なけなしの石で引いたガチャから出てきた娘がただのレアだった件

きゅちゃん

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第10話 挑戦

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「デュエルって…戦うんですか?俺と小野寺さんが?」

うむ、と力強く頷くマッチョメン。

「ちなみに俺の武器は斧だ…小野寺だけに」

…誰も笑わなかった。
痛いほどに無言が支配した部屋の中で、
ひゅうう…と一陣の風が吹いたような気がする。

「おい、チミらは年長者への敬意リスペクトが足りんぞ」

憮然とした表情での小野寺を、ぽむ、と無言で叩く団長。

「実を言うとわたしは、それなりに面白いと思いましたよ」

「あ、はい、わたしもです!斧と小野寺さんがかかってるんですね!」

真実味のかけらもない団長の慰めと、
真実味溢れるが少しもフォローになっていないニアの励ましは、
小野寺さんの心に深い傷クリティカルを与えたようだ…。

「自分が、悪かったです」

一瞬だけうなだれたかと思いきや、
次の瞬間にはその瞳に獰猛な光を宿すマッチョメン。
ギロリ、と俺を睨み据えるや否や、

「この恨み、存分にぶつけさせてもらうぞ。リョウキくん」

「な、なんだそりゃ…逆恨みってやつでは」

うるさいだまれシャラップ。早速だが、ギルドの練兵場まで来てもらおう。
今すぐデュエルだ」

ぐい、と俺の腕をつかむとずんずんと引っ張っていく。
…いや、もうこれは引きずられていると言っていい。
ニアも慌てて小走りでついていこうとするが、アイシャに引きとめられる。

男同士の戦いデュエルですから」

「は、はい…リョウキさん、気をつけて」

心配そうなニアの目線に見送られながら、小野寺さんと俺は扉を出る。

「あの、ちょっと待って…」

「安心しろ、レベルは一律に設定してやる。ステータスの差はほとんど無い」

腕前スキルを見せろ、ってことですか」

「いいや、お前自身生き様を見せてみろ」

ギャグなのか、と思いきや小野寺さんの表情は真剣だ。

「たかがゲームに大袈裟な…と思うかね?」

「まぁ、それは」

小野寺さんはゆっくりと首を横に振る。

「仮想とはいえ、ここには生きている人間が集い、様々な想いが交錯しているわけだ」

「…なるほど」

「つまり、ひとつの『世界』であるという意味において、なんら現実リアルと変わりないのだよ」

「…それは、確かに」

「ゆえに--俺たちは、安心して背中を預けられる奴らと、この世界を楽しもうと決めてるのさ」

そう言って、マッチョメンはニカっと白い歯を見せる。

「もちろん、俺はもうお前に背中を預けられるぞ。だが、他の奴らはお前のことを知らぬ」

「…はい」

「ま、組織ギルドには必要な通過儀礼お約束ってもんよ。それにな」

小野寺さんの笑顔が一転-気の良いオヤジから、一介の戦士のそれへと変貌する。

「俺も男だ。強い奴と戦ってみたい」

「……」

小野寺さんがなぜか俺のことを高く買ってくれているのが、よくわかった。
なんだろう、この感覚は。
面映ゆいような、背中がむずがゆいような。

-けれど、不快ではない。
どこか温かな気持ちが湧き上がってきた。

「そうまで言われちゃ、頑張るしかないですね」

「おうよ、ほら、練兵場はここだ!」

どしん、と背中を押され、転がり込むように入った部屋の先は。
かの栄光あるローマ帝国全盛期パクス・ロマーナに作られたというコロッセウムを思わせるー
堂々たる石造りの巨大な闘技場だった。

「え、これ練兵場ってか、闘技場では…」

客席には、様々な鎧や武具に身を固めた騎士達がひしめいていた。
練兵場に現れた俺たちの姿を見つけるや否や、どっと歓声が沸き起こる。

「久々に"怒れる巨人"ギガンテス小野寺さんのアレが見えるのか~!」

「がんばれ青年!骨ぐらい拾ってやるぞぉ!」

「いやぁ、骨も残らんのでは?」

「確かに」

なんだかわからんが、とにかく物騒なヤジが次々と飛んでくる。
そこに敵意はないが、お手並み拝見とでもいうような、
新参者への少し意地悪な関心が多分に含まれていた。

「諸君!」

小野寺さんの割れんばかりの大音声が、練兵場を揺るがした。
途端に、騒がしかった観衆が水を打ったように沈黙する。
見事な統制という他はない。
さすがに、トップギルドと名乗るだけの練度はあるようだ。

「只今より、時間無制限デュエルによる入団試験を執り行う!」

沈黙から一転、轟音ともいうべき歓声が巻き起こった。
武器を打ち鳴らすものもいれば、音響魔法を放つものまでいるようだ。

「…青年よ、名乗るがいい」

いつの間に取り出したのか、小野寺さんは巨大な戦斧を軽々と持ち上げ、
俺に向かって突きつけてくる。

ごくり、と唾を飲みこんだ。
異常な雰囲気の中で、なかなか声が出てこない。
かろうじて絞り出した声は、お世辞にもキマっているとは言えなかった。

「…リョウキだ」

「リョウキくん、一撃でも俺に入れられたら、デュエル終了だ」

ニヤリ、と笑みを見せる小野寺さん。
圧倒的な自信があればこその、破格の条件だろう。

「その代わり、俺も殺す気マジで行くぞ」

そう言って斧を構えた瞬間、爆発的な闘気が小野寺さんの巨体を覆った。

「…形式的なものだって、言ったじゃないですか…」

「さぁ、かかってこい青年!俺を倒してみろッ!」

「どうしてこんなことになったんだ…」

取り落としそうになる双剣-先ほど小野寺さんから渡されたものだ-を構えなおす。

「リョウキがんばれ~死ぬなよ!」

「小野寺さんはめっちゃつぇぇぞ!」

明らかに竦んでいる俺に、騎士団員からのヤジが飛ぶ。
雑多な声が入り混じるその中に--聞き覚えのある、柔らかな声。

「リョウキさん!がんばって!…絶対、絶対大丈夫だから!」

決して大きくはない、けれど懸命なその声は、
この上なく力強い励ましの言葉として、俺の耳に届いていた。

「…ニア」

無意識に、その名を呼んでいた。
あたかも、それは祈りの言葉のように。
少しだけ、勇気が湧いてくる気がした。
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