なけなしの石で引いたガチャから出てきた娘がただのレアだった件

きゅちゃん

文字の大きさ
21 / 32

第21話 苦闘

しおりを挟む
「くそがあぁ!!!これで死んどけぇぇぇ!」

怒り狂ったアベルが、俺たちではなくリッチに向かって斬りかかる。
リッチを怒らせ、俺たちごと巻き込むつもりなのだ。

「…」

リッチが意にも介さず鎌でアベルを一閃し、子供をあしらうように弾き飛ばした。
残りわずかだったアベルのHPがゼロになり、消滅エフェクトとともにその姿が消えてゆく。

「ハハハ…せいぜいがんばれや…」

そう捨て台詞を残し、完全に消失していくアベル。
…最後の最後までゲスな野郎だ。

ゆらり、とリッチが表情のない瞳をこちらに向ける。
今の一撃で、完全に俺たちを敵と認識しているようだ。

「…俺もリッチなんぞと戦ったことはない。正直どうすればいいかわからん」

珍しく小野寺さんが弱気な言葉を口にする。
激戦をくぐり抜けてきた俺たちは、アイテムやMP、スキルの使用残回数もかなり心もとない。

「それでも、やるしかありません」

俺は強がりの言葉を口にする。
気持ちが相手に圧されてしまえば、本当に勝ち目がなくなってしまう気がしたからだ。

「…そうだな。そうだとも」

「俺が撹乱します。小野寺さんは、クリティカルの一発狙いでお願いします」

「やってみよう」

「アイシャさんとニアは空間転移に備えて、いつでも遠距離攻撃を出せるように待機で!」

こくり、と頷く二人の顔にも、緊張が見て取れた。

「うぉぉぉっ!!」

とにかく一歩も立ち止まらないことだけを考え、リッチの鎌をめがけて両手の剣を交互に繰り出す。しかし、ただの一撃も刃が届かない。

俺の力量を測るかのように、リッチはことも無げにただ剣戟を受け流してくる。
くそっ…隙を作るどころか、反撃する価値もないと見下されているかのようだ。

「いまだ…さがれリョウキ!」

背後から小野寺さんの怒声が響き、とっさに俺はバックステップでリッチから距離を取る。
入れ替わるようにしてトールハンマーを発動した小野寺さんが、リッチの懐に飛び込み、斧を振り上げた。
リッチが鎌で受けようとした瞬間、狙いを定めて待っていたアイシャが狙撃する。

「エイミングショットッ!」

斧を受けようとした鎌がアイシャの一点集中型の弓技によって弾かれた瞬間、小野寺さんのトールハンマーがリッチの胴体を直撃する。

「グォォォ…」

それまで一言も発さなかったリッチが、怒りとも苦悶ともつかぬ昏い声を上げた。

「…やったか?」

しかしさすがにレアモンスターだけあって、HPゲージが3分の1ほど減ったものの、倒すには至らなかった。

「トールハンマー直撃でこれか…」

立ちはだかる壁のあまりの高さに、小野寺さんが呻く。

「でも…一撃入れられたんです。希望はある!」

そう言って俺は剣を構えなおし、再びリッチに向かって斬りかかろうとする。

「コォォ…」

先ほどまでとは異なり、リッチは鎌で剣を受けようとはしない。
…どういうつもりだ。
心の片隅で警鐘が鳴るが、ここで引くわけにもいかない。

「ツインソードスラッシュ!」

双剣の一撃がリッチのローブを引き裂いた…と思った瞬間、剣が空を斬り、バランスを崩した俺はよろめいた。

「なっ…」

先ほどまでリッチが確かにいた空間は、今はもぬけの殻だ。

「…空間転移スキルだ!気をつけろ!」

小野寺さんが警戒の叫びを上げるやいなや、後ろにいたニアの背後に、ゆらりとリッチが出現する。

「ニアさん、避けて!」

絶叫とともにアイシャが矢を放ち、咄嗟に転がるようにして回避行動を取ったニアを援護する。
すんでのところで振り下ろされる鎌に矢が当たり、少しだけ軌道がそれた。

「くあっ…!」

ニアが苦悶の声を上げる。
鎌の直撃こそ避けたものの、身体の一部を掠めていたのだ。

フルだったニアのHPがみるみる減少し、半分ほどになってしまう。

「ニア、回復いそげ!」

俺は絶叫し、ニアに駆け寄る。

「は、はい…なんとか、大丈夫です」

即座に回復魔法を詠唱し、ニアのHPゲージが少しずつ戻っていく。

「貴様…よくも!」

怒りに任せて踏み込むが、再びリッチの姿はすぅ…と消えてしまう。
なんていうチート級の能力だ…
俺は歯噛みしながら周囲を見渡すが、転移中のリッチの姿を感知することなどできるはずもない。
パスファインダーのような超高レベルの探索スキル持ちなら或いは分かるのかもしれないが、今はどうしようもない。

「コォォ…」

死者の呼び声のような虚無感に満ちたリッチの声が谺する。

「うぉぉぉッ!?」

警戒する小野寺さんの背後に現れ、鎌が一閃。
巨躯ゆえに反応が遅れ、小野寺さんが軽々と吹き飛ばされる。
必死にニアが回復するものの、まだ上級魔法が使えないため、全回復には至らない。

「…そろそろ、MPが尽きます」

悲壮な表情で、ニアが告げる。

「…そうか」

いよいよ、これは覚悟を決めるときかもしれない。
一か八かで階段を駆け上がり、上のフロアに逃げ込めないだろうか?
そんな考えも脳裏を掠めるが、ルンデスは近くに敵がいると扉が開かない仕様だったことを思い出す。
…逃げたところで全員死ぬだけだ。

どうする…
再び転移し、リッチの姿を見失った俺たちに、重苦しい緊張がのしかかる。
次こそは、誰かが死ぬかもしれないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...