簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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簒奪女王

王城の炎 7

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「……終わる時代の象徴、とはお前のことだ、ラーシュ」
「なんだと……?」
「お前は一体なにをもって、お前が王座に就くことに正当性があると考える?」
「知れたこと。わたしが高貴に生まれた身、神に支配を認められた血筋だからだ」
「ほう。そういう割には、城で働く兵士たちのほうがお前より力は強く、市井しせいの学者のほうがお前よりも知性に優れるようだが?」
「し、下々しもじもの者共は、そうした技能をもってわたしにその生を捧ぐことこそ責務であり、ほまれというもの。力や知恵がどうこうというたぐいの話ではない!」
 ノアは小さくため息をつき、失望したように肩を落とした。
 ラーシュの返答は、想定していた内容から全く外れていなかった。ノアより十歳ほども若いラーシュには、どこかで劇的な変容を遂げてくれるのではないか、という漠然とした期待を抱いていたのだ。
「……いらぬ問答でわたしを丸め込もうとしても、そうはいかん」
「お前の言うとおりだな。もう、いくら話したところで無益なようだ」
簒奪さんだつ王ノア、覚悟!」
 ラーシュは両手で長剣を振りかぶり、ノアに斬りかかった。ラーシュが放つ力まかせの斬撃を、ノアは受ける宝剣に角度をつけて巧みに受け流す。
「クッ、姑息こそくな技を……」
「やはり身体は覚えているものだな。手が痺れるようなブリクストの剣撃が懐かしい」
「昔話とは大した余裕だ。だがいつまでもつかな!」
 ラーシュは一歩しりぞき、長剣を低く構えなおした。

退け!」
「ひいっ」
 抜き身の剣を構えて猛然と迫りくるブリクストの威圧感に、ノアの部屋の前を固めていた女たちは蜘蛛の子を散らすように道を開けた。
「邪魔だてするなら、誰であろうと斬り捨てる!」
 念を押すブリクストの怒声にラーシュの部下の女たちはたちまち武器を捨て、降参だというように平伏した。
「全員、女……?」
「心当たりはある。もっとも、これほどの浅慮せんりょきょに及ぶとは思わなかったが……」
「正体はあとでいいわ」
 頭を床につけて震える女たちのあいだを、ベアトリスたちが駆け抜けた。女たちは剣こそ持っていたが腰が引けていて、もとより戦う意志があったようには感じられない。
 ブリクストは扉の取っ手に手をかけたが、内側から鍵がかけられていた。
「鍵は?」
「抜かりはない。この扉は貴官でも蹴破けやぶれんほど頑丈にできているからな」
 ブリクストは翼竜と剣の紋章が持ち手に刻まれた鍵を懐から取り出し、鍵穴に差し込んだ。

 重い衝撃音とともに扉が開け放たれ、ラーシュは驚いて振り返った。
「バカな!? こんなに早く来るとは」
 扉を開けておどり込んできたのは、ブリクストと――ラーシュは見知らぬ長身の男――アルバレス、二人の衛兵、それにベアトリスだった。
「やはり貴様か!」
「王妃……ベアトリス様!」
「ラーシュ……あなたなの?」
 進退窮しんたいきわまったラーシュだったが、自身の窮地よりも、ベアトリスがこの場に姿を現したことに驚いていた。
「なぜ、このような場所に……」
「ラーシュ! その剣を捨てなさい!」
 ブリクストの前に出たベアトリスは、ラーシュに向けて短銃を構えた。
「そうか……ベアトリス様、このラーシュ、事情は聞き及んでおります。ノルドグレーン内の止むに止まれぬ事情で、ノアのもとに降嫁こうかされて来られたのでしたね」
「……あなた、一体なにを言ってるの……?」
「王宮では立場の弱いあなたは、ノアへの忠誠を示さねばならない」
 うわごとのようにベアトリスの境遇を説明するラーシュの目は、今ここにいるベアトリスとは違う、何か別のものを見ているようだった。
「だがもう安心してください。このわたしが、ベアトリス様をリードホルム王家という牢獄から開放してさしあげますから!」
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