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最終話 「結婚」
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新体制の始動から自身の即位まで、あっという間に怒涛の日々が過ぎていった。
あちこち軋む音はするにせよ、この国は少しずつ前に動き始めている。
どうにか内政の再構築を終えた今、まだやり残していた守護結界の再構築に取り掛からねばならない。
休む間もなく、明日にはふたたび辺境へと旅立つことになる。
そんな夜に、今や私のものとなった王城のバルコニーから安寧を取り戻した王都の灯火を眺めながら、カイルと二人でようやく一息ついていた。私の膝にはいつものようにアキュラが眠りこけていた。
「陛下、お疲れではないですか?」
「お疲れよ、それはもう」
「明日も早いですから、もうお休みになられては...」
相変わらずのド正論に、私はむくれて見せる。
「精霊女王に命令するの?」
「...いいや、私の大事なエレナへのお願いだよ」
口調を改めたカイルが、微笑みながら私の肩に手を置いた。
二人三脚でこの苦境に立ち向かう中で、私たちの距離は急速に縮まっていた。
私たちは互いを必要としていることがはっきりとわかっていたし、もはやそれを隠す必要もなかった。
「結界の再構築が終わったら...ガーデンでゆっくりしたいな」
ガーデン。
私たちが出会った場所。
そこから大きく運命が変わり、思いもよらぬ景色を見ることになった。
ほんの数ヶ月前のことなのに、遥か遠い昔のような、そんな気持ちだった。
あの時、カイルに出会わなければー私は違う道を歩んでいたのだろうか。
ふとそんなことを思うが、しかしこの道が必然だったような気もする。
多くの喪失と別れがあった。
その痛みは決して癒えることはないだろうし、今も心のどこかに鋭い痛みが残り続けている。
しかしー肩に置かれた温かな手から伝わるカイルの愛情が、激しく傷ついた私の心を包み込んでいた。
「...エレナ」
「?」
真剣な表情になったカイルが、私の瞳をじっと見つめてくる。
出会った頃と変わらない真摯で誠実な光に、今はもう少し柔らかさが加わった気がする。
カイルがゆっくりと口を開いた。
「結界の再構築が終わったらー私と結婚してくれますか?」
ーそれは、私がずっと待っていた言葉だ。
それなのに、胸が詰まってすぐには返事が出てこない。
代わりに、はらはらと涙がこぼれ落ちていく。
カイルは何も言わずに、そっと私の顔に触れて涙を拭ってくれる。
ーああ、これはもちろん、嬉し涙だ。
「...もぢろんでず」
かろうじて絞り出した声は、みっともないほど震えていて。
できればもっとかっこよく返事をしたかったのだけれど。
次の瞬間、カイルの腕に抱きすくめられて、私はもう息ができないほどだ。
多くの精霊たちが見守る中でー私たちははじめて口づけを交わす。
それは、年ゆかぬ少年少女が大人たちの見よう見まねでするようなーとても不器用なものだった。
これからはきっと、もっと上手になっていくのだろうけれど。
「ー責任はきちんと取りますから」
照れ隠しか、カイルが珍しく冗談を言う。
「...ばか」
そうして二人でくすくすと笑い合った。
その笑い声に目を覚ましたのか、膝の上のアキュラが目を覚まして不思議そうにこちらを見上げている。
記憶も言葉も失った元精霊王は、しかし何かを覚えているのか、私やカイルから離れることはない。
「きゅきゅ?」
「...アキュラも祝ってくれているかな?」
「もちろんよね」
「きゅ!」
わかっているのかいないのか、アキュラは嬉しそうにしっぽをふりふりしていた。
そんな様子を私たちは愛おしげに見守って、再びそっと口づけを交わす。
2回目のそれは、さっきよりはもう少し上手だった。
「あ!口づけなんかしちゃって!お嬢様?!」
「いいじゃねーか、俺たちもしようぜ!」
いいところだったのに、うるさい二人ーエリックとサキのコンビが突如乱入してくる。
きっとこっそり二人して覗き見していたに違いない。
...というか、この二人はまだ...口づけをしていなかったのか。
「俺たちも結婚することにしたから、どうせなら一緒に派手にやらないか?」
「あんたバカ!?精霊女王陛下と一緒にやれるわけないでしょ!」
「そうか?じゃあ二次会だけでも...そういやムーン公とエルヴェスタ子爵令嬢もくっつくらしいぞ。あの美貌の誉の高いエルヴェスタ子爵令嬢と...」
「...ちょっとあんた、後でしっかり話し合いが必要みたいね」
まだ結婚してもいないのにすっかり夫婦漫才を繰り広げる二人を前に、カイルと二人で見つめあい、私たちも爆笑に包まれる。
この先どんな未来が待ち受けているかわからないけれど。
きっと明るいものにしてみせる。
精霊たちが見守ってくれる中で、私とカイルは再びしっかりと手を握り合った。
完
あちこち軋む音はするにせよ、この国は少しずつ前に動き始めている。
どうにか内政の再構築を終えた今、まだやり残していた守護結界の再構築に取り掛からねばならない。
休む間もなく、明日にはふたたび辺境へと旅立つことになる。
そんな夜に、今や私のものとなった王城のバルコニーから安寧を取り戻した王都の灯火を眺めながら、カイルと二人でようやく一息ついていた。私の膝にはいつものようにアキュラが眠りこけていた。
「陛下、お疲れではないですか?」
「お疲れよ、それはもう」
「明日も早いですから、もうお休みになられては...」
相変わらずのド正論に、私はむくれて見せる。
「精霊女王に命令するの?」
「...いいや、私の大事なエレナへのお願いだよ」
口調を改めたカイルが、微笑みながら私の肩に手を置いた。
二人三脚でこの苦境に立ち向かう中で、私たちの距離は急速に縮まっていた。
私たちは互いを必要としていることがはっきりとわかっていたし、もはやそれを隠す必要もなかった。
「結界の再構築が終わったら...ガーデンでゆっくりしたいな」
ガーデン。
私たちが出会った場所。
そこから大きく運命が変わり、思いもよらぬ景色を見ることになった。
ほんの数ヶ月前のことなのに、遥か遠い昔のような、そんな気持ちだった。
あの時、カイルに出会わなければー私は違う道を歩んでいたのだろうか。
ふとそんなことを思うが、しかしこの道が必然だったような気もする。
多くの喪失と別れがあった。
その痛みは決して癒えることはないだろうし、今も心のどこかに鋭い痛みが残り続けている。
しかしー肩に置かれた温かな手から伝わるカイルの愛情が、激しく傷ついた私の心を包み込んでいた。
「...エレナ」
「?」
真剣な表情になったカイルが、私の瞳をじっと見つめてくる。
出会った頃と変わらない真摯で誠実な光に、今はもう少し柔らかさが加わった気がする。
カイルがゆっくりと口を開いた。
「結界の再構築が終わったらー私と結婚してくれますか?」
ーそれは、私がずっと待っていた言葉だ。
それなのに、胸が詰まってすぐには返事が出てこない。
代わりに、はらはらと涙がこぼれ落ちていく。
カイルは何も言わずに、そっと私の顔に触れて涙を拭ってくれる。
ーああ、これはもちろん、嬉し涙だ。
「...もぢろんでず」
かろうじて絞り出した声は、みっともないほど震えていて。
できればもっとかっこよく返事をしたかったのだけれど。
次の瞬間、カイルの腕に抱きすくめられて、私はもう息ができないほどだ。
多くの精霊たちが見守る中でー私たちははじめて口づけを交わす。
それは、年ゆかぬ少年少女が大人たちの見よう見まねでするようなーとても不器用なものだった。
これからはきっと、もっと上手になっていくのだろうけれど。
「ー責任はきちんと取りますから」
照れ隠しか、カイルが珍しく冗談を言う。
「...ばか」
そうして二人でくすくすと笑い合った。
その笑い声に目を覚ましたのか、膝の上のアキュラが目を覚まして不思議そうにこちらを見上げている。
記憶も言葉も失った元精霊王は、しかし何かを覚えているのか、私やカイルから離れることはない。
「きゅきゅ?」
「...アキュラも祝ってくれているかな?」
「もちろんよね」
「きゅ!」
わかっているのかいないのか、アキュラは嬉しそうにしっぽをふりふりしていた。
そんな様子を私たちは愛おしげに見守って、再びそっと口づけを交わす。
2回目のそれは、さっきよりはもう少し上手だった。
「あ!口づけなんかしちゃって!お嬢様?!」
「いいじゃねーか、俺たちもしようぜ!」
いいところだったのに、うるさい二人ーエリックとサキのコンビが突如乱入してくる。
きっとこっそり二人して覗き見していたに違いない。
...というか、この二人はまだ...口づけをしていなかったのか。
「俺たちも結婚することにしたから、どうせなら一緒に派手にやらないか?」
「あんたバカ!?精霊女王陛下と一緒にやれるわけないでしょ!」
「そうか?じゃあ二次会だけでも...そういやムーン公とエルヴェスタ子爵令嬢もくっつくらしいぞ。あの美貌の誉の高いエルヴェスタ子爵令嬢と...」
「...ちょっとあんた、後でしっかり話し合いが必要みたいね」
まだ結婚してもいないのにすっかり夫婦漫才を繰り広げる二人を前に、カイルと二人で見つめあい、私たちも爆笑に包まれる。
この先どんな未来が待ち受けているかわからないけれど。
きっと明るいものにしてみせる。
精霊たちが見守ってくれる中で、私とカイルは再びしっかりと手を握り合った。
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