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新生児

見ざる聞かざる言わざる

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スタンビートのあらましはこうだ
まずは2年後、場所はダンジョン化した小さな洞窟。進化してゴブリンロードになったゴブリンに続くようにゴブリンが進化、弱いゴブリンは洞窟を追い出されて洞窟近くに集落を作る。人間は集落には気づけるけど、洞窟で異常発生するホブゴブリンには気づけず放置された。其のうち名前も載らない小さな村や旅人、冒険者が襲われ始め家畜や男たちはエサに女たちは苗床にするために攫われた。Bランクのチームが襲われたのがきっかけでダンジョンが特定されたけど、その時には手遅れで溢れかえったホブゴブリンやメイジ、アーチャー、エリートといった上位種が近隣の街を襲った。城壁があったこの街には被害はなかったけど、20キロ先にある街はかなりの被害があったらしい。断定できないのはギルドマスターのエピソードとして流れた情報だからだ、当時最高ランクだった彼は、この事件で片足を失う重症をおい、惜しまれつつ冒険者を引退してギルドに就職、後に当時のギルドマスターの不正を暴いて自らがギルドマスターになる、領主の前で資料をたたきつける一方で、帰り際に私に泣かれてしょんぼりする姿にギャップ萌えしたな。
後のスタンビートは魔王が討伐された遺跡がダンジョン化、ダンジョンオーブを狙った冒険者が逆に飲み込まれてしまったためにおこる。ダンジョンオーブは保有者の願いを叶える力をもつといわれていて、それを狙う者は多い。件の冒険者もその一人だった。
彼がオーブに願ったのは失った生活を取り戻すことだ。だが、本当にそれを手にしたとき悪魔が囁いた
≪その願いは本当なのか≫
≪偽りの生活で満足なのか≫
≪娘をあんな姿にした奴らは、のうのうと生きているのに≫
≪訴えても無視している奴もそのままにして≫
悪魔は彼の心の蓋を開き、何度も繰り返し蹂躙されつくし無残に殺された町の人の首と攫われた娘たち。教会の祭壇に吊るされた義理の息子とその傍らで蹂躙された上にダルマになった娘の姿をみせた。やがて心が壊れた彼は悪魔に願う
≪すべての破壊を≫
悪魔は笑う
≪すべてに死を≫
こうしてスタンビートは起こった
この二つのスタンビートを防ぐことは私なら難しくはない、原因を取り除けばいいだけだ。
だけど・・・スタンビートが起こらなければ私が詐欺師になる。ひどい話だろうが、自分のあずかり知らぬ所で何が起ころうと、自分には関係ない。私が救いたいのは家族と友人だけなんだから
「2年後がここなのか、ゴブリンロードだな。11年後はまさか王都に、しかも魔族だとは」
スタンビートは人にとっては脅威的な事件であることに違いない。三人の顔色が悪い
ごめんなさい。私はある程度の情報を渡した後は見ざる聞かざる言わざるに徹します
「ですが、規模や場所がわかるだけでも幸いです」
「ああ、2年後のスタンビートを対処できれば、王に魔王の封印やスタンビートの危険を訴えやすくなる」
スタンビートを未然に防ぐ方法は原因を取り除くこと。子爵の運命は元々生存のルートがあったのだからよかったが、これからの事件は確実に被害者がでるもの、私はどこまで関わればいいのだろう、ゴブリンに殺される人や死より恐ろしい体験をするであろう女性。救うのは簡単、件のダンジョンの場所はわかっているのだから、スタンビートを起きるまえに、原因を排除してしまえばいい。わかってはいるがスタンビートを起こささなければ、わたしはみんなから詐欺師と呼ばれる。スタンビートを未然に防いだと言っても詐欺師のレッテルを持つ奴の言葉を誰が信じるのだろうか、私は自分の為に沈黙する
「神の言葉は偉大ですが、神官でないお嬢様の言葉を信じるものは少ないかと」
あたりまえ。今の状態はまだ兆候すら出ていないのだから
見ざる聞かざる言わざると決めたのに、気持ちは揺らぐ
ゲームの抑止力ってどれほどだろう、スタンビートをとめないまま規模を縮小する方法はないかな
まあ、おいおい考えれば答えは出てくるかもしれない
「うう・・・」
なんだろう、ものすごく眠い
「お嬢様?」
暗闇に落ちていくように私の意識がなくなっていく。
赤ちゃんである私の体に限界がきたみたいだ。
唐突に沈んだ私をアズが慌てて支えてくれた。アズの視線を感じたが、すでに私という意識は落ちてしまった。
大人三人は私が寝たことに気が付かないのか、地図に視線を預けたままだ
「スタンビートがおきたところは、50年以内にスタンビートが起きるというのは俗説でもある」
「まずは2年後のスタンビートを対処しよう。各ギルド長に連絡して方針を決めなくては」
「そうですね。お嬢様にはもう少し・・・」
ようやく三人の意識が子供に向いたとき、彼女はアズの腕の中で深い眠りにおちていた






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