【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、もう王子には興味ありません

きゅちゃん

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第21話「魂の救済」

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 王都に到着したのは、朝日が昇る直前だった。

 ガブリエルの案内で、私たちは王宮の地下深くへと降りていった。普段は使われていない、古い通路。石造りの階段は苔むし、松明の明かりだけが頼りだった。

「こんな場所があったのか……」

 エドワード王子が呟いた。

「この地下通路は、建国当初に作られたものです」

 ガブリエルが淡々と答えた。

「歴代の王たちですら、その存在を忘れていた。私が古文書から発見し、研究所として使っていたのです」

 さらに深く降りると、重厚な扉が現れた。

 ガブリエルが魔法で鍵を解除すると、扉がゆっくりと開いた。

 その奥には——

 広大な空間が広がっていた。

 天井は高く、壁には無数の魔法陣が刻まれている。部屋の中央には、巨大な水晶の柱が立っていた。

 その水晶の中に、無数の光の粒が閉じ込められている。

「あれが……」

「村人たちの魂です」

 ガブリエルが言った。

「抽出した魂は、この水晶に保管していました」

「なんてことを……」

 ミレーナが震える声で言った。

 私は水晶に近づいた。

 手を当てると、微かな温もりを感じた。

 まだ、生きている。魂は、まだ消えていない。

「戻せますか?」

 レオンが尋ねた。

「わかりません。でも、やってみます」

 私は振り返り、チームメンバーたちを見た。

「皆さん、もう一度力を貸してください」

「当然だ」

 ヴィクトールが前に出た。

「何度でも協力する」

 ダリウス、ミレーナ、ブルーノも頷いた。

 そしてレオンが、私の隣に立った。

「やり方を教える」

 彼が水晶に手を当てた。

「魂を肉体に戻すには、三つの工程が必要だ。まず、魂を水晶から解放する。次に、それぞれの魂を本来の持ち主に繋ぎ直す。最後に、肉体を蘇生させる」

「そんなこと、可能なんですか?」

「無属性魔法なら、可能だ」

 レオンが私を見た。

「お前なら、できる」

 その言葉が、勇気をくれた。

「わかりました。やります」

 私は深呼吸をして、集中した。

 チームメンバーたちが円を作り、魔力を送ってくれる。

 五人分の魔力が、私の中で一つになった。

 そこにレオンの魔力が加わり、さらに大きな力となる。

「いきます!」

 私は両手を水晶に当てた。

 銀色の光が、水晶を包み込む。

 水晶の中で、光の粒が激しく動き始めた。

 一つ一つの魂が、解放を求めているのが感じられた。

「大丈夫、すぐに戻してあげます」

 私は優しく語りかけながら、魔力を流し込み続けた。

 水晶が、徐々に透明になっていく。

 そして——

 光の粒が、水晶から飛び出した。

 無数の光が、部屋中を飛び回る。

「次は、繋ぎ直す!」

 レオンの声に、私は意識を集中させた。

 一つ一つの光に、元の持ち主の記憶が残っている。

 その記憶を辿り、魂を導いていく。

 光たちが、それぞれの方向へ飛んでいった。

 村へ。家へ。愛する人のもとへ。

 最後の一つの光が飛び去ると、私は膝をついた。

「エリアナ!」

 ダリウスが支えてくれた。

「大丈夫……です」

「よくやった」

 レオンが私の頭を撫でた。

「完璧だ」

「でも、まだ終わっていません」

 私は立ち上がった。

「肉体を蘇生させなければ」

「それは、私たちが」

 エドワード王子が言った。

「すでに、各村に治癒魔法使いを派遣しています。魂が戻れば、肉体も目覚めるはずです」

 本当に、大丈夫だろうか。

 不安が胸をよぎった。

 その時、扉から騎士が駆け込んできた。

「殿下!報告です!」

「どうした?」

「リヒテンフェルス村から連絡が!村人たちが、次々と目を覚まし始めたと!」

「本当か!」

 私は思わず叫んだ。

「はい!シュヴァルツバッハ村からも同様の報告が!他の村々でも、村人たちが戻ってきています!」

 成功した。

 本当に、成功したのだ。

「やったな、エリアナ」

 ヴィクトールが微笑んだ。

「お前が、何百もの命を救ったんだ」

 涙が溢れそうになった。

 でも、まだ終わっていない。

 私はガブリエルを見た。

 彼は、虚ろな目で水晶を見つめていた。

「なぜ、こんなことをしたんですか?」

 私の問いに、ガブリエルは長い沈黙の後、口を開いた。

「私は……正義のためだと思っていた」

「正義?」

「この国は腐っている。貴族は民を搾取し、王族は権力争いに明け暮れる。誰も、民のことなど考えていない」

 ガブリエルの声には、苦悩が滲んでいた。

「私は、それを変えたかった。力で全てを作り直し、理想の国を作りたかった」

「でも、そのために罪なき人々を犠牲にした」

 エドワード王子が厳しく言った。

「それは、正義ではない。ただの暴力だ」

「わかっている……」

 ガブリエルが膝をついた。

「今は、わかる。私は間違っていた。力に溺れ、大切なものを見失っていた」

 彼が顔を上げ、私を見た。

「エリアナ・フォン・ヴェルナー。あなたは、本当の力の使い方を知っている」

「私は……」

「あなたの魔法は、救うための魔法だ。私のように、傷つけるためではない」

 ガブリエルが深く頭を下げた。

「私の罪は、償いきれない。でも、せめて謝罪させてくれ」

 私は、複雑な思いでガブリエルを見つめた。

 彼は確かに、許されない罪を犯した。

 でも、その根底には、この国を良くしたいという思いがあったのだろう。

 それが、間違った方向に進んでしまっただけで。

「あなたは、裁かれるべきです」

 私は静かに言った。

「でも、あなたの知識は、正しく使えば多くの人を救えるはずです」

「エリアナ……」

「罪を償いながら、その知識を正しく使ってください。それが、あなたにできる贖罪です」

 ガブリエルは、涙を流しながら頷いた。

 騎士たちが彼を連行していく。

 その背中は、以前より小さく見えた。

 研究所を出ると、朝日が眩しかった。

 長い夜が、ようやく終わった。

「お疲れ様でした、エリアナ」

 エドワード王子が微笑んだ。

「あなたのおかげで、王国は救われました」

「私だけの力ではありません」

 私はチームメンバーたちを見た。

「皆がいたから、成し遂げられたんです」

「それでも、あなたの功績は大きい」

 王子が真剣な表情になった。

「近いうちに、正式な表彰式を行います。そして——」

 王子が言葉を選ぶように続けた。

「魔法騎士団正式騎士への昇格を、推薦させていただきます」

「正式騎士に……!」

 ダリウスが驚いた声を上げた。

「見習い期間、まだ二ヶ月しか経ってないのに!」

「それだけの実績を、彼女は残しました」

 エドワード王子が私を見た。

「受けていただけますか?」

「はい。光栄です」

 私は深く頭を下げた。

 その日の午後、私は父に手紙を書いた。

 これまでの出来事、村人たちを救ったこと、正式騎士への昇格。

 全てを、丁寧に綴った。

 手紙を書き終えると、窓の外を見た。

 王都の街並みが、平和に広がっている。

 人々が笑い、子供たちが遊び、日常が続いている。

 この平和を、守れた。

 それが、何より嬉しかった。

 ドアがノックされた。

「エリアナ、いるか?」

 レオンの声だった。

「はい」

 扉を開けると、レオンがいつもの無精髭姿で立っていた。

「今日は、よくやった」

「レオンのおかげです」

「いや、お前の力だ」

 彼が私の肩を叩いた。

「お前は、もう一人前だ。私が教えることは、もう何もない」

「そんな……まだまだ学びたいことがあります」

「それは、これから自分で見つけていけ」

 レオンが微笑んだ。

「私は、山に戻る」

「え……」

「お前には、もう私は必要ない。ここで、お前の道を進め」

 レオンが背を向けた。

「でも、困った時はいつでも来い。私は、いつでもお前の師匠だからな」

「レオン……」

「それから」

 彼が振り返った。

「誇りに思ってる。お前は、最高の弟子だ」

 その言葉に、涙が溢れた。

「ありがとうございます、先生」

 レオンは軽く手を振ると、廊下を去っていった。

 その背中を、私はずっと見送った。

 夕方、訓練場でチームメンバーたちと集まった。

「今日は、打ち上げだ!」

 ダリウスが宣言した。

「任務成功と、エリアナの昇格を祝おう!」

 皆が歓声を上げる。

「ありがとう、皆」

 私は笑顔で答えた。

「これからも、よろしくお願いします」

「こちらこそ!」

 ミレーナが私の手を握った。

「あなたと一緒に戦えて、本当によかった」

「俺たち、最高のチームだよな」

 ブルーノが豪快に笑った。

「お前がリーダーで、誇りに思う」

 ヴィクトールが珍しく素直に言った。

 仲間たちの笑顔が、温かかった。

 この人たちと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。

 そう確信できた。

 星が瞬き始めた空の下、私たちは語り合い、笑い合った。

 長い戦いが終わり、新しい日々が始まる。

 魔法騎士として。

 仲間として。

 そして、一人の人間として。

 私の物語は、まだ続いていく。

 手のひらに、小さな光を灯した。

 銀色の光が、優しく輝く。

 この光で、これからも多くの人を救っていこう。

 そう誓って、私は明日を迎える準備を始めた。
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