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ノルドグレーン分断
婚礼そして 1
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ベアトリスとノアの婚礼の儀は、ヘルストランド城の地下にある聖堂で執り行われた。王家にかかわる式典としては、リードホルムの歴史上もっとも小規模で、かつ唐突だった点において前代未聞の結婚式だった。
この結婚式は、ノアがベアトリスの申し出を受け入れてから、わずか一週間という早さで強行された。強引ではあっても実現までこぎつけたことには、ノア個人の尽力によるところが大きい。
通例であれば王宮の高官や関係の深い貴族に対し、典礼省や図書省を通して一ヶ月以上前に案内状を送り、式典への出席を下命する。ノアはそうした旧来の手続きをほとんど省略し、会場の決定やヘルストランド在住の貴族への招待状の手渡しまでも自ら行った。たとえ、ノアと対立する旧国王派に属している貴族だったとしても、突然王に呼び出され結婚式の日取りを告げられては、面と向かって断れる気骨の持ち主はそうそういない。
ベアトリスも常にその場に同席していたが、張り付いたような笑顔を崩さず大人しくしていた。
会場となっているファンナ教の地下聖堂は、王家の子弟や高官が祈りを捧げるための礼拝堂だ。ゆえにその広さは、大人を五十人も詰め込めば堂内には立錐の余地もないほどで、ヘルストランド市街にそびえる宗教芸術の粋を集めた大聖堂とは比較にもならない。装飾においても、華やぎとも荘厳さとも無縁で、パラヤ神の祭壇以外は組積造の石壁に覆われている。
だがそれだけに、ほんらい信仰とはどういう性質のものであるか――という問いを来訪者の胸中に生み出す厳密さが、この質素な礼拝堂には充満していた。
堂内には明かり取りの窓もないため、大人の背丈ほどの燭台が等間隔に並べられている。その先端では薄い煙とともに、ぼんやりとした蝋燭の灯火が揺らめいていた。そのおぼろげな明かりが、きらびやかな式典とはかけ離れた、宗教儀式めいた雰囲気を作り出していた。
燭台の蝋燭以外に、堂内でぬくもりの源となるものは人の身体しか存在しない。もともと長居する場所でもないため、暖炉などは備えられていないのだ。列席したリードホルムの高官や貴族たちは声をひそめて、まずその寒さに不平を漏らしていた。
「なにも、このような時期にせんでも……」
「まったくだ。従前のとおり春を待って挙式すれば、人も集まるだろうにのう」
「それがどうも、王たっての希望なのだそうだ」
「珍しいことよな。前王と違って奢侈淫佚とは無縁だったノア王にあっては」
「しかしまあ、それだけの美しい王妃ではあるわ。ああいうところはどうやら、父君と変わらぬらしい」
「ヴィルヘルム王の後宮は数こそ少なかったが、美姫揃いだったというからな」
「……おっと、司祭殿のお出ましだ」
ちりばめられた宝石がきらめくベージュのドレスに身を包んだベアトリスと、赤い光沢のあるクロークをまとったノアは、貴族たちに背を向け、祭壇に向かって静かに頭を垂れている。そのふたりの前に、青と金の祭服を着た司祭が姿を現した。ふたりの前に立って地母神パラヤの神像を掲げ、大きくはないがよく通る声で宣言する。
「神の思し召しにより、ここに結婚の成立を宣言する。リードホルム王ノアと、フレンスタ伯ベアトリスを夫婦とする」
この結婚式は、ノアがベアトリスの申し出を受け入れてから、わずか一週間という早さで強行された。強引ではあっても実現までこぎつけたことには、ノア個人の尽力によるところが大きい。
通例であれば王宮の高官や関係の深い貴族に対し、典礼省や図書省を通して一ヶ月以上前に案内状を送り、式典への出席を下命する。ノアはそうした旧来の手続きをほとんど省略し、会場の決定やヘルストランド在住の貴族への招待状の手渡しまでも自ら行った。たとえ、ノアと対立する旧国王派に属している貴族だったとしても、突然王に呼び出され結婚式の日取りを告げられては、面と向かって断れる気骨の持ち主はそうそういない。
ベアトリスも常にその場に同席していたが、張り付いたような笑顔を崩さず大人しくしていた。
会場となっているファンナ教の地下聖堂は、王家の子弟や高官が祈りを捧げるための礼拝堂だ。ゆえにその広さは、大人を五十人も詰め込めば堂内には立錐の余地もないほどで、ヘルストランド市街にそびえる宗教芸術の粋を集めた大聖堂とは比較にもならない。装飾においても、華やぎとも荘厳さとも無縁で、パラヤ神の祭壇以外は組積造の石壁に覆われている。
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堂内には明かり取りの窓もないため、大人の背丈ほどの燭台が等間隔に並べられている。その先端では薄い煙とともに、ぼんやりとした蝋燭の灯火が揺らめいていた。そのおぼろげな明かりが、きらびやかな式典とはかけ離れた、宗教儀式めいた雰囲気を作り出していた。
燭台の蝋燭以外に、堂内でぬくもりの源となるものは人の身体しか存在しない。もともと長居する場所でもないため、暖炉などは備えられていないのだ。列席したリードホルムの高官や貴族たちは声をひそめて、まずその寒さに不平を漏らしていた。
「なにも、このような時期にせんでも……」
「まったくだ。従前のとおり春を待って挙式すれば、人も集まるだろうにのう」
「それがどうも、王たっての希望なのだそうだ」
「珍しいことよな。前王と違って奢侈淫佚とは無縁だったノア王にあっては」
「しかしまあ、それだけの美しい王妃ではあるわ。ああいうところはどうやら、父君と変わらぬらしい」
「ヴィルヘルム王の後宮は数こそ少なかったが、美姫揃いだったというからな」
「……おっと、司祭殿のお出ましだ」
ちりばめられた宝石がきらめくベージュのドレスに身を包んだベアトリスと、赤い光沢のあるクロークをまとったノアは、貴族たちに背を向け、祭壇に向かって静かに頭を垂れている。そのふたりの前に、青と金の祭服を着た司祭が姿を現した。ふたりの前に立って地母神パラヤの神像を掲げ、大きくはないがよく通る声で宣言する。
「神の思し召しにより、ここに結婚の成立を宣言する。リードホルム王ノアと、フレンスタ伯ベアトリスを夫婦とする」
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