【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん

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第3話 女騎士の敵意と訓練の始まり

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美月の聖女としての生活が始まって三日が経った。

朝の剣術訓練では、レオンが丁寧に基本の構えから教えてくれる。午後の魔術学習では、アルトが辛抱強く魔力の扱い方を指導してくれる。そして一日を通して、カイルが影のように美月を護衛している。

三人とも美月に対して驚くほど献身的で、まるで彼女が王族以上の存在であるかのように大切に扱ってくれた。

「今日の剣の構えは昨日より安定していますね」

訓練場でレオンが嬉しそうに微笑む。朝の光が金色の髪を照らし、その美しさは絵画のようだ。

「レオンが丁寧に教えてくれるおかげです」

美月が微笑み返すと、レオンの頬がほんのりと赤く染まった。

「そんな……私の方こそ、あなたに教えることで多くを学んでいます」

二人の和やかなやり取りを見ていたカイルが、少し複雑な表情を浮かべる。

「お嬢さんは筋がいいな。俺が見てきた新人騎士の中でも上位だ」

「本当ですか?」

美月の瞳がきらりと輝く。その純粋な喜びようを見て、レオンとカイルは同時に胸を締め付けられるような感覚を覚えた。

(なぜだろう。彼女を見ていると、守りたいという気持ちが抑えられない)

レオンは自分の心の変化に戸惑っていた。聖女の力で疲労が癒されたからというだけでは説明のつかない、強い感情が湧き上がってくる。

そのとき――

「失礼します」

凛とした女性の声が響いた。

振り返ると、そこには銀色の髪を高く結い上げた美しい女性が立っていた。彼女は騎士の鎧を身に纏い、腰に剣を帯びている。その立ち姿は凛々しく、まさに女騎士という言葉がぴったりだった。

しかし、美月を見る青い瞳には、明らかな敵意が宿っている。

「エリア……」

レオンが僅かに眉をひそめた。

「レオン殿下。お忙しい中失礼いたします」

エリアと呼ばれた女騎士は、レオンには恭しく一礼したが、美月に対しては素っ気ない視線を向けるだけだった。

「私はエリア・ヴァルハラ。王国騎士団副団長を務めております」

冷たく自己紹介をするエリアに、美月は戸惑いながらも丁寧にお辞儀をした。

「佐藤美月です。よろしくお願いします」

「……」

エリアは美月の挨拶を無視し、レオンの方を向いた。

「殿下、お話があります」

「ここで話せないことか?」

「はい」

レオンは困ったような表情を浮かべたが、結局エリアの要求を受け入れた。

「美月、少し席を外します。カイル、頼む」

「任せろ」

レオンとエリアが訓練場を出て行くと、美月は不安そうにカイルを見上げた。

「あの人、私のこと嫌いみたいですね……」

「気にするな。エリアは……複雑な事情があるんだ」

カイルが美月の肩に手を置こうとして、はっと止める。以前、うっかり触れたときに体中を駆け抜けた温かい感覚を思い出したのだ。

(あの時の感覚……あれは一体何だったんだ)

一方、訓練場の外では――

「エリア、何の用だ」

「殿下、あの女を信用なさるのですか?」

エリアの声には怒りが込められていた。

「あの女?美月のことか」

「はい。突然現れて聖女を名乗り、殿下方をたぶらかして……」

「たぶらかす?何を言っている」

レオンの声が低くなった。美月を悪く言われることに、強い不快感を覚える。

「殿下、お気づきになりませんか?あの女が来てから、殿下もアルト様もカイルも、明らかに様子がおかしいのです」

「……」

レオンは言葉に詰まった。確かに、美月に対する自分の感情の変化は尋常ではない。しかし――

「それは美月の人柄に触れれば当然のことだ。彼女は心根の優しい、素晴らしい女性だ」

「殿下!」

エリアの声が震えた。そこには怒りだけでなく、深い悲しみが含まれている。

「なぜそこまで……あの女を庇われるのですか。殿下は昔から、そんなに簡単に他人を信じる方ではなかったはずです」

レオンはエリアの言葉にはっとした。確かに、自分でも驚くほど美月に対して心を開いている。

「エリア……」

「私は……私は殿下をお守りしたいだけです」

エリアの瞳に涙が浮かんだ。彼女のレオンに対する想いは、もはや隠しようがなかった。

「殿下、お願いです。あの女から距離を置いてください」

しかし、レオンは首を横に振った。

「それはできない。美月は聖女だ。王国の宝を守るのが私の使命だ」

「使命……ですか」

エリアは唇を噛んだ。レオンの言葉が使命感からだけでないことは、彼女にも分かっていた。

「分かりました。では、私にも彼女を監視させてください」

「監視?」

「護衛です」

エリアの瞳に決意の光が宿った。

「私もあの女……美月の護衛に加えていただきたいのです」

レオンは暫く考え込んだ。エリアの美月に対する敵意は明らかだったが、彼女の騎士としての実力は王国随一だった。

「……分かった。しかし、美月に失礼があってはならない」

「承知いたしました」

こうして、美月の周りに新たな人物が加わることになった。

午後の魔術の授業で、アルトは美月の上達ぶりに目を見張っていた。

「素晴らしい。たった三日でここまで魔力をコントロールできるようになるとは」

アルトの褒め言葉に、美月は嬉しそうに微笑んだ。

「アルトの教え方が上手だからです」

その無邪気な笑顔を見て、アルトの胸がぎゅっと締め付けられる。

(彼女といると、心が穏やかになる。まるで長年求めていたものを見つけたような……)

「あの、アルト?」

美月の声に我に返ると、彼女が心配そうに覗き込んでいた。

「大丈夫ですか?顔が赤いですよ」

「あ、いえ……何でもありません」

慌てて顔を逸らすアルトを見て、美月は首をかしげた。最近、男性陣がよくこういう反応を示すのが気になっていた。

そのとき、扉が開いてエリアが入ってきた。

「失礼します。本日より美月の護衛を務めることになりました、エリア・ヴァルハラです」

アルトが驚いたような顔をする。

「エリアが?それはまた……」

「レオン殿下のご命令です」

エリアは美月の方を見ると、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべた。

「今後、私があなたの行動を監視……護衛いたします」

その冷たい態度に、美月は萎縮してしまった。

「よ、よろしくお願いします……」

小さく頭を下げる美月を見て、アルトの表情が曇った。

「エリア、もう少し丁寧に……」

「これで十分です」

エリアは素っ気なく答えると、部屋の隅に立って腕を組んだ。まるで美月を監視する看守のような態度だった。

気まずい空気の中、魔術の授業は続いたが、美月の集中力は明らかに削がれていた。エリアの鋭い視線が、常に自分に向けられているのを感じるからだ。

(どうして、あの人は私を嫌うんだろう……)

美月は悲しくなった。せっかく王宮での生活に慣れ始めたところだったのに、また新しい問題が生まれてしまった。

授業が終わると、アルトが心配そうに美月に近づいた。

「大丈夫ですか?元気がないようですが」

「あ、はい。大丈夫です」

美月は無理に笑顔を作ったが、その作り笑いをアルトは見逃さなかった。

「美月……」

アルトが何か言いかけたとき、エリアが割って入った。

「時間です。夕食の準備をしましょう」

「あ、はい」

美月は慌てて立ち上がったが、その時つまづいてしまった。

「あっ!」

美月が転びそうになった瞬間、アルトとエリアが同時に手を伸ばした。しかし、美月を支えたのはエリアの方だった。

「大丈夫ですか?」

エリアが美月を抱きとめた瞬間――

「!?」

エリアの瞳が大きく見開かれた。美月の体から伝わってくる温かな力に、全身が震える。

長年の戦いで蓄積された心身の疲労、レオンへの�叶わぬ想いによる心の痛み、そして美月への敵意さえも、すべてが暖かい光に包まれて溶けていく。

「これは……一体……」

エリアは美月を見つめた。その瞳に宿っていた敵意が、困惑に変わっている。

「エリアさん?」

美月が心配そうに見上げると、エリアの頬がほんのりと赤くなった。

「あ……その……大丈夫です」

慌てて美月を離すエリアの態度は、先ほどまでとは明らかに違っていた。

(何だ、この感覚は……まるで、母に抱かれているような……)

エリアは自分の心の変化に戸惑った。美月を敵視していたはずなのに、今は逆に守ってあげたいような気持ちになっている。

「それでは、お食事に向かいましょう」

アルトが提案し、三人は食堂に向かった。しかし、エリアの様子は明らかに変わっていた。美月への監視の目つきが、いつの間にか心配そうな眼差しに変わっている。

夕食の席で、レオンとカイルが合流すると、エリアの変化に二人も気づいた。

「エリア、どうした?さっきと雰囲気が違うぞ」

カイルの問いかけに、エリアは慌てたように顔を赤らめた。

「べ、別に何も変わっていません」

しかし、その後のエリアの行動は明らかに変わっていた。美月がお茶をこぼしそうになれば慌てて支え、肉が固いと言えばすぐに柔らかい部分を選んで取り分ける。

まるで、美月を大切な妹のように扱っているのだ。

「エリアさん、ありがとうございます」

美月が嬉しそうに微笑むと、エリアの顔がさらに赤くなった。

「べ、別に……当然のことをしているだけです」

その様子を見て、レオン、アルト、カイルの三人は複雑な表情を浮かべた。また一人、美月の虜になる者が現れたのだ。

(まさか、エリアまで……)

レオンは内心で苦笑した。美月の持つ力は、本人が思っている以上に強力なようだった。

こうして、美月を取り巻く状況はさらに複雑になっていく。彼女自身はまだ気づいていないが、確実に多くの人々の心を掴んでいるのだった。
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