ゴブリンしか召喚出来なくても最強になる方法 ~無能とののしられて追放された宮廷召喚士、ボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティーで無双する~

石矢天

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第三章 一世一代の大博打

ドラゴンのようなゴブリンだからドラゴブリン

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 ラキス、アリア、アークの三人が、古龍について話し合っている。
 そこへ音も立てず、気配も無く、一匹のゴブリンがスッと現れた。

「ん、戻ったか」

 ゴブリンの密偵スパイが帰ってきた。
 召喚状態を維持したままでの単独行。

 気配遮断、忍び足、上級開錠技術。
 このゴブリンのスキルは潜入に特化している。

 ロゴールの部屋から金を奪ったときにも活躍したゴブリンだ。
 こいつが宮廷、さらには王宮へと潜り込み、アリアの手紙をプレシアへと届けてきた。

「ボクも行きたかった……」

 ゴブリンを行かせる、と伝えたときと同じようにアリアが文句を言う。

「お前じゃ、姉の部屋にたどりつく前に捕まる」
「そもそも人が忍び込める場所じゃないですし」
「それはわかってるけどさぁ」

 理解はしているが、納得はできない。
 そんな顔でアリアは口をとがらせていた。

「だいたい行ってどうするんだ。姉に挨拶でもするつもりか?」

 まだ里心が抜けないのか、と暗に伝える。

「そんなつもりはないけどさ。プレシア姉さんの顔を、遠くからでも見ておきたいって思っただけ」

 もう二度と会えないかもしれない。
 別れの言葉も交わせていない。
 そう思えば顔くらい見たいとも思う、か。

 弟と突然の別れを強いられたラキスにも、彼女の気持ちがわからないではない。

「……即位式」
「え?」
「即位式なら、王女も公の場に出るだろう」
「……うん。そっか、即位式か。そうだな!」

 姉に会える、とまではいかないが、遠くから見るくらいの願いは叶うだろう。

「目標が出来たのは良いことです」

 そう同調するアークの顔は、まったく『良いこと』という顔をしていない。

「ですが、ルシガーの野望を止めなくては、王国も即位式どころではなくなりますよ」
「……ううぅ」

 もしルシガーが古龍を手に入れたなら、真っ先に支配されるのはこの王国だ。
 逆にルシガーが古龍を支配出来なくても、目覚めた古龍が襲うのはこの王国だ。

 どちらにせよ、即位式など悠長なことをしている余裕は無いだろう。
 この王国の未来は、非常に危ういところまできている。

「でもでも! それはプレシア姉さんに手紙を届けたわけだし」

 アークが右手を額にあて、「ハァ」とこれ見よがしなため息をつく。

「それは打てる手のひとつでしかありません。王国が立場上、ヤツに意見を出来なかったら? ヤツが王国の言うことを聞かなかったら? 次善の策は、常に用意しておく必要があります」

 正論すぎてアリアも反論の余地がないようだ。
 少しうつむき「そうだけど」とつぶやいている。

「そうアリアをいじめるな。 別に人任せにするつもりで言ったわけじゃない。 ただ、平穏な未来に期待したいだけだ」

 ラキスがフォローを入れると、アークは眉根を寄せた。

「ラキスさんはアリアさんに甘すぎます!」
「お、おう。……すまん」

 あまりの剣幕に思わず謝ってしまった。
 あの山から戻って以降、アークは少し変わったようだ。

 喋り方は今まで通り。
 だが、ハッキリ言うようになったというか、猫を被っていたのが素に戻った感じがする。

「さて、次善の策についてですが……」
「俺たちのレベルアップ」
「ご名答。正確にはラキスさんとアリアさんのパワーアップです」

 これを策と呼ぶのか、という疑問はあるが。
 前にアークが言っていたとおり、人を集める、というのは現実的ではない。

 禁足地、踏み入った者は二度と帰れない。
 そんな場所を護るために集まる者などいるまい。
 ならば、今ある戦力の増強は当然の選択。

「なんでボクとラキスだけなの? アークもパワーアップした方がいいじゃん」
「時間があれば、そうしたいところですけどね。 剣技の成長曲線はどんどん緩やかになるんです」

 アークの剣技はすでに一定以上のレベルにある。
 これ以上を求めるのであれば、相応の時間とコストが必要になってくる。
 つまりパワーアップを図るには効率が悪い。

「その点、ラキスさんとアリアさんなら――」
「そっか! モンスターを育てればいいのか!!」

 アリアは飛び跳ねるように体を起こし、瞳をらんらんと輝かせている。

「そのことで、アークにひとつ頼みがある」
「なんでしょう?」

 ラキスが「サモン」とつぶやくと、一匹のゴブリンが隣に姿を現した。
 そのゴブリンは、ほかのゴブリンとは少し違う。

 額には小さな二本の角。
 背中には翼竜のような翼が一対。
 紅葉色の肌には鱗のようなものがある。

「こいつは、赤と白のドラゴンを生贄にサクリファイスしたゴブリン、ドラゴブリンだ」

――――――――――――――――――――
【名称】ドラゴブリン

【説明】
 生贄サクリファイスによってドラゴンの力を得たゴブリン。
 鱗はあるがそれほど堅くない、翼はあるが飛ぶことはできない。

「あれはドラゴンなのか? ゴブリンなのか?」
「そりゃおまえ、ゴブリンだろうよ」
「うわっ! 火を吹いたぞ!! やっぱりドラゴンじゃないか」
「火を吹けばドラゴンってぇなら、あそこの旅芸人もドラゴンってことになるな」

【パラメータ】
 レアリティ C
 攻撃力   C
 耐久力   C
 素早さ   D
 コスト   B
 成長性   A

【スキル】
 火炎の息吹
 炎耐性(中)

――――――――――――――――――――

「ああ、覚えていますよ。 たしかアリアさんが盛大にお腹を鳴らしたときの」
「その話はいまらなくない⁉」

 顔を真っ赤にしたアリアが、アークに全身で抗議の声を上げている。

「こいつに剣技を教えて欲しい」
「モンスターに剣を、ですか?」
「弓は時間をかければ的に当たるようになったが、剣は相手がいないことには練習にならなくてな」

 剣術を学んだことも無いラキスでは、ゴブリンに剣を仕込むことは出来なかった。
 だからずっと弓兵アーチャーが戦力の中心。

 野良で契約したゴブリンは色々いるが、元々、戦闘技術に特化した種ではない。
 契約したゴブリンのほとんどは、原始的な戦い方をするただのゴブリン。 
 たまに変わったヤツも出てくるが、爆弾魔ボマーみたいな尖ったヤツばかり。

 生き残れば勝ちという防衛戦ばかりの頃は、前衛は大楯兵シールダーで事足りた。
 だがこの前は、その弱点を突かれたかたちだ。
 もし剣士がいたならば、易々とルシガーを取り逃すことはなかっただろう。

 ラキスの隣で、アリアがゴブリンの弓兵や大楯兵について説明している。
 
 モンスターを育成する、という突飛な話。
 最初のうちはアークも怪訝な顔をしていたが、最後は無理やり納得することにしたらしい。

「なるほど。わかりました。生贄サクリファイスを見たときも驚きましたが、モンスターが剣術や弓術を習得するとは。私からしたら、もはや怪奇現象ですよ」

 ラキスさんが全ての元凶ですけどね、とアークが肩をすくめる。
 なんにせよ、納得してくれたのならいい。

「コイツはここに置いていくから、みっちり鍛えてやってくれ」

 ドラゴブリンの頭をポンポンと叩く。

「&:%○■!※♭×☆!!」

 気合の入った返事が戻ってきた。
 本人もやる気満々だ。

「じゃあ、ラキスはボクに付き合ってね!」
「そのつもりだ」

 アリアはニッコニコの笑顔で、ラキスの外套の袖を引いた。
 かたや、アークは再び目を丸くしている。

「フフッ。召喚を維持したまま、自分は別の場所でパワーレベリングですか。薄々感じてましたが、あなたもバケモノですね」

 やや引きつった笑いをしていたが、ラキスはいつも通り気にしないことにした。

「このあたりでモンスターが多い場所は?」

 ラキスの問いにアークが指差したのは、先日も登った古龍の眠る山だった。

「あの山にある洞穴がオススメです。古龍が眠っているからでしょうか……。ほかよりもモンスターが少し狂暴ですけど」

 ラキスさんなら問題ないです、とアークは笑った。



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