【完結】ダウナー系令嬢は少年皇子に愛され過ぎて困ったものだよ

きゅちゃん

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第4話「プロポーズを断るのも面倒ではある」

しばらく沈黙が続いた。

薔薇の間に響くのは、庭園から聞こえる噴水の音だけ。リオンは私の返事を待っているようで、その深い青色の瞳が私を真っ直ぐに見つめている。

「……少年」

「はい」

「君は、私に何か勘違いをしているんじゃないかい?」

私はゆっくりとソファに腰を下ろした。リオンも向かいの椅子に座る。

「勘違い、ですか?」

「そうだ。まず第一に、君と私では身分が違う。君は皇子で、私はただの公爵家の長女だ」

「身分なんて関係ありません」

リオンはきっぱりと言い切った。

「関係あるだろう。第二に、私は君より七歳も年上だ。普通、皇子は年下の女性と結婚するものじゃないかい?」

「年齢も関係ありません」

「そして第三に」

私は少し間を置いた。

「私は君のことを、まだ『少年』としか見ていないよ」

リオンの表情が少し曇った。

「それは…僕がまだ子どもに見えるということですか?」

「そうじゃない。君は確かに立派な大人になったが、私にとって君は、七年前に森で出会った『あの少年』なんだ。恋愛感情の対象としては見られないね」

私の言葉に、リオンは少しショックを受けたようだった。

「では、僕に可能性はないということですか?」

「可能性?」

「僕が、お姉さんの心を動かすことは不可能でしょうか」

なるほど、諦めの悪い少年だ。

「まあ、絶対に不可能とは言わないが…」

私は立ち上がって、窓の外を見た。庭園では、色とりどりの花が美しく咲いている。

「それより、君はなぜ私と結婚したいと思うんだい?七年ぶりの再会で、いきなりプロポーズなんて普通じゃないだろう」

「それは…」

リオンは少し迷うような表情を見せた。

「僕は、あの頃からずっとお姉さんのことを想っていたんです」

私は振り返った。

「想っていた?」

「はい。お姉さんが教えてくれたこと、一緒に過ごした時間、すべてが僕の宝物でした」

リオンは立ち上がって、私の方に歩いてきた。

「お姉さんは、僕に『君はきっと立派な大人になる』と言ってくれました。その言葉を胸に、僕はここまで来ることができたんです」

「それは…良かったじゃないか」

「でも、立派になったのは、お姉さんと再び一緒にいるためだったんです」

おや、これは想定外の展開だね。

「少年、君は私を理想化しすぎているんじゃないかい?七年前の私は、ただの退屈しのぎに君たちと遊んでいただけだよ」

「そうかもしれません。でも、僕にとって、お姉さんとの時間は特別だったんです」

リオンは私の前に立った。その真剣な表情を見ていると、確かに彼はもう子どもではないのだと実感する。

「それに、僕には他に選択肢がないんです」

「選択肢がない?」

「実は、僕が皇子になったのは、つい最近のことなんです」

ほう、それは興味深い話だ。

「詳しく聞かせてもらおうか」

リオンは少し躊躇したが、やがて口を開いた。

「僕は、確かに皇帝陛下の血を引いていますが、正室の子ではありません。母は下級貴族の娘で…要するに、僕は庶子だったんです」

やはりそうか。あの時の特別な雰囲気は、そういう事情があったからだろう。

「それが、どうして皇子になったんだい?」

「三ヶ月前、正統な皇太子殿下が急病で亡くなられました。そして、他の皇子たちも次々と…」

リオンの声が暗くなった。

「不可解な病気でした。宮廷の医師たちも原因が分からず、結果的に皇位継承権を持つ男子は僕だけになってしまったんです」

「それは…複雑な状況だったろうね」

「はい。僕は急遽宮廷に呼び戻され、皇子として教育を受けることになりました。でも、宮廷には僕を快く思わない人たちがたくさんいます」

「当然だろうね。庶子が突然皇位継承者になったわけだから」

「だからこそ、僕には強力な後ろ盾が必要なんです」

リオンは私を見つめた。

「ヴァルハイム公爵家は、この国でも有数の名門です。お姉さんと結婚すれば、僕の立場は格段に安定します」

なるほど、政略結婚の提案か。

「つまり、君の結婚申し込みは、恋愛感情だけではなく、政治的な意味もあるということだね」

「その通りです。でも、それだけではありません」

リオンは一歩近づいた。

「僕は本当に、お姉さんのことが好きなんです。子どもの頃からずっと、お姉さんのような人と一緒にいたいと思っていました」

「君のような人?」

「聡明で、優しくて、でも強くて、自分の考えをしっかり持っている人です」

リオンの言葉は真剣だった。でも、同時に少し危険な感じもする。

「少年、君は私のことをよく知らないだろう」

「それは違います。僕はお姉さんのことを誰よりもよく知っています」

「どういう意味だい?」

「この七年間、僕はお姉さんのことを調べていました」

私は眉を上げた。

「調べていた?」

「はい。お姉さんの日常、興味のあること、性格、すべてです」

それは…少し気味が悪いね。

「具体的には?」

「お姉さんは毎朝、屋敷の庭で植物の観察をしています。特に薬草の研究に興味があり、独自の観察記録をつけています」

確かにその通りだ。

「また、お姉さんは家族から冷遇されていますが、それを気にする様子もなく、むしろ自由な時間を楽しんでいます」

「ほう」

「そして、お姉さんには前世の記憶があり、化学の知識を持っているはずです」

私は固まった。

「……何だって?」

「お姉さんが子どもたちに教えてくれた知識は、この世界の常識をはるかに超えていました。それに、時々現代的な単語を使うことがありました」

まずいな。そんなにバレバレだったのか。

「つまり、君は私が転生者だということを知っているのかい?」

「はい」

リオンはあっさりと認めた。

「でも、ご安心ください。僕以外には誰も気づいていませんし、僕が他人に話すこともありません」

「なぜだ?」

「僕にとって、お姉さんがどんな人であっても関係ないからです。転生者であろうと、前世がどんな人であろうと、僕が愛しているのは今のお姉さんです」

これは…予想以上に厄介な状況だね。

「少年、君は私を脅迫しているのかい?」

「まさか!」

リオンは慌てて首を振った。

「僕はただ、お姉さんに僕の真剣さを理解してもらいたかっただけです」

「真剣さねえ…」

私はため息をついた。

「分かった。君の事情も理解したし、気持ちも分かった」

「それでは…」

「だが、答えは『ノー』だ」

リオンの顔が青ざめた。

「どうしてですか?」

「理由は簡単だ。面倒くさいからね」

「面倒くさい?」

「皇子妃になったら、色々な制約があるだろう?宮廷での生活、公式行事への参加、社交界でのしきたり…考えただけでうんざりだよ」

「でも、それは…」

「それに、君が私の秘密を知っているということは、私が君の弱みを握る必要があるということだ。お互いに相手の秘密を知っている関係なんて、健全じゃないだろう」

リオンは言葉を失った。

「というわけで、君のプロポーズはお断りさせてもらうよ、少年」

私は立ち上がった。

「では、今日はこれで失礼する」

「待ってください!」

リオンが私の腕を掴んだ。

「僕は諦めません」

「諦めたまえ。君にはもっと相応しい女性がいるはずだ」

「いません。僕が欲しいのは、お姉さんだけです」

その瞬間、扉が開いた。

「殿下、お茶の時間ですが…あ」

侍従が入ってきて、私たちの様子を見て固まった。

リオンが私の腕を掴んでいる状況は、確かに誤解を招きやすい。

「あの…失礼いたします」

侍従は慌てて退出しようとした。

「いや、待ちたまえ」

私は侍従を呼び止めた。

「ちょうど良いタイミングだ。私は帰らせてもらうよ」

「お姉さん…」

「少年、今日はありがとう。久しぶりに会えて楽しかった」

私はリオンの手を振り払った。

「でも、次からは私的な招待は控えてもらいたい。私は平穏な生活を送りたいんでね」

そう言って、私は薔薇の間を後にした。

廊下を歩きながら、私は考えていた。

リオンは本気のようだ。そして、私の秘密を知っている以上、今後も何らかのアプローチをしてくるだろう。

「やれやれ、面倒くさいことになったね」

でも、まさか七年前の少年があんな風に成長するとは思わなかった。

少し興味深くもあるが、やはり面倒くさい方が勝る。

私は王宮を後にして、平穏な日常に戻ることにした。

だが、この時の私は知らなかった。

リオンの「諦めない」という言葉が、どれほど真剣なものだったのかを。

そして、彼がその言葉通り、次々と新しい手を打ってくることを。

転生者の平穏な生活は、思ったよりもずっと難しいものらしい。
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