【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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第29話 「死刑囚」

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意識が戻った時には、すでに冷たく暗い陰気な地下牢に放り込まれていた。
今朝までいた未決房ではなく、罪人が入るための牢だと一目で分かるぐらい環境が悪化している。
逃亡を防ぐために両手足にはしっかりと枷が嵌められていた。
もちろん牢の周囲に、魔術の干渉を防ぐ結界が幾重にも強固に張り巡らされている。
...私はもう死刑囚なのだ。

「大丈夫か、エレナ...」

心配げなアキュラの声に、とりあえず私は頷いた。
頭も痛むし、吐き気も残っているが、宮廷裁判の時ほどの苦痛はない。
どうにか身体は小康状態になったようだ。

「ええ、どうにか生きてはいるけれど...」

「...どうやら君の身体の中の魔力回路が大幅な異常をきたしているようなのだ」

「それって...?」

「うむ、実は君が気を失っている間も、私もどうにか治癒できないかと試みてみたのだが、君の身体自体が魔力を拒絶するようで、無理に流し込むと苦痛を増すようだ」

「いったいなぜ...」

「わからない...外部からの魔術的な干渉はなかったはずだ。もしあれば私が気づくはずだからね。とすると、何らかの毒物やも...」

「毒物...いったいいつ...」

そこで私とアキュラは慄然と顔を見合わせた。

「まさか、裁判の前に出された夕食に...?」

その瞬間、地下牢の扉が重々しい音とともに突如として開いた。

「その通りよ、エレナ。綺麗に全部食べてくれたのにはびっくりしたわ。貴族令嬢にしては、よほど性根が卑しいのかしら?」

嘲りを隠そうともしない声の主は、もちろんミリア・サンフラワーだった。

「なっ...」

「エルヴェスタ子爵令嬢が余計なお世話を焼いたのに、私が気づかないとでも?」

「では、あの菓子は...」

「ふふっ、その血の巡りが悪い頭でもようやくわかったみたいね。エルヴェスタ子爵令嬢の名前を見てあっさり信じたのでしょう?」

悔しいが、図星だった。
彼女の名を見て、励まされたと同時に油断したのが悔やまれる。
菓子を口にしたのは、その名が記されていたからだ。
ミリアはエルヴェスタ子爵令嬢の動きに気づいて、それを巧みに利用したということか。

「かなり強い毒草を盛っておいてあげたから、2週間ぐらいは魔力に触れない方がいいわよ。ま、とはいってもあなたの命はあと3日だけれど...あ、あとあなたのこともしっかり見えているし聞こえてもいるから、余計な期待は持たないことね」

そう言ってアキュラの方を見てにっこりと微笑んだ。まるで爬虫類のような冷たい笑みだ。

「やはりお前は...」

そう言って絶句するアキュラに、ミリアは鷹揚に頷いた。

「そう、神殿でも見せてあげたでしょ?私にも精霊術は使えるの。そこのバカ女よりもずっと上手にね」

「そのような歪んだあり方など...」

アキュラが苦々しげに言ったその瞬間、ミリアの瞳を激情が支配するのがわかった。

「...私はこの力のおかげで生き延びてきたの。あれこれ言われる筋合いはないわ」

「...なぜこのようなことを?」

放っておけば死刑になる私の元へ、わざわざこうして足を運んできたのだ。
何か言いたいことがあるに違いない。
私の投げた言葉に、案の定ミリアは爛々と光る目で睨み据えてくる。
しかしその視線に籠る憎悪の念とは裏腹に、当てつけ以上のことを語るつもりはないようだった。

「聞けば軽薄にあれこれ語るとでも?私がなぜあなたをここまで追い込むのか、きっと気になって仕方がないのでしょう?ふふ...私はね、あなたが惨めに泣き喚いていないか心配してきてあげただけよ」

「...私が憎いなら好きにすればいい。でも他の人を巻き込むのはやめられないの?この国がどうなってもいいと?」

無駄とは思いつつ、最後の悪足掻きの言葉を投げても、案の定ミリアの心は揺らがないようだった。

「国だの民だの...誰しも綺麗事を言うのね。私が飢えて泣いていた時に...誰も助けてはくれなかった」

そう呟いたミリアの声はひどく乾いていて、先ほどのまでの勝利者の余裕はどこかへ行ったようだ。

「それは...でも、誰もが悪というわけではないでしょう。懸命に生きている善良な人々も大勢いる...」

「関係ないわ。私は自分の力で生き抜いてきた。他の人も...その善良な人々とやらもそうすればいい。もちろん、あなたもできることをすればいいのよ。せいぜい頑張ってね」

それだけ言い捨てると、ミリアは扉を閉めて去ってしまった。

「もはやミリアに言葉は届かぬようだ...だが、最後まで希望を捨てるなよ、エレナ」

アキュラの懸命の励ましに、私は頷き返す。

「最後の最後まで...諦めないわ」

刑の執行まであと少し時間がある。
それまでにカイルがきっと私を助けにきてくれる。
彼の温かな瞳、情熱に満ちた顔を思い出す。
そうすると、こわばった心がほんのりと燈に照らされたように熱を感じるのがわかる。
カイルは懸命に動いてくれているに違いない。
私にできる時間稼ぎはここまでだ。あとは、信じて待つほかはなかった。
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