【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、もう王子には興味ありません

きゅちゃん

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第22話「新たなる誓い」

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 事件から一週間後、王宮で表彰式が執り行われることになった。

 謁見の間は、かつてないほどの人々で埋め尽くされていた。貴族たち、騎士たち、そして救出された村々の代表者たち。皆が、この日を待ち望んでいた。

 私は緊張しながら、控室で準備をしていた。

 新しい正式騎士の制服。濃紺の上着に金の刺繍、そして胸には誇り高き騎士団の紋章。

 鏡に映る自分の姿が、半年前とは全く違って見えた。

 あの頃の私は、婚約破棄に打ちのめされ、未来が見えなかった。

 でも今は違う。

 自分の力で道を切り開き、多くの人を救い、信頼できる仲間を得た。

「エリアナ、準備はいいか?」

 クララ副団長が声をかけてきた。

「はい」

「緊張しているな」

「少し……」

「大丈夫だ」

 クララが微笑んだ。

「お前は、もう立派な騎士だ。胸を張っていけ」

 その言葉に、勇気をもらった。

 謁見の間に入ると、一斉に視線が集まった。

 玉座には国王が座り、その両脇にアレクシス王子とエドワード王子が立っている。

 アレクシスと目が合った。

 彼は複雑な表情で私を見ていた。後悔、羨望、そして何か別の感情が混ざり合っているように見えた。

 でも、もう私には関係のないことだ。

 私は真っ直ぐ前を向き、玉座の前まで歩いた。

「エリアナ・フォン・ヴェルナー」

 国王の声が、謁見の間に響いた。

「汝は、王国の危機において、類稀なる勇気と知恵を示した。数百の民の命を救い、古代魔法の脅威から王国を守った」

 国王が立ち上がった。

「その功績を讃え、ここに正式魔法騎士の称号を授ける。そして、特別功労勲章を贈る」

 エドワード王子が、勲章を持って前に出た。

 金と銀で作られた美しい勲章。中央には、王国の紋章が刻まれている。

「おめでとうございます、エリアナ」

 エドワード王子が、優しく微笑んだ。

「あなたは、この国の希望です」

「ありがとうございます」

 勲章を胸につけてもらうと、謁見の間が拍手に包まれた。

 温かい、心からの拍手。

 その音が、胸に染みた。

 式典の後、別室で父と再会した。

「エリアナ」

 父が、珍しく感情を露わにして抱きしめてくれた。

「よく頑張った。本当に、よく頑張った」

「父様……」

「お前は、ヴェルナー家の誇りだ。いや、この国の誇りだ」

 父の目には、涙が浮かんでいた。

「母様も、きっと喜んでいます」

「ああ。お前の母も、天国で誇りに思っているだろう」

 フェリックスも駆け寄ってきた。

「姉さん!すごいよ、本当にすごい!」

 弟が、子供のように目を輝かせている。

「俺も、姉さんみたいな騎士になりたい!」

「フェリックスなら、きっとなれるわ」

 私は弟の頭を撫でた。

「一緒に頑張りましょう」

 その時、扉がノックされた。

「失礼します」

 入ってきたのは、アレクシス王子だった。

 父とフェリックスが、警戒したように身構える。

「アレクシス殿下」

 私は冷静に挨拶した。

「何か御用ですか?」

「エリアナ、少し話がしたい」

 アレクシスの声は、以前のような傲慢さがなかった。

「父様、少しだけ席を外していただけますか?」

「……わかった。だが、何かあればすぐに呼べ」

 父とフェリックスが部屋を出ていった。

 二人きりになると、アレクシスは深く息を吐いた。

「エリアナ、謝らせてくれ」

「謝罪、ですか?」

「ああ」

 アレクシスが頭を下げた。

「あの時、お前を婚約破棄したこと。濡れ衣を着せ、屈辱を与えたこと。全て、私の過ちだった」

 その言葉は、意外だった。

「リリアーナに惑わされたとはいえ、お前を見る目がなかった。そして今、お前が成し遂げたことを見て、私は自分の愚かさを思い知った」

 アレクシスが顔を上げた。

「もう一度、チャンスをもらえないだろうか。私は変わる。お前にふさわしい男になる」

 その目は、真剣だった。

 でも、私の心は動かなかった。

「アレクシス様」

 私は静かに言った。

「お気持ちは嬉しく思います。でも、お断りします」

「エリアナ……」

「あの婚約破棄は、私にとって最高の贈り物でした」

 私は微笑んだ。

「あれがなければ、私は今の自分になれなかった。レオンに出会えなかった。仲間たちに出会えなかった」

「それは……」

「私は今、とても幸せです。自分の力で道を切り開き、多くの人を救える。これ以上の喜びはありません」

 アレクシスは、言葉を失っていた。

「ですから、お気になさらないでください。私は、もうあの時のことを恨んでいません」

「そうか……」

 アレクシスが苦笑した。

「お前は、本当に強くなったな。もう、私の手の届かないところにいる」

「アレクシス様も、良い王になってください」

「ああ。お前のように、民のために尽くせる王に」

 アレクシスが去った後、私は窓の外を見た。

 完全に、過去と決別できた。

 もう、後ろを振り返ることはない。

 夕方、騎士団の訓練場で送別会が開かれた。

 といっても、私が去るわけではない。

 レオンの送別会だった。

 彼は今日、山へ帰るという。

「レオン先生、本当にお世話になりました」

 ダリウスが深々と頭を下げた。

「短い間だったけど、たくさんのことを学びました」

「お前たちは、いい騎士だ」

 レオンが満足そうに頷いた。

「エリアナを、頼んだぞ」

「もちろんです!」

 皆が声を揃えた。

 レオンが私の前に立った。

「エリアナ」

「はい」

「最後に、これを」

 レオンが、小さな箱を差し出した。

 開けると、銀色の指輪が入っていた。

「これは……」

「師匠の、形見だ」

 レオンが静かに言った。

「無属性魔法使いに代々受け継がれてきた、魔力増幅の指輪だ。お前に、譲る」

「こんな大切なもの……」

「お前なら、正しく使える」

 レオンが私の手を取り、指輪をはめてくれた。

「これで、お前は本当に独り立ちだ」

「ありがとうございます、先生」

 涙が溢れそうになった。

「泣くな」

 レオンが笑った。

「お前は、もう泣かない女だろう?」

「はい……」

 私は涙を拭いた。

「泣きません。笑顔で、送り出します」

「それでいい」

 レオンが私の頭を、最後に撫でた。

「さあ、行ってこい。お前の未来へ」

 翌朝、私はレオンを見送った。

 王都の北門で、彼は馬車に乗り込んだ。

「また、会えますよね?」

「ああ。困った時は、いつでも来い」

「はい」

 馬車が動き出す。

 レオンが手を振っている。

 私も、精一杯手を振った。

 馬車が見えなくなるまで、ずっと。

 そして、私は訓練場に戻った。

 新しい一日が始まる。

 正式騎士として。

 仲間たちと共に。

「エリアナ!」

 ダリウスが手を振っている。

「今日の訓練、始めるぞ!」

「はい!」

 私は駆け出した。

 未来へ向かって。

 手のひらの指輪が、優しく輝いていた。

 これは、師匠たちから受け継いだ、希望の光。

 この光を、もっと多くの人に届けたい。

 そう思いながら、私は仲間たちの輪に加わった。

 空は青く晴れ渡り、風が心地よく吹いている。

 完璧な、新しい始まりの日だった。

 エリアナ・フォン・ヴェルナーの物語。

 それは、まだまだ続いていく。

 でも、この章は、ここで終わる。

 婚約破棄から始まった旅は、ここに一つの区切りを迎えた。

 そして、新しい旅が始まろうとしている。

 その先に何が待っているのか、まだわからない。

 でも、恐れはない。

 信じる仲間がいる。

 守るべき人々がいる。

 そして、何より——

 自分自身を、信じられるようになったから。

 私は、もう迷わない。

 この道を、真っ直ぐ進んでいく。

 それが、私の選んだ人生だから。
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