簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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簒奪女王

新たな敵 3

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 ラーシュにとってベアトリスは――直接的にではないにせよ――父のかたきである。目の前の少年は、この事実をどこまで知っているだろうか? 生家の滅亡時、彼は十一、二歳だったろう。
 内乱後エヴェリーナは蟄居ちっきょを命じられ、権力の表舞台から離れてひっそりと暮らしているという。ラーシュの境遇も同様だろう。
「あなたが、あの公爵家の……」
「左様でございます。ですが王妃様、私はこの場に、恨みごとを申しに参ったのではございません。私も母も、すでに父方の姓は捨て去ってございます」
 長口上を連ねるラーシュの態度は、芝居がかってはいるが堂々たるものだった。
「そう。では何を?」
「……現在ノア王は我らを時の黎明館ツー・グリーニンに閉じ込め、王国の栄華から遠ざけております。そこで、もしも王妃様から王に口添えし、我らの待遇を改善して下さるのなら、わが母をはじめとして前王の後宮こうきゅうに端を発する勢力は、王妃様に助力を惜しまないでしょう」
「後宮ですって……?」
「はい。今は同じツー・グリーニンに住まう者同士、意を同じくしております」
 後宮――ラーシュが口にしたその言葉がベアトリスをぞっとさせた。
 王政のリードホルムでは、男の王が気に入った女を召し出し、王宮にめかけとして幾人も住まわせるという。その、ノアの父ヴィルヘルムの負の遺産が、どうやらリードホルム城の深奥しんおう蠢動しゅんどうしているようだ。
 それに続くラーシュとの一連の問答は、ベアトリスを落胆もさせた。ラーシュはまだ若く、柔軟な感性を持っている年頃というのに、言っていることはこれまで胸焼けがするほど会ってきた貴族たちと何ら違いはない。境遇によって植え付けられたそねみが、若い精神を容易にませてしまう。
「あなたがたは王家に反逆したにもかかわらす助命され、ツー・グリーニンでの生活を保障されている。これは公正さよりも温情に傾いた措置だと思うけれど……それが不満だというのかしら?」
「だからといって、母などは外出の自由もなく、囚人のように日々を過ごしているのですよ」
「歴史の常から見れば、反逆者への処遇としては寛大この上ないものよ」
「なるほど……それが王妃様のお考え、ということですか」
「五日目の王妃としては、それ以上でも以下でもありえないわね」
「……残念です。しかし、ツー・グリーニンに我らがいること、ゆめゆめお忘れなきよう。また心変わりの際は、いつでもこのラーシュ・フォン・リードホルムめをお呼びつけ下さい」
 ラーシュの言葉には脅迫めいた響きも含まれていた。
 ノアとラーシュの関係がどんなものか、ふたりの間に何らかの心的交流があったのか、現在のベアトリスにはわからない。だが口添えを要請しに来る以上、良好でないことは確かだろう。王妃になってまだ五日目という時点の、裏事情を知らぬベアトリスには、冷淡ではあってもありきたりな対応しか取りようがなかった。
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