兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい

文字の大きさ
14 / 53

第14話・兄の心情

花露が朝日の光を反射するような、美しい笑顔だった。   

「お兄様、助けてくれて、ありがとうございます」
「…私、嬉しい……はじめて…っ、初めてです。お兄様が、ナタリー様から私を庇ってくださったのは…」

兄が、妹を守る。
それは当然のことであり、上に生まれた者としての義務だ。愛する存在を守ることができる特権を持つのは、生まれた時から共に育つ家族だけのものなのだ。幼い時から隣に立つ自分達だけが、どんな危険からも彼女を遠ざけてやれる筈だった。

それなのに、己は今、この子に何を言わせた?

振りかぶる花瓶から妹を守るなんて、兄としてなにも不思議なことでは無いだろう。可愛いこの子の心と身体をまるごと庇護してやろうと決めたのは、間違いなく幼い頃の自分だ。兄が妹を守るのに理由なんていらない。目に見えなくても分かるほど必然的で、当然のことなのに。

その当然のことを、妹は初めてだと言った。自分の記憶を辿ってみても、ナタリーよりも妹を信じ、守ってやったことが一度も無い。そのことに気付いて愕然とし、脳みその奥が氷のように冷えていく。

どうして信じてくれなかったのだと非難されたのなら、どれほど心が楽だっただろう。
お前なんて大嫌いだと遠ざけられれば、どれほど救われただろう。

世界で一番大切だった筈の妹を信じず、傷つけ、挙句自分こそが正しいのだと信じて疑わずに彼女を糾弾した。その結果帰ってきたのは失望でも怒りでもない。

「初めて自分を庇ってくれたことが嬉しい」だなんて、言わせるべきでは無かったのに。こんなにも悲しく健気なことを言わせたという事実が心に重くのしかかり、莫大な罪悪感だけが渦巻いている。
誰よりも守るべきだった筈の存在を、恋に浮かれ突き放してしまった。全て己の愚行が招いた結果のことなのに、謝ることすら烏滸がましい。
自己嫌悪に溺れそうになりながら、それでもお兄様と呼んで笑顔を向けてくれたソフィアが愛おしくて、悲しいほどに眩しい。喜ぶ資格もないのに、心は嫌われていないことへの安心で微かに震えていて、それがなんと図々しく恥ずかしいことだろう。

「あ……ああ……嗚呼…っ」

泣く資格など、自分には無いのだろう。今まで無碍にしてきたソフィアの涙の数々を思い出せば、そんなことは自明の理である筈だった。私は今まで何を見てきたのだろう。こんなにも無垢で愛しい存在を、もうどうしようもないほど傷つけた。

それが分かった時には、既に何もかもが遅かった。

涙を浮かべる自分を見て、ソフィアがギョッとする。駆け寄ってこようとした彼女を、レオンが引き止めた。その姿は自分よりも余程兄妹のようで、それがまた虚しかった。



あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。