【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、もう王子には興味ありません

きゅちゃん

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第10話「完治の日」

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 ソフィアの治療は、順調に進んでいた。

 週に一度、ノルトハイムを訪れ、レオンと私で治療を施す。回を重ねるごとに、私が担当する部分も増えていった。

「エリアナ、もっと魔力を細く、繊細に。糸を紡ぐように」

 レオンの指導を受けながら、私は集中する。

 ソフィアの体内の魔力は、以前より穏やかになっていた。暴走していた魔力が、徐々に正常に戻っている。

「すごいです、エリアナ様。以前より、ずっと体が軽いです」

 ソフィアが嬉しそうに笑う。

 四回目の治療が終わった時、レオンが言った。

「次で最後だ。あと一回で、完全に治る」

「本当ですか!」

 カイルの声が弾んだ。

「ああ。エリアナ、次回はお前が主導でやってみろ」

「え?私がですか?」

「そうだ。もう、お前一人でもできるはずだ」

 レオンの目には、信頼の色があった。

「わかりました。頑張ります」

 一週間後。

 最後の治療の日が来た。

 ノルトハイムに向かう道中、私は緊張していた。

「大丈夫か?」

 レオンが聞いてくる。

「はい。でも、少し不安で……」

「不安なのは当たり前だ。でも、お前はもうできる。信じろ、自分の力を」

 その言葉に、勇気をもらった。

 宿に着くと、ソフィアが待っていた。

 驚いたことに、彼女はベッドから起き上がって、立っていた。

「レオンハルト様、エリアナ様!」

 元気な声。以前の青白い顔色は消え、頬には血色が戻っていた。

「ソフィア、立てるようになったのか」

「はい!昨日から、急に体が軽くなって。もう、痛みもないんです」

 カイルも、嬉しそうに微笑んでいた。

「お二人のおかげです」

「まだだ。最後の治療を終えないと」

 レオンが私を見る。

「エリアナ、やってみろ」

 私は深呼吸をして、ソフィアの前に立った。

「ソフィア、少し痛むかもしれないけど、我慢してね」

「はい、お願いします」

 手をソフィアの胸の上にかざす。

 目を閉じ、魔力を集中させる。

 体内に意識を向けると、まだわずかに残っている魔力の乱れが感じられた。

 それを、一つ一つ丁寧に整えていく。

 レオンに教わった通り、糸を紡ぐように。

 銀色の光が、ソフィアを包み込む。

 暴走していた魔力が、穏やかな流れに変わっていく。

 心臓の周り、肺、そして全身へ。

 魔力の流れが、完全に正常化した。

 手を離すと、ソフィアが深く息を吸った。

「すごい……体が、本当に軽いです!」

 彼女は立ち上がり、部屋の中を歩き回った。

「走れそうです!ずっとできなかったのに!」

 カイルが妹を抱きしめた。

「よかった……本当によかった……」

 兄の目から、涙が溢れる。

「ありがとうございます、レオンハルト様、エリアナ様。命の恩人です」

「礼なら、エリアナに言え。最後の治療は、彼女が一人でやったんだ」

 レオンの言葉に、二人が驚いた顔で私を見た。

「エリアナ様が……?」

「ええ。もう、立派な魔法使いだ」

 レオンが、珍しく誇らしげに笑った。

 胸が熱くなる。

 初めて、誰かの命を救えた。

 この感覚を、一生忘れないだろう。

「エリアナ様、本当にありがとうございます!」

 ソフィアが私の手を握った。

「私、エリアナ様のような魔法使いになりたいです!」

「ソフィアも、魔法使いなの?」

「はい。でも、魔力の制御が苦手で……それで暴走してしまったんです」

 ソフィアは少し恥ずかしそうに俯いた。

「でも、これからは大丈夫。エリアナ様が治してくれたんですから、もう一度頑張ります」

「応援してるわ」

 私が微笑むと、ソフィアは嬉しそうに笑った。

 その時、部屋のドアがノックされた。

「失礼します」

 入ってきたのは、立派な身なりをした中年の男性だった。威厳のある顔つきで、カイルに似ている。

「父上!」

 カイルが驚いた声を上げた。

「アルトシュタット辺境伯、ルドルフ・フォン・アルトシュタットと申します」

 男性が深く頭を下げた。

「娘を救っていただき、誠にありがとうございました」

「辺境伯様、わざわざお越しいただかなくても……」

 レオンが少し戸惑った様子で言う。

「いや、直接お礼を申し上げたかった」

 ルドルフ辺境伯は、真剣な表情で続けた。

「実は、お願いがあるのです」

「お願い?」

「はい。我が領地には、魔獣の被害に苦しむ村がいくつかあります。魔法使いを雇おうにも、辺境という立地もあり、なかなか来てくれる者がいない」

 辺境伯は、レオンと私を見た。

「もし可能であれば、我が領地の客員魔法使いとして、力をお貸しいただけないでしょうか」

「客員魔法使い……」

 レオンが考え込む。

「報酬は十分にお支払いします。それに、無属性魔法の研究のための資金や資料も、できる限り提供いたします」

 その言葉に、レオンの目が輝いた。

「研究資金と資料……?」

「ええ。私は、無属性魔法の価値を理解しています。娘を救ってくれたあなた方の力を、もっと多くの人のために使っていただきたい」

 レオンは、しばらく黙っていた。

 そして、私を見た。

「エリアナ、お前はどう思う?」

「私は……」

 考える。

 確かに、魔獣退治は危険だ。でも、それで人々が救われるなら。

「やってみたいです。もっと、人の役に立ちたい」

 レオンは、小さく笑った。

「相変わらず、お人好しだな」

 そして、辺境伯に向き直る。

「わかりました。お引き受けしましょう」

「本当ですか!」

 辺境伯の顔が、明るくなった。

「ただし、条件があります」

「何なりと」

「私たちは、必要な時だけ出向きます。常駐するつもりはありません。それでもよろしいですか?」

「もちろんです。それで十分です」

 こうして、私たちは辺境の地で活動することになった。

 数日後、レオンの家に辺境伯から荷物が届いた。

 研究資料、魔法の書物、そして魔道具。

「すごい量だ……」

 レオンが目を輝かせて本を読み始める。

「この資料、百年前の無属性魔法の研究記録じゃないか!どこで手に入れたんだ!」

 完全に研究者モードに入ってしまった。

「レオン、今日の訓練は?」

「ああ、自主練しておけ。私は、この本を読む」

 やれやれ、と思いながらも、私は一人で訓練を始めた。

 庭で魔法の練習をしていると、マリアが訪ねてきた。

「エリ!聞いたわよ、辺境伯家の客員魔法使いになったんですって?」

「ええ。これから、辺境の村を回ることになりそうよ」

「すごいわね!エリは本当に、どんどん成長していく」

 マリアが嬉しそうに笑う。

「でも、気をつけてね。辺境は危険な場所も多いから」

「大丈夫。レオンがいるもの」

「それもそうね」

 マリアは、籠から焼きたてのパンを取り出した。

「これ、旅の時に持っていって。保存がきくパンよ」

「ありがとう、マリア」

 彼女の優しさが、いつも心に染みる。

 その夜、レオンが珍しく早く研究を切り上げた。

「エリアナ」

「何?」

「お前、よくやってる」

 唐突な言葉に、戸惑う。

「ソフィアの治療、完璧だった。もう、お前は一人前の治癒魔法使いだ」

「レオンのおかげです」

「いや、お前の努力だ」

 レオンが、真剣な顔で続ける。

「これから、辺境で様々な経験をすることになる。危険なこともあるだろう。でも、お前なら大丈夫だ」

「レオン……」

「私は、お前を信じてる」

 その言葉が、何より嬉しかった。

 翌週、私たちは初めて辺境伯領へ向かった。

 馬車で二日の距離。山を越え、森を抜け、ようやく辺境伯の城が見えてきた。

 立派な石造りの城だったが、周囲の村々は質素だった。

「これが、辺境か」

 城下町は、王都に比べてずっと小さい。でも、人々は活気に満ちていた。

 城に到着すると、辺境伯とカイル、そしてソフィアが出迎えてくれた。

「ようこそ、アルトシュタット領へ!」

 ソフィアは、すっかり元気になっていた。走り回れるほどに。

「早速ですが、最初の依頼があります」

 辺境伯が地図を広げた。

「北の村、シュヴァルツヴァルト村で、魔獣の群れが出没しています。既に家畜が何頭も襲われ、住民は恐怖に怯えています」

「魔獣の種類は?」

「狼型の魔獣です。群れで行動し、非常に凶暴だと」

 狼型。

 ルナを見る。彼女も、元は魔獣だった。

「わかりました。すぐに向かいます」

「カイルを護衛につけます。道案内も兼ねて」

「ありがとうございます」

 翌朝、カイルと共に村へ向かった。

 ルナも一緒だ。彼女の鼻なら、魔獣を見つけられるかもしれない。

 シュヴァルツヴァルト村は、深い森に囲まれた小さな村だった。

 村長が、疲れた顔で出迎えた。

「魔法使い様、助けてください。このままでは、村が全滅してしまいます」

「大丈夫です。必ず、魔獣を退治します」

 私の言葉に、村人たちの顔に希望が浮かんだ。

 これが、私の新しい使命。

 人々を守り、救うこと。

 手のひらに、魔力を灯す。

 銀色の光が、力強く輝いた。

 エリアナの新しい冒険が、今始まる。
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