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第二章 禁足地に隠された真実
災厄のモンスターと、アイツの正体
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「ダメです」
ラキスの返事が分かっていたかのように拒絶された。
だが、これしきで諦めるラキスではない。
「だが、ことわ――」
「絶対にダメです。まずは話を聞いてください」
今度は食い気味に止められた。
「それにね、ラキスさん。この話を聞こうと、聞くまいと、守護者はみんな巻き込まれます。なら、聞いておいた方が得ではないですか?」
「それはまあ、そうかもしれん」
「ご理解頂けたようで、安心しました」
相変わらず、目が笑っていないアークの笑顔。
明かされるのは禁足地に隠された秘密。
隣国の王子が秘密裏に調査していた理由。
ラキスも全く興味がないわけではない。
いや、むしろ気になる。
どうしても巻き込まれるというなら、秘密とやらも明かしてもらうことにしよう。
「……と、考えていたわけだが」
ラキスは歩きながら周囲を見渡した。
細かな石がくっついて出来たような、奇妙な柄の岩ばかり地面に転がっている。
空気は熱を帯びていて、なにかが腐ったような不快なニオイがただよう。
例の『温泉』のニオイに似ているが、比べ物にならないほど鼻が刺激された。
「なぜ、俺たちはこんなところにいる?」
こんなところ、というのは山だ。
温泉からも見えていた、山。
岩肌が多く木々が見当たらない、山。
地下水を温泉に変えるという不思議な、山。
「少し移動します、って言ったじゃないですか」
「言われたが……『少し』の解釈がずいぶんと違うようだ」
大事な話をするために、オープンスペースから移動するのは理解できる。
なるほど。
たしかに『少し』くらい移動するだろう、と。
「……ボク、疲れた」
アリアが恨めし気な目つきでボヤく。
ラキス達は足場の悪い山道を、かれこれ一時間以上も歩かされている。
ボヤキのひとつやふたつやみっつ、口にしたくもなるというものだ。
太陽もずいぶんと地平線に近づいてきた。
「まあまあ。もうそろそろですから」
「それ、三十分くらい前にも聞いた」
「そうでしたっけ?」
絶対に覚えているのに、本当に覚えていないかのような顔をしやがる。
「ほら、ゴールが見えてきましたよ」
アークが指で示す先。
どうやら頂上のようだ。
「さあ、スゴいものが見れますよ」
「ははっ。まさかとは思うけど、山頂から見える夕陽……とか言わないよね?」
「………………」
アリアの乾いた笑い。
無言の笑みで返事をするアーク。
アリアの顔が、みるみるうちに引きつっていく。
アークの口の端がヒクヒクしている。
あれは笑いを我慢している顔だ。
ラキスは見かねて助け舟を出してやることにした。
「アーク。そのへんにしておけ」
「……ッ!? もしかしてボク、からかわれてる!?」
「いやあ、山頂から見える夕陽もキレイですよ」
クックッと笑いをこぼしながら、アークが頂上に足をかけた。
続いて、ラキスとアリアも頂上に立つ。
そのまま眼前に広がる光景に目を奪われた。
「なにコレ……。大きな……モンスター」
「これは、大蛇か?」
「大蛇……と呼ぶには大きすぎますよね」
この山の頂上はラキスがよく知る山とは違い、てっぺんが大きく凹んでいた。
凹みからはモクモクと煙が吹き出している。
それだけでも、十分に驚くべき景色だ。
しかし、ラキスの瞳を占めているのは別のもの。
大きな凹みの中心を陣取る、ぐるぐるとトグロを巻いたモンスター。
ウロコの生えた肌、馬に似た頭とタテガミ。
蛇のように長い胴には獣のような脚が四つ。
これまで多くのモンスターを見てきた。
だが、このモンスターの大きさは、その中でも群を抜いて巨大だった。
感覚値ではあるが、おそらく全長20メートルはくだらないだろう。
「これが、お前達が隠してきた秘密か」
「そうです。帝国の王子の狙いも、おそらくは」
これだけ巨大なモンスターだ。
召喚契約出来れば、大きな戦力になるだろう。
しかし……。
「くだらん。こんなバケモノを制御できるものか」
「そうですね。とても傲慢な考えです」
しかし、とアークが言葉を紡ぐ。
「人は傲慢で、強欲な生き物ですから」
だから過ちを繰り返すのだ、と。
アークはモンスターを見下ろしてつぶやく。
「起こしてはならないんです。これは災厄のモンスター。目覚めれば被害はこの国だけに留まりません」
アークの言うことは、大袈裟と切って捨てるには真実味があった。
「うーーーーん、なんだっけなあ」
アリアがひとりで首を捻っている。
いつも真っ先に話に食いつく奴がめずらしい。
「どうした?」
「あのモンスター……、なにかに似てるんだよね」
「なにか、とはなんだ?」
「それが思い出せないから困ってんだよ」
なるほど、そのとおりだ。
だがそれでは、何の手掛かりにもならない。
「そうか。思い出したら教えてくれ」
「うーーーーん、なんだろうなあ」
アリアはしばらく頭を抱えたあと、
「ボク、正面からアイツの顔を見てくる!」と言い残して走っていった。
「気をつけてくださいねえ!」
「わかってるううぅぅ!!」
アークがアリアの背に呼びかける。
「さて、ひとつ訊いてもいいか?」
「なんでしょう?」
「お前達はなんだ?」
「ただの守護者ですよ」
「お前は誰だ?」
「私は――」
「ルブスト出身も、元冒険者も、ウソだろう?」
「……はい、そうです」
否定するそぶりも、驚く様子もなく肯定する。
「いつ気づいたんですか?」
「さて、な。違和感だらけで覚えてない」
初めて会った――斧を投げつけられた――とき、アークは守護者を代表してラキスの前に現れた。
「なにを隠している?」と訊いたとき、アークが発していた気は、雇われの三下の覚悟ではなかった。
なによりもついさっき、この重要な秘め事をラキス達に伝えるまでの動きが早すぎた。
他の者と相談出来たのは、アークが食堂で席を立ったほんの数分だけ。
そんなスピードで重要なことを決められるのは――。
「お前がトップなんだろう?」
「ははっ。ただの貧乏くじですよ」
今度はラキスから乾いた笑いがこぼれる。
きっとこの言葉は彼の本心なのだろう。
「どうして冒険者だとウソを?」
「元冒険者がいる集団の方が、心理的なハードルが下がるんじゃないか、と。それに……得体のしれないゴブリン召喚士に、ペラペラ正体をしゃべるほどバカではないです」
もっともだ。
もし自分が同じ立場でも、こんな得体のしれない召喚士を信用したりはしない。
ラキスは「正論だ」とうなずき、さらに問いを重ねる。
「どうして俺達を巻き込んだ?」
「俺達……では無いです」
「アリアか」
「はい」
「知っていたのか」
「この国の第二王女の名前ですからね」
すぐに調べさせました、とアークは言う。
「仲間に勧誘したのは念のため。偶然なら飼い殺しておけばいいだけです」
「どうして本物だと?」
アリアという名前。
別に王族しかつけてはならない、という決まりはない。
むしろ王女様にあやかって、とアリアと同世代には割りと多い名前である。
にもかかわらず、なぜアリアを第二王女と確信できたのか。
ラキスの問いに、アークは事もなげに答えた。
「貴族にも知り合いがいましてね。王女の特徴を訊きました。身の丈は同じくらい。髪は長さこそ違えど、色は同じ。なにより一人称がボクの女性ともなると」
国中探したってふたりといませんよ、と笑う。
「たしかに、な」
ラキスもアリアを拾った頃、彼女の髪を隠して男装をさせていた。
だが暗殺の主犯であるロゴールを撃退したことで、すこしばかり油断していた。
ラキスが賞金首にされたことで、それどころでは無くなった、というのもある。
「どうしてアリアを巻き込んだ?」
「あの子がアイシーンの血を引いているからです」
「アイシーン?」
突然知らない名前が出てきた。
すでにラキスは、話の続きを聞くのがちょっと面倒になってきている。
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