和的に行使され得るものなのだ。
「とはいえ、この状況下でグラディス・ローセンダール家と手を結ぶということは、ノルドグレーンとの明確な敵対を意味します。ノア王自身は、主公様の軍事力という後ろ盾を得てリードホルム内では主導権を得られる。一方で、より強大なノルドグレーンという敵が生まれることになります。その得失を天秤にかけたとして、はたして……」
「そこは……なんとか説得するしかないわね。この際こじつけでも何でもいいわ」
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