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第三章 一世一代の大博打
山の洞窟に入ると地獄であった。洞の底が赤くなった。
しおりを挟む「サクリファイス」
アリアの声だけが洞窟に反響する。
アークの勧めで、ラキスと訪れた洞窟の中。
そこに広がっていたのは、まるで地獄のような光景だった。
体を灼く凄まじい熱気。
赤くドロドロとした灼熱の湖。
次から次へと飛び出すモンスター。
「さあ、次のお客さんだ」
ラキスの声に、アリアは顔を上げた。
迫っているのは火蜥蜴が三匹。
シュタシュタ。シュタシュタシュタシュタ。
湿った足音を立てて、ジグザグに近づいてくる。
その身体は内から噴き出す炎に包まれている。
爬虫類独特のパッチリおめめがギョロリとアリアを見据えてくる。
はじめは気持ち悪いと思ったあの瞳も、七日目ともなるとすっかり見慣れた。
「またサラマンドラ……。今日何匹目だっけ?」
「五匹目から後は数えてない」
「それ、一回目の遭遇で出てきた数だよな」
「数える意味が無いからな」
その通りなんだけれど。
数えておけば、あとで話のネタにくらいは出来たかもしれない。
などと考えているアリアも、当然だが出てきた数など覚えていない。
「じゃあ。頼むぞ、ザントマン」
老齢の妖精が白い袋から取り出したのは砂。
これをサラマンドラに向かってサッと撒く。
砂はサラマンドラの目に吸い込まれる。
目をつむったサラマンドラは、そのまま眠りへと落ちた。
この眠りの砂こそが砂男の名の由縁。
あとはラキスのゴブリンが、きっちり眉間を射抜いて終わり。
サラマンドラは決して弱いモンスターではない。
素早いし、炎の塊みたいなものだし、どちらかと言えば手ごわい部類だ。
しかし地を這う蜥蜴型モンスターには、ザントマンの砂がよく届く。
モンスター同士には相性がある、ということがよくわかる事例だ。
「いいモンスターじゃないか」
「うん。ボクもそう思うよ」
攻撃スキルを持たないから最初はガッカリした。と、いうことはラキスには秘密。
「サモン……、サクリファイス」
三つの光の球が、ユニコーンの白く筋肉質な体躯へと吸い込まれていく。
これは賭けだ。
生贄はする側とされる側の、強さの差と相性で結果が大きく変わる
単純に考えればザントマンが適任だ。
ドライアドはフェアリーからランクアップ済み。
ユニコーンはそもそも能力値が高い。
その点、未強化のザントマンなら、すくすくと成長すること請け合いだ。
それでもアリアはユニコーンを強化することに決めた。
理由はふたつ。
ひとつは、ここのモンスターが強いから。
ユニコーンを地道に強化できる機会は貴重だ。
もうひとつは、切り札を持つため。
戦線を維持する能力はラキスのゴブリンが、回復と補助はドライアドとザントマンがいる。
いま一番欲しいのは最大火力。
戦況を一変させるような強大な一発。
その可能性を秘めているとすれば、それはユニコーンだとアリアは確信していた。
なぜならユニコーンは神獣だから。
きっと、秘めた力を隠し持っている……ハズだ。
この七日で、どれだけのサラマンドラを生贄にしたかわからない。
しかし、ユニコーンはなにひとつ変わらない。
ランクアップどころか、新スキルも獲得しない。
「また、ダメだったぁ」
「焦るな。まだ時間はある」
ラキスはそう言うが、このまま何の成果も無しでは目も当てられない。
帰ったらアークにどんな嫌味を言われるやら。
考えるだけでも気分が重たくなる。
ユニコーンの可能性は確信していても、タイムリミットまでに可能性の花が開くという確信までは持てない。
今からでもザントマンをパワーアップさせる方針に切り替えた方が良いだろうか。
いや、中間を取ってドライアドの方が……。
だけどそれは、どっちを選んでもこの七日間を無駄にすることと同じ。
せめてサラマンドラ以外のモンスターが出れば、
相性がマッチする可能性に期待できるのだけど。
あちらが良いか、こちらが良いか。
アリアはひとり、うんうんと唸る。
「そこ、足元気をつけろ」
「んーーー、…………うわっ!?」
悩みながら歩いていたら、大きな石、いや小さな岩に蹴つまづいた。
よろけた先で地面に手をつく。
十センチメートルくらい隣で、赤い海がボコッと泡を立てた。
もう少しズレたところに手を置いていたら、アリアは炭になっていた。
ながら歩き、ダメ絶対。
ボコッ、ボコボコッ。
「ん?」
ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコボコボコボコボコボコッ。
「んんーーーーッ!?」
赤い灼熱の海に浮かぶ泡。
その数が尋常でなく増え続けている。
「ラ、ラ……ラキ、ぎゃっ!!」
またしても襟首の引っ張られた。
アリアはその勢いのまま立ち上がるが、後方によろめいてしまう。
トンッ、と後頭部に触れたのはラキスの胸板。
見た目よりしっかりした筋肉の質感を感じる。
「しっかり立て」
「あっ! ご、ごめん!!」
アリアは火照った顔を、ブンブンと左右に振る。
(なんだろう、アツい。熱気に負けちゃったかな)
「前を見ろ」
「え? ……うわっ」
先ほどまでアリアがいた場所に岩が浮いていた。
それもひとつではなく、大小いくつも。
ガゴッ、ズガガッ、と音を立てて岩がぶつかり、みるみるうちに大きな塊になっていく。
アリアはその塊に似たものを見たことがあった。
「アース、ゴーレム?」
アリアを護って死んだ付き人兼教育係。
彼女が召喚したアースゴーレムとよく似ている。
やはり全長は三メートルほど。
だけど土で出来たゴーレムより、こちらの方が何倍も堅そうに見える。岩だし。
なにより問題は、あの岩が灼熱の湖から飛び出したということ。
「絶対、めっちゃ熱いやつだ」
「ヒートロックゴーレム、とでも呼ぶか」
正直、呼び方はなんでもいい。
なんならこの場に限ってはゴーレムでいいと思う。
それはさておき、相手がなんであろうと、眠らせてしまえばこちらの勝ちだ。
なら、ここでアリアがやるべきことは、
「ざ、ザントマン!」
ナイトキャップがゆらりと揺れて、ザントマンが上方へ砂を撒く。
「ゴオオオオォォォ」
しかしキラキラと光る砂はゴーレムの一薙ぎで霧散した。
その腕が拳を握ってアリアの方に降ってくる。
「ぎゃあああああああっ!」
恐怖のあまり、思わず目をつぶってしまった。
(ヤバい、これ死んだかも)
しかしドォォン、という音だけで、いつまで経っても何も落ちてこない。
不思議に思ったアリアが目を開くと、大きな盾を持ったゴブリンが立っていた。
「大楯兵!?」
「はやく下がれ」
ラキスが大楯兵を召喚してアリアを護ってくれたらしい。
だけど、腑に落ちない点がある。
「待って。大楯って木製じゃなかった?」
「そうだな」
相手は灼熱の湖から出てきた岩のゴーレム。
木製の大楯なんか、秒で燃えておかしくない。
「なんで燃えてないの?」
「俺のゴブリンはパワーアップしている」
「そっか……ん?」
いま、なにか引っ掛かったぞ。
「いま『は』って言った?」
「……なんのことだ」
「いま『俺のゴブリンは』って言った!!」
「……さて」
「それイヤミ? ボクへの当て付け? あああぁぁぁ! むぅかぁつぅくぅ!!」
「くるぞっ!!」
「ごまかすぅぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!」
ゴーレムの体から、真っ赤な岩が分離し、弾丸のように飛んできた。
すんでのところで躱した岩は、ふわふわと浮き上がり、ふたたび本体へと戻っていく。
「ズルい! 無限に撃てるやつじゃないか」
「モンスターだからな」
「そういう正論は、いまじゃない」
「さておき、どう攻略するか……」
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