簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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ノルドグレーン分断

駆け引き 1

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 ノーラントの長い冬は寒さばかりでなく、太陽がほとんど顔を見せない暗くどんよりとした空が続き、人々を気鬱きうつにさせる。だが今年は少し様子が違うようだ。晩秋に季節外れの大雪が降ったかと思えば、今度はめずらしく晴れわたった青空が何日も続く。ベアトリスに塗炭とたんの苦しみを与えた雪は、彼女に行動を促すように、少しずつその存在を消していった。
 リードホルム王家への婚嫁こんかを表明してから三日目の早朝、ベアトリスはランバンデッドを出発した。晴れた日が続いているとは言え冬の日照時間は短く、夕刻前にはリードホルム北西のソルモーサン砦に到着しなければならない。
 この雪中行軍には、ベアトリス本人と護衛のアルバレス、アリサとルーデルスの二人の従者の他に、道をならすための二十数人の人夫と六台の荷馬車が同行している。荷馬車には夜営道具の他に、大量の財宝や美術品が積まれていた。これはランバンデッドに保管されていたローセンダール家の私財のほぼ全てである。
 古来より、リードホルム王家に輿入こしいれする――という栄誉にあずかる――貴族の子女は、祝いの品として莫大な金品を納入するというしきたりがあった。ベアトリスから見ると愚にもつかない習わしであり、あるいはノアも思いを同じくしているかもしれない。だが、婚嫁にあたって説得すべき相手は、ノアだけではないのだ。そのためにも、金品はいくらあっても不足ということはないだろう。

 ベアトリスが画策している政略結婚には、多数の障害が存在している。その一つは、ノルドグレーンでは指折りの権勢家であるベアトリスも、リードホルム国内においては平民の女でしかないことだった。これは――実情はどうあれ――五等爵ごとうしゃくを廃したノルドグレーンと旧来の身分制が残るリードホルムの、制度上の差異によって起こる問題だった。
 現在リードホルムにおいて、五爵の筆頭である公爵は存在しない。ジュニエスの戦い直後まではハリエスタ公アッペルトフトが門閥貴族の中では最大の勢力を誇ったが、ノア王の治政に反旗を翻し、反乱の末に敗滅している。
 その次席となるのはオーモット侯ノルデンフェルトであり、たとえばその娘であるダニエラ・ノルデンフェルトならば、家格かかくの点からは王妃として申し分ないだろう。むろん彼女は北方の王国カッセルの貴族エーベルゴード公爵家の次男フランシスと結婚しており、――ノルデンフェルト侯爵の胸中はともかく――離婚してリードホルム王に嫁ぐ気などもまったくない。
 他方、ベアトリスが生まれたグラディス・ローセンダール家は、かつてノルドグレーンに爵位があった時代でさえ、五爵の四等に当たる子爵でしかなかった。権威主義の観点からは不足であると見なされるだろう。
 こうした諸問題を迅速に処理するため、やはり貨財は必要なのだ。
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