【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん

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第4話 暗雲と聖女の覚悟

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美月が王宮に来て一週間が過ぎようとしていた。

朝の鐘が鳴り響く中、美月は中庭で一人魔力の練習をしていた。アルトに教わった基礎訓練を繰り返しながら、自分の中に眠る力をより深く理解しようと努めている。

「集中……そして、解放」

美月の手のひらから淡い光が溢れ出る。それは見る者の心を癒す、優しい温もりを持った光だった。

「素晴らしい上達ぶりですね」

後ろから聞こえた声に振り返ると、アルトが微笑みながら立っていた。

「アルト。おはようございます」

「おはようございます、美月。随分早起きですね」

「何だか、もっと上手になりたくて」

美月の真摯な態度に、アルトの胸が温かくなる。彼女の一生懸命な姿を見ていると、どうしても手を差し伸べたくなってしまう。

「でしたら、私がお手伝いしましょう」

アルトが美月の隣に立ち、彼女の手に自分の手を重ねた。

「魔力はただ放出するのではなく、相手の心に寄り添うように……」

二人の手が触れ合った瞬間、美月の魔力がより安定した輝きを放った。しかし同時に、アルトの心臓が激しく鼓動を始める。

(なぜだろう。彼女に触れていると、まるで自分が完全な存在になったような……)

「アルト?顔が赤いですよ」

美月の心配そうな声に、アルトは慌てて手を離した。

「い、いえ。何でもありません」

そのとき、急ぎ足で近づいてくる人影があった。レオンだった。その表情は普段の穏やかさとは正反対に、深刻な緊張を湛えている。

「美月、アルト」

「レオン?どうしたんですか?」

「緊急事態です。すぐに玉座の間へ」

レオンの切迫した声音に、美月は不安を覚えた。

玉座の間に着くと、そこには既に国王を始め、多くの重臣たちが集まっていた。皆、重苦しい表情を浮かべている。

「聖女よ、こちらへ」

国王に促されて前に進むと、一人の騎士が血まみれの姿で支えられているのが見えた。

「これは……」

美月が息を呑むと、カイルが彼女の肩に手を置いた。

「大丈夫だ。俺たちがついている」

その温かい言葉に、美月は少し安心した。

「報告しろ」

国王の命に、血まみれの騎士が震え声で答えた。

「は……東の国境にて、魔物の大群を確認いたしました。その数、少なく見積もっても三千……いえ、それ以上かと」

場内にどよめきが起こった。三千という数は、通常の魔物の群れの十倍以上だった。

「魔物たちの様子はどうだった?」

レオンが尋ねると、騎士の顔が青ざめた。

「それが……普通の魔物ではありませんでした。まるで何かに操られているかのように、統制の取れた動きを見せていたのです」

「操られている?」

アルトの表情が険しくなった。

「もしや……『暗黒魔術師』の仕業でしょうか」

その名前が出た瞬間、場内の空気が一層重くなった。

「暗黒魔術師とは?」

美月が小声で尋ねると、エリアが説明した。

「邪悪な魔術を使い、魔物を操る者たちです。十年前にも王国を襲い、多大な被害をもたらしました」

エリアの声には、過去の記憶に対する怒りが込められていた。

「十年前……」

美月は周りの人々の表情を見回した。皆、辛い記憶を思い出しているようだった。

「陛下」

アルトが前に進み出た。

「もし本当に暗黒魔術師の仕業だとすれば、通常の軍事力だけでは対抗困難です。聖女の力が必要になるでしょう」

すべての視線が美月に集まった。彼女は急に背負わされた重責に、膝が震えそうになる。

「私に……何ができるでしょうか」

美月の不安そうな声に、レオンが歩み寄った。

「美月、無理をする必要はありません」

「でも……」

美月は国王を見上げた。

「陛下、私はまだ聖女として未熟です。でも、もし私の力で王国の人々を守れるなら……」

美月の言葉に、国王の表情が和らいだ。

「そなたの気持ちは分かった。しかし、まだ時間がある。しっかりと準備を整えてから出陣することにしよう」

会議が終わると、美月は一人中庭に出た。急に背負うことになった責任の重さに、胸が苦しくなる。

(私なんかで、本当に王国を守れるのかな……)

そんな彼女の前に、レオン、アルト、カイル、エリアの四人が現れた。

「美月」

レオンが優しく声をかける。

「一人で抱え込まないでください。私たちがいます」

「そうだ。お嬢さんは一人じゃない」

カイルの力強い言葉に続いて、アルトも頷いた。

「私たちは美月を支えます。どんなことがあっても」

最後にエリアが、いつもの強がりを捨てて素直に言った。

「私も……美月を守りたいのです」

四人の真摯な眼差しを受けて、美月の胸に温かいものが広がった。

「みんな……ありがとう」

美月が微笑むと、四人の顔に安堵の色が浮かんだ。

「それでは、明日から本格的な戦闘訓練を始めましょう」

レオンの提案に、全員が頷いた。

翌日から、美月の訓練は一層厳しくなった。しかし、四人が交代で付きっ切りで指導してくれるため、着実に実力を身につけていく。

剣術ではレオンが、魔術ではアルトが、実戦的な動きではカイルが、そして体力作りと精神面ではエリアが担当した。

「もう一度、構えてください」

レオンの指導は厳しかったが、その瞳には美月への深い愛情が宿っている。

「足の位置をもう少し広く……そう、その調子です」

レオンが美月の姿勢を直すために後ろから支えると、美月の頬がほんのりと赤くなった。

「レオン……近いです」

「あ……申し訳ありません」

慌てて離れるレオンを見て、カイルとアルトが少し嫉妬の表情を浮かべる。

午後の魔術訓練では、アルトが美月の集中力を高めるため、特別な瞑想法を教えた。

「心を空っぽにして、自分の内なる光を感じてください」

アルトの落ち着いた声に導かれて、美月は深い瞑想状態に入る。その姿は神々しく、まさに聖女という言葉がふさわしかった。

「美しい……」

思わず呟いたアルトの言葉に、美月がそっと目を開けた。

「え?」

「あ、いえ……魔力の光が美しいと」

慌てて誤魔化すアルトに、美月は首をかしげた。

夜の体力訓練では、エリアが美月に護身術を教えた。

「いざという時、自分の身を守る術を覚えておくことは大切です」

エリアの指導は的確で、美月の身体能力は日に日に向上していった。

「エリアさんって、本当に強いんですね」

美月の素直な賞賛に、エリアの頬が染まった。

「そ、そんなことありません。美月の方が、覚えが早くて……」

「でも、エリアさんがいてくれると安心します」

その言葉に、エリアの胸が締め付けられる。美月を守りたいという気持ちが、日に日に強くなっていた。

こうして美月の特訓が続く中、王国の情勢は刻々と悪化していた。魔物の群れは着実に王都に近づいており、各地で小競り合いが発生し始めていた。

そんなある夜、美月は一人で城の屋上に出ていた。星空を見上げながら、故郷の日本のことを思い出している。

(お母さん、お父さん……私、頑張ってる)

そのとき、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、レオンが立っていた。

「眠れませんか?」

「レオン……はい、少し」

レオンが美月の隣に座ると、二人の間に静寂が流れた。

「不安ですか?」

レオンの優しい問いかけに、美月は正直に答えた。

「はい。でも……みんながいてくれるから、きっと大丈夫だと思います」

美月の言葉に、レオンの胸が熱くなった。

「美月……」

「はい?」

レオンが美月を見つめる。月光に照らされた彼女の横顔は、この世のものとは思えないほど美しかった。

「私は……」

レオンが何かを言いかけたとき、急に魔法の光が空に上がった。それは緊急事態を知らせる合図だった。

「まさか……」

レオンの顔が青ざめる。ついに、その時が来たのだ。

城内に鐘が鳴り響き、兵士たちが慌ただしく動き回る声が聞こえてくる。

「美月、行きましょう」

レオンに手を引かれて走りながら、美月は決意を固めた。

(私にできることを、精一杯やろう)

王宮に危機が迫る中、美月の本当の戦いが始まろうとしていた。そして、彼女を愛する四人の想いも、より一層深まっていくのだった。
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