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第9話 試験
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「…形式的なものだって、言ったじゃないですか…」
かろうじてそう呟いた俺の声は、驚くほど掠れていて、
どこにも届かないまま電子の海に消えていった。
眼前に在るは、巨大な戦斧を構えた筋肉の塊のような男。
白の騎士団、序列第4位。
名を、小野寺隆文という。
…まぁ、知ってますけど。
「さぁ、かかってこい青年!俺を倒してみろッ!」
不動明王のごとき咆哮に気圧され、
知らず吹き出てくる冷汗で粘つく手から、剣を取り落としそうになる。
「どうしてこんなことになったんだ…」
遡ること少し前ー
入団試験を受けることに決めた俺は、小野寺さんにくっついて、
転移魔法でダナンへと戻った。
そのまま白の騎士団本部の建物に案内してくれるというので、
のこのこと付いて行ったのが間違いだったのだ。
騎士団の名に恥じぬ純白の建物は、どこか神殿めいている。
ニアと俺は、危機を生き延びた安堵もあってか、
のんきにはしゃいでいた。
「ほぇぇ…綺麗な建物ですね~」
田舎娘のように、キョロキョロとあたりを見回すニア。
「そうだな」
「 (そこは、君の方が綺麗だよ、だろ )」
「…げふんげふんっ」
「…リョウキさん、体調でも悪いんですか?」
「い、いやなんでもないよ」
…このおっさんは。
またわけのわからんことを囁いてくる巨漢をひと睨みする。
いや、意味がわからなくはないのだが、あまりにオヤジすぎる。
だが、小野寺さんは素知らぬ顔で口笛を吹いていた。
しばらく純白の廊下を歩くと、ひときわ威圧感のある扉の前にたどり着く。
部屋の前を警護していると思しき騎士が2人、
小野寺さんとアイシャを目にすると姿勢を正した。
「小野寺部長、アイシャさん、お疲れ様です!」
「おーう、おつかれちゃん!」
威儀を正す騎士の肩を気安く叩きながら、小野寺さんは扉を開いた。
「うーん、この溢れる部長感…」
「そりゃ、現実でも部長みたいなもんだからな」
マッチョが無駄に厚い胸を張って自慢げだ。
「すごいっすね…」
そんな軽口を叩いている間に、
ギギギ…と重々しい効果音とともにゆっくりと扉が開いていく。
目に入るのは、広々とはしているものの、
簡素というよりはいっそ無骨と形容するに相応しい部屋だ。
奥に据えられた重厚な執務机の奥に、一人の美しい女性が座っている。
腰のあたりまで伸ばされた髪は、どこまでも深い黒。
意志の強さを感じさせる眉の下には、艶やかなヘイゼルの瞳。
そして何より、白磁のごとく透明感のある肌。
身にまとった純白の鎧には、一点の曇りもない。
もし「優美」という言葉が生きて呼吸をしていたら、このような人になるのだろう。
あるいは、作り物のような美しさと言い換えてもいいかもしれない。
ーまぁ、まぎれもなく、作り物ではあるが。
「ようこそ、リョウキくん。我が騎士団は君を歓迎しよう」
そう言って立ち上がると、ほっそりとした腕を差し出してくる。
毎度のごとく熱くなる頰を自覚しながら、その手をやっとの思いで握り返す。
俺、とことん女の人が苦手みたいだ…VR世界でさえ。
握り返したその手は、幽谷にある小川のように、
どこか冷んやりとした感触だった。
またニアの冷たい視線が刺さるのでは、と思わず振り向くと、
ニアはぽわんと上気した顔で女性を見つめていた。
…こういうのは、OKらしい。
「わたしは白の騎士団を預かるアストライア。君たちのことは小野寺から聞いている」
そう言って婉然と微笑む。
…これで中の人がおっさんだったら、俺は死ぬ。
いや、俺以外にもたくさん死ぬだろうな。
緊張のあまりそんな場違いなことを考えながら、
続くアストライアの言葉を待つ。
「我らの入団試験は、推薦者がその内容を定める。ゆえに、小野寺よ」
「はっ」
あれほど部長感を漂わせていた小野寺さんが、
今は一兵卒のように身を固くし、アストライアの前に跪いている。
…おっさん、リアルと現実では演じ分けらんないっての、嘘じゃん…
めっちゃ演じてるじゃん…
「試験はそなたに一任する。良きにはからえ」
「…御意」
まるで戦国時代の主従のような受け答えだが、不思議と違和感はない。
それほどまでにアストライアは威厳に満ちていたからだ。
小野寺さんは一礼し、立ち上がる。
それから俺を見て、にっこり微笑みながら、こう言ったのだ。
「では、リョウキくん!デュエルしようぜ!」
「は、はぁーっ?!」
かろうじてそう呟いた俺の声は、驚くほど掠れていて、
どこにも届かないまま電子の海に消えていった。
眼前に在るは、巨大な戦斧を構えた筋肉の塊のような男。
白の騎士団、序列第4位。
名を、小野寺隆文という。
…まぁ、知ってますけど。
「さぁ、かかってこい青年!俺を倒してみろッ!」
不動明王のごとき咆哮に気圧され、
知らず吹き出てくる冷汗で粘つく手から、剣を取り落としそうになる。
「どうしてこんなことになったんだ…」
遡ること少し前ー
入団試験を受けることに決めた俺は、小野寺さんにくっついて、
転移魔法でダナンへと戻った。
そのまま白の騎士団本部の建物に案内してくれるというので、
のこのこと付いて行ったのが間違いだったのだ。
騎士団の名に恥じぬ純白の建物は、どこか神殿めいている。
ニアと俺は、危機を生き延びた安堵もあってか、
のんきにはしゃいでいた。
「ほぇぇ…綺麗な建物ですね~」
田舎娘のように、キョロキョロとあたりを見回すニア。
「そうだな」
「 (そこは、君の方が綺麗だよ、だろ )」
「…げふんげふんっ」
「…リョウキさん、体調でも悪いんですか?」
「い、いやなんでもないよ」
…このおっさんは。
またわけのわからんことを囁いてくる巨漢をひと睨みする。
いや、意味がわからなくはないのだが、あまりにオヤジすぎる。
だが、小野寺さんは素知らぬ顔で口笛を吹いていた。
しばらく純白の廊下を歩くと、ひときわ威圧感のある扉の前にたどり着く。
部屋の前を警護していると思しき騎士が2人、
小野寺さんとアイシャを目にすると姿勢を正した。
「小野寺部長、アイシャさん、お疲れ様です!」
「おーう、おつかれちゃん!」
威儀を正す騎士の肩を気安く叩きながら、小野寺さんは扉を開いた。
「うーん、この溢れる部長感…」
「そりゃ、現実でも部長みたいなもんだからな」
マッチョが無駄に厚い胸を張って自慢げだ。
「すごいっすね…」
そんな軽口を叩いている間に、
ギギギ…と重々しい効果音とともにゆっくりと扉が開いていく。
目に入るのは、広々とはしているものの、
簡素というよりはいっそ無骨と形容するに相応しい部屋だ。
奥に据えられた重厚な執務机の奥に、一人の美しい女性が座っている。
腰のあたりまで伸ばされた髪は、どこまでも深い黒。
意志の強さを感じさせる眉の下には、艶やかなヘイゼルの瞳。
そして何より、白磁のごとく透明感のある肌。
身にまとった純白の鎧には、一点の曇りもない。
もし「優美」という言葉が生きて呼吸をしていたら、このような人になるのだろう。
あるいは、作り物のような美しさと言い換えてもいいかもしれない。
ーまぁ、まぎれもなく、作り物ではあるが。
「ようこそ、リョウキくん。我が騎士団は君を歓迎しよう」
そう言って立ち上がると、ほっそりとした腕を差し出してくる。
毎度のごとく熱くなる頰を自覚しながら、その手をやっとの思いで握り返す。
俺、とことん女の人が苦手みたいだ…VR世界でさえ。
握り返したその手は、幽谷にある小川のように、
どこか冷んやりとした感触だった。
またニアの冷たい視線が刺さるのでは、と思わず振り向くと、
ニアはぽわんと上気した顔で女性を見つめていた。
…こういうのは、OKらしい。
「わたしは白の騎士団を預かるアストライア。君たちのことは小野寺から聞いている」
そう言って婉然と微笑む。
…これで中の人がおっさんだったら、俺は死ぬ。
いや、俺以外にもたくさん死ぬだろうな。
緊張のあまりそんな場違いなことを考えながら、
続くアストライアの言葉を待つ。
「我らの入団試験は、推薦者がその内容を定める。ゆえに、小野寺よ」
「はっ」
あれほど部長感を漂わせていた小野寺さんが、
今は一兵卒のように身を固くし、アストライアの前に跪いている。
…おっさん、リアルと現実では演じ分けらんないっての、嘘じゃん…
めっちゃ演じてるじゃん…
「試験はそなたに一任する。良きにはからえ」
「…御意」
まるで戦国時代の主従のような受け答えだが、不思議と違和感はない。
それほどまでにアストライアは威厳に満ちていたからだ。
小野寺さんは一礼し、立ち上がる。
それから俺を見て、にっこり微笑みながら、こう言ったのだ。
「では、リョウキくん!デュエルしようぜ!」
「は、はぁーっ?!」
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