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第一章

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────────ピヨピヨピヨッ

と鳥のさえずりが聞こえ、俺は起きた。すると、とても綺麗な朝焼けが大木の間から見えた。


異世界に来て、こんなにも自然豊かで綺麗な朝焼けを見るのはとても心地いい。日本にいた時は都会に住んでいたから、いつもいつも、人混みに揉みくちゃにされて自然とはかけ離れていた。

「ティモテ様……」

「エメ、おはよう」

俺はエメににこやかに声かけた。そして、俺らの声に気付いたのか、アレンも起きてエメにしがみついて、俺を睨んだ。

「エメ様は僕のものだ……」

「アレン?」

「……コホンッ、何でもないですよ。エメ様」

アレンは顔を真っ赤にして、口を噤んだ。エメのことが好きなんだな。俺はそんな様子を可愛らしい姉弟のように見えて微笑ましい気持ちになった。


そして、俺はハッとした。


「それより、さっむ」

俺はガタガタと震えた。2人にもう一度振り返ると、アレンも寒そうにブルブルと震えていた。エメは何重にも厚そうなドレスに身を包んでいるからなのか、俺とアレンの様子をキョトンと見ていた。

今の季節は日本で言う、梅雨の季節だ。雨が降ったり、止んだりを繰り返している。この季節に死刑になる者は呪われると言うけれど、死刑を考えたやつは誰なんだ。

俺はガタガタと震える年下のアレンにタキシードの上着を羽織らせようと渡した。すると、アレンはそんな俺の気遣いを拒んだ。フルフルと首を振って断る。小さい頃からそうだ。何で、俺はアレンに嫌われているんだ…。




「プギャー!プギャー!」


と何やら魔物の声がした。振り向くと、そこにはまだ子供のヴリトラだった。子供とはいえ、凶暴ででかい。

俺は剣を構えた。剣は俺の身体の中を走るようにエネルギーが走る。剣は俺の身体の一部のようなものだ。

「どうする気だ、ティモテ。僕たちの前で戦う気か………」

「あぁ、そのつもりだよ」

「そんなことはだめだ。ティモテ」

「だから、アレンはエメを連れて安全なとこへ行ってほしい」

「ティモテ………」

「分かったなら、すぐ行け!」

俺は血走った目でそう強く告げた。天使によって与えられた、俺の剣士としての能力は他の剣士とは違って、とんでもなく秀でている。ただの剣士ではないんだ。この剣には俺の魔力も入っている。俺がどんどん強くなればなるほどに剣も強くなる。

俺は剣を振るう。

俺が戦っているうちにアレンは恐がるエメを連れて、森の中へと走り逃げた。



俺は剣を思いっきり振りかざし、最後の一撃をヴリトラに振るった。


─────────「ギュアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーーーッ!」


とヴリトラの声が森に響き渡った。そして、俺は心の奥が熱くなるのを抑えた。俺はとんでもない加護を与えられてしまったんだ。俺の心が正しい心を持っていなければ、俺は狂ってしまうと言うハンデがある。もし、万が一俺が正しい心を乱してしまうと、剣も狂ってしまう。そして、俺自身も凶暴となり、剣は凶剣となってしまうんだ。

そうしたら、世界は崩れてしまう。それくらいに俺に与えられた御加護の力は恐ろしい。今でさえ、倒した子供のヴリトラの黒の魔力が俺の中を掻き乱す。


俺は人を守るために剣を振るうんだ。絶対に悪心になんかに襲われない。俺は俺の心をしっかり持つんだ。でなければ、アレンも愛するエメのことも守ることができない。


俺は強くなる俺自身も怖さを抱いている。一回だけ、手を人間の血で染めてしまったことがある。その時、俺は心の何かが壊れるのが分かった。俺はその気持ちに一気に襲われると思った。だが、その時は助かった。唯一、殺めてしまった人間は悪の組織の一人だったからだ。もしも、悪の人間ではない人間を殺めてしまったら、俺はただの狂人になっていただろう。


今も思い出すと、自分自身が怖い。自分自身と言う大きな爆弾を持っているんだ。


魔眼の目を持つアレンにはそんな俺の能力が分かるのだろう。初めて会った時から俺のことを避けていた。それが嫌われる理由なのかな…。




「アレン、ティモテ様は大丈夫なの?」

「あのお方なら大丈夫ですよ。きっと……」

アレンはエメ王女に優しく伝える。だが、アレンは落ち着けない気持ちでいた。

ティモテの心がいつ壊れるかが恐ろしい。その時は僕がエメ様を助けなければいけない。どうしたらいいんだ。僕の手で、ティモテを殺せばいいのか。でも、僕にはそんなことはできない。言葉でなら庇えるし、助けられるが道具なんて一切触れたことも使ったこともない。魔眼の能力を駆使するだけで、悪い魔物からは逃げてきたんだ。そんな僕にエメ様をこんな自然な世界でどこに行くも決めていない道で助けられるのか…。


僕のエメ様を危険な魔物から守れるのはあいつしかいない。ティモテしかいないんだ。でも、ティモテの近くに居続けるのも恐ろしい。


僕はグッと恐怖の気持ちを堪え、とにかくエメ様に安心できる笑顔を向けるのに必死になった。エメ様は今にも泣きそうな顔で僕を見ている。こんなエメ様は安心できていないのだろう。こういう時は抱きしめるしかない。エメ様と同じくらいの背丈の僕は弱いただの子供でしかない。




「エメ様……。大丈夫ですよ」

「…………アレン…」



僕はエメ様を強く抱きしめた。こんなことでしかエメ様の気持ちをなぐさめることのできない僕は、とんでもなく弱い。こんな僕でじゃあ、男としても見てもられないだろう。そんな僕が苦しいほど嫌いだ。

無垢なエメ様を強く、強く守れる男になりたい。
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