S.U.B.N.E.T. ~牛乳AIロボと40代のおっさんが築く、ゾンビ禍の秩序~【全話挿絵付き!】

gagriongalrion

文字の大きさ
12 / 20
日本編

第12話 牛乳戦士、覚醒の兆し:牛乳バフが運命を変える

しおりを挟む

 福岡県庁の戦場から帰還した折原は、戦後処理をAI戦闘ロボ達に任せた。
 ゾンビとの戦いが記憶に残っている中、要塞の食堂に足を踏み入れる。
 その違和感に、思わず苦笑した。――ついさっきまでゾンビと戦い合っていたのに、今は牛乳の話だ。
 窓の外では、暗い牛舎でブラウンスイス種の牛たちが静かに寝息を立てている。   
 日中はたくさん草やワラなどの飼料を食み、満足そうに寝ているのだろう。
 その穏やかな光景が、戦場の狂気とはあまりにも対照的だった。
 戦場で奪われたものを、少しでも取り戻せるなら――それが秩序だ。

 AIロボの報告が静かに響いた。 「折原様、乳量が安定するまであと2~3週間はかかりそうです。ここ1週間でようやくストックができ、避難民達の食料に供給可能です。さらにあと4日間のストックで、安定供給が可能となります。」 
 折原は食後の生姜湯を一口含み、わずかに笑った。 「……お次は、牛乳か。」  
 エリシオンが続ける。 「予測では、4日間ごと、2日間ごと、1日間ごとと、徐々に短い間隔で乳量のストックが可能になります。避難民達に渡る必要な乳量は、確保できつつあります。」

 折原は目を丸くした。 「へぇ~っ👀それはすごいなぁ!牛乳が好きな人には、飲むだけで幸福感がいっぱいだって聞いたぞ。城塞都市に居るみんなには朗報だな(^^)」
 実際、事実であった。 牛乳を飲むと幸福感が増すのは、主に牛乳に含まれているトリプトファンという必須アミノ酸の働きによるためである。
 それは脳内でセロトニンを生成し、心を安定させる――秩序を保つために必要なものだ。
 「まずは飲料として避難民に配給するのではなく、料理に使います。クリームシチュー、グラタン、そしてパン生地。温かい食事は、心を守る盾になります。」 エリシオンの声は、科学と哲学を併せ持つ響きだった。
 その時、背後からヌッと現れた影。 折原が振り向くと、そこにはエリシオンとヴァリシオンをかけて割ったような…少し似た美女型の調理師AIロボ…クレシオンが立っていた。
 ただ、その目は少し細く、どこか柔らかな光を宿している。 肩までのストレートヘア、シェフコート風の光沢ある制服。クレシオンの指先には微細な調理ツールが光り、湯気の立つカップを優雅に差し出した。まるでそのカップに注いだ液体は月光を閉じ込めたような輝きであった。
 「お待たせしました、折原様。」 その声は、エリシオンよりも親しみやすく、どこかおっとりしている。
 だが、料理に関しては完璧主義だと、折原はすぐに悟った。
手には湯気の立つホットミルク……いや、なんか色が怪しい。 (……なんで牛乳が銀色に光って、液体が生き物みたいに波打ってるんだよ!?)

折原は思わず、身を引いて声を上げた。 「おい、なんか銀色がかって光ってるし、微妙に波打ってないかこれ!? ……本当に牛乳だよな、これ!?」

 クレシオンはこれはとばかりにフンスッ!と胸を張って答えた。 「おっしゃる通りです!最新技術で乳糖を完全分解し、さらに栄養価を3倍にしました!」
 折原は血の気が引いた。 「3倍って……牛乳なのに、なんか超絶栄養食みたいな響きだな!プロテインも真っ青だぞ。しかも、液体が生き物みたいに波打っているぞ。」
 エリシオンは淡々と補足する。 「副作用はゼロです。むしろ、筋肉増強効果があります。」
 折原はカップを見つめ、ゴクリと唾を飲んだ。 「……これ、飲んだら俺、あの強化ゾンビより強くなるんじゃないか?」
 すかさずクレシオンは満面の笑みで答えた。「はい!折原様、今すぐお召し上がりください!」



 折原は心の中で叫んだ。 「俺、牛乳で筋肉増強って…もうプロテインは要らんやん!」(・・・やばい……俺、今日から牛乳でバフ※かかる人生になるのか!?えっ、もしかして…戦闘スーツについているあのカプセルは…)

※ゲームでよく聞く補助魔法や道具による強化効果のことである。

 「折原様、お考えの通りです。」 エリシオンの声が静かに響く。
 「あの戦闘スーツの秘密ですが、実はアークヴェロニアに装てんされたカプセルの中に入っている液体は、牛乳由来の成分で作られたものです。」
 折原の嫌な予感は当たっていた。あの戦闘スーツ『アークヴェロニア』に装填されたカプセルの中身――それは、牛乳由来の超高度強化成分だったのだ。
 どおりで、激戦の最中も疲労を感じず、恐怖に呑まれることもなかったわけだ。カプセルから自動補給される成分が、折原の精神と肉体を強制的に安定させていたのである。
 「……なあ、もしこのカプセルがなかったら、俺はどうなってた?」
「はい。折原様はとうの昔に絶命していたでしょう。あの巨大ゾンビに勝利できる確率は、もはや0%に等しかったはずです」エリシオンは、スン……と泣きそうな表情を見せて俯いた。
 「俺は牛乳戦士かよ💦 どおりで以前はゾンビと聞いただけで逃げ回るのが精一杯だったのに、いざあの怪物の前に立ったら、なぜか腹が据わってたわけだ。……おまけに、いつもより寝つきまでいいしな」
 「当然です。それが秩序(牛乳)の力ですから」
 さっきまでの泣きべそはどこへやら。エリシオンは、これ以上ないほどのドヤ顔(フンス顔)で胸を張った。

 その時、横からヴァリシオンがヌッと現れた。
 片手にホットミルクココアを持ち、耳をピクピクさせながら笑顔を浮かべる。
「折原様💖ご機嫌いかが?今日の戦いは貴重なデータがたくさん取れたよ~!お疲れ様でした!」
「ああ、ヴァリシオンか。ちょっと聞いてくれよ。俺の戦闘スーツのカプセルの中には牛乳由来の強化剤が入っていたんだってよ。」
「うん、知ってる💕それがどうしたの?」
「…いや、どおりで年齢の割にはよく動けるし、すごく寝つきがいいなと思ってさ。」折原はヴァリシオンのピクピクさせている耳を見ていると、なんだか無性に触りたくなった。
「モフ…いや、ヴァリシオン。今日の戦闘だけど、アークヴェロニアが壊れちゃったんだよね。どうしようか…」

 折原はモフリオンと言いかけそうになったが、その時点でヴァリシオンは気づいていなかった。
 ヴァリシオンは耳をピクピクさせながら、にっこり笑った。 「心配しないで、折原様。次の戦闘スーツは、もっと美味しい強化カプセルを入れておくからね♪」
「俺は牛乳戦士かよ!!!」 この白き液体が、後に人類の秩序を守る鍵になるとは、折原はまだ気づきもしなかった…多分。

 折原は銀色に輝くホットミルクを一口、いや一気に飲み干した。乳糖不耐性のトラウマがよみがえるが…人類を救うためだ。折原の覚悟はいかほどか見せてくれる。
 その瞬間、体の奥で何かが弾けたような感覚が走る。
 心拍は落ち着き、視界がクリアになり、筋肉がわずかに浮き上がる。
 (……なんだこれは…、体が軽い。まるで重力が半分になったみたいだ。)

 クレシオンが満面の笑みで言った。 「科学の勝利です!筋肉増強、精神安定、そして反応速度の向上。副作用ゼロ!」
 折原はカップを置き、ゴクリと唾を飲んだ。 「……俺、この牛乳でここまで強くなるのかよ。」
 ちょうどその時、ケイジが食堂に入ってきた。 「折原、なんか顔つき変わりましたね?まさか…この戦闘力は…あれを飲んだんですか?」
 ケイジはスキャンで折原の体つきや体温からデータを割り出した。
 折原はニヤリと笑った。 「ふっ、銀色の牛乳だ。バフ効果を確認するためにな、ちょうどよかった。ケイジ、ちょっと稽古に付き合え。」(まあ、どうせ断るだろうけど…)
「ああ、いいぜ!」と言われ、折原は「あれ?いつもならいつもなら「だが…断る。なぜ虎は訓練しないのか?元から強いからだよ。」とでも言うんじゃないかと思っていたよ。」 と言いつつ、場面は訓練ルームに移った。


 ケイジは木刀を構え、折原も同じく構える。 「じゃあ、軽くいなすとしますかね!」  
 次の瞬間、折原の姿が消えた。 ドゴォッ! 床がめり込むほどに砂煙が舞った。 「ふっ、早いな」 ケイジは一瞬の回避行動をさせながら言った。
「折原、動きが早いな。これなら今日の爪の長いゾンビとは楽勝だったかもしれんな」

 折原は心の中で叫んだ。(さすがは牛乳バフ、これは強すぎ!ワロタ。)
 折原の視界にケイジの動きがスローモーションに見えた。 折原は残像を作り、ケイジの周りを囲んだ。
 だが、ケイジは慌てる様子もなく、余裕で木刀を折原の足に打ち込んだ。
 見事折原の足に当たり、折原は倒れた。 「あれだけ早く動けたのに勝てないとは…」
 ケイジは「虎は牛乳を飲まない。だから、強いのだよ。」とどこかで聞いたようなセリフを吐き、ここを去った。イエヤスがどこからともなく現れ、「折原殿、勝つことばかりを考えるな。策は乳よりも濃しとも言いますぞ。負けぬ工夫こそ、天下を取る道ぞ。牛乳で強くなる心意気は良し。しかし、戦は乳ではなく策で勝つものぞ。」と言った。
 折原は「戦は乳じゃなく策…ある意味名言だけど、牛乳戦士としては複雑だな。」
 折原はハッとした。「いつの間にか俺は牛乳戦士に…いや… そうか…、俺は今まで力で勝とうとしていたんだ。これまで弱点を見つけ、策を使って勝ってきたんだよな。それにしても、ケイジの戦闘力は規格外だな。ははは・・・」と折原は苦笑いしたが、その目にはわずかな悔しさが残っていた。
 イエヤスは「そうです。折原殿。乳は力、策は知恵。知恵なき力は、ただの牛ぞ。」
 「俺、牛乳戦士から牛将軍に昇格できる日は来るのか…?って、いったい何の話をしているんだ?」 と言いながら、バスルームに向かうことにした。

 エリシオンが横で「ムフー」とドヤ顔。 「負けたけど、科学は裏切りません!」
 ヴァリシオンは耳をピクピクさせながら笑った。 「折原様、負けたけど、次はもっと美味しい強化カプセルを入れておくね♪」
 折原は頭を抱えた。 「あ~っ、俺はどうせ弱っちい牛乳戦士だよ!!!」

 折原はバスタブに入り、「あの牛乳バフ…すごいなぁ。おっさん化を軽減した上に力が湧いてきたもんなぁ。さすがエリシオンの科学というか…」
 突然、湯船に張られた湯面が揺れたかと思うと、エリシオンが出てきた。
「そうです。牛乳が世界を救います。秩序を作ります。」
折原「お前、いきなり風呂から出てくるなよ!」



 エリシオン「秩序はどこにでも現れます」
 こうして、風呂から上がった折原はしばらく黙った。
 牛乳瓶を見つめながら、何かを考えているようだった。そして、おもむろに左手を腰に当て、乳糖不耐性者向けの牛乳瓶を片手に飲み干したのだった。 「ぷはー、これだな。牛乳戦士、今日も生き延びた――そして世界は、牛乳で救われる。」と折原。
 そばにエリシオンもマネして飲んでいる。「私は冷たいミルクよりホットミルクの方が好きですね。」 「ほんとに理屈ばかりだな。おいしいかどうかなんだよ。」と突っ込む。
 この夜、牛乳戦士としての誇りを胸に、眠りについた。
 だが、折原は知らない。この牛乳バフが、次の戦場で運命を変えることを・・・。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...