なけなしの石で引いたガチャから出てきた娘がただのレアだった件

きゅちゃん

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第23話 報酬

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男は、呆然と立ち尽くしていた。
最も信頼するパートナーを失い、その事実をまだ受け入れられないかのように。
先ほどまで彼女を抱きしめていた手の形は、硬直したかのようにそのままで。
…あたかも、その手を動かしさえしなければ、再び彼女が戻ってくるのではと信じているかのようだった。

俺は小野寺さんの傍に近づいたものの、どう言葉をかけていいかわからなかった。
こんな時、どうすればいいのか…これまでの短い人生経験からは何も思いつかない。

それでも、小野寺がこちらを振り向き、そこに張り付いた虚無感を目にした瞬間ー
かけるべき言葉は一つしかないと。
そう悟った。

「…小野寺さん、泣いてください…もう泣いても、いいんですよ…」

そう言う俺自身が、既に泣いていた。
ニアの嗚咽も聞こえてくる。

呆然としていた小野寺さんは、涙する俺たちをぼんやりと見ていた。
まるで泣き方など忘れてしまったかのように、不思議そうな顔で。

それから少しして…南極の氷壁が崩壊するように、滂沱の涙が、小野寺さんの瞳から溢れ出た。

「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

怒りと悲しみがない交ぜになった、それは魂の咆哮とも言うべき凄絶な叫び。
それほどまでに、小野寺さんにとってアイシャは大切なパートナーだったのだ。

どれほどの間、哀しみの海を漂い続けたのか…
小野寺さんが、ぽつんと呟いた。

「…俺には、息子が居てな」

「…ちょうど、難しい年頃なんだよ。…妻は亡くしたから、男手一つで育ててきた」

「一時は口も聞いてくれなくてな…」

俺とニアは黙って小野寺さんの言葉を聞いている。
…俺も、上京してくる前は、親父とろくに口も聞かなかっただけに耳が痛い。

「母親がいれば、もっと上手く育てられたのかもしれんが…仕事を言い訳にして息子の話を聞いてやれなかったのが悪いんだろう」

「そんな時…息子がVRMMOにハマっていることを知って、俺もやってみようと思ったんだ…」

そういう経緯で、小野寺さんのような年齢の (実年齢は知らないけど)人がこんな若者向けゲームで遊んでいたのか…。

「アイシャは…ああ見えて細やかな人だった。色々と、息子のことでも相談に乗ってくれたんだ」

「そりゃ、ニアちゃんには悪いけど、所詮はプログラム…本物の人間じゃないのはわかってたさ」

「ただ…アイシャは真剣に話を聞いてくれたし、アドバイスもくれた。…そのおかげで少しずつ息子とも話せるようになった」

そう言って小野寺さんは微笑んだ。

「今じゃ息子は留学してるよ…いつか息子を、アイシャに会わせたかったんだがな」

「…俺が不甲斐なくて…ロストしちまったな」

「…俺にもっと力があれば…」

小野寺さんは首を振って俺の言葉を否定する。

「アベルのことを見抜けなかったのも、追撃を受けたのも全て俺の判断の甘さが招いたことだ」

そして、俺とニアをじっと見つめた。

「せめてお前たちが生き残ってくれたのが…アイシャにとっても俺にとっても慰めだ」

「小野寺さんは…これからどうするんですか?」

ニアの問いかけに、小野寺さんはガッツポーズを返した。

「アイシャがいた世界…アイシャが守ったお前たちが、この先どうなるのか、俺は見届けたい」

そうして俺に右手を差し出してくれる。

「…リョウキ、さっきはありがとうな。大の男がゲームで泣くなんて、恥ずかしいところ見せちまったな」

俺は力を込めてその手を握り返した。

「今こうして俺とニアが生きているのは、アイシャさんと小野寺さんのおかげです…これからもよろしくお願いします」

「ああ…よろしくな」

そうして、哀しみの淵から何とか気力を取り戻した俺たちは、フロア40から一旦街へ戻り、装備やアイテムを再編成した。
アストライア団長に事情を話し、ギルドマスター権限でアベルを追放してもらう。
…どのみち、生き返ったアベルが再度ログインすることはなさそうだったが、念のため違法行為として運営にも通報しておいた。

パーティの空き枠には、既にイベントを別パーティで攻略済みだったアストライア団長が加入してくれた。
結論から言ってしまえば、とんでもなく強いアストライア団長とそのパートナーキャラのおかげで、俺たちはなんとか魔塔エルガンディアをクリアできた。
…さすがに団長というだけあって、小野寺さん以上の強さ、そして判断の的確さに脱帽しっ放しだ。
或いは団長がいてくれたらアイシャをロストせず済んだかもしれない…でも、時を巻き戻すことはできない。

最上階に待ち構えていたボス、三つ首の魔犬ケルベロスも危なげなく倒し、俺たちはそれぞれレアドロップを手にする。
…ほとんど、団長のおこぼれみたいなものだったが、貰えるものはありがたく貰っておこうか。

白銀に輝くアイテムボックスを開くと…そこには、虹色に輝く1枚のチケットが入っていた。
…なんだこれ。

「なんか、虹色のチケットが入ってたんですけど…」

いつも冷静なアストライア団長が、少しだけ目を見開いた。

「…ずいぶんな強運だな。それが、今回の目玉報酬…レア召喚チケットだ」

「…え、マジですか」

「ラスボスが確率でドロップするというが…前回のチャレンジでも、誰も手に入らなくてね」

「良かったな」

小野寺さんが背中をバンバン叩いて祝福してくれる。

「あ、あのこれ…俺にもらう資格はないと思うので、良かったら小野寺さん…」

そう言って小野寺さんにあげようと思うが、小野寺さんはきっぱりと断ってくる。

「気持ちはありがたいが、俺はしばらくパートナーキャラ無しで行く。…迷惑をかけるかもしれんが、暫くはアイシャを弔いたい」

「そうだぞリョウキくん、運も実力のうちだ。…いずれ同時に連れ歩けるパートナーキャラは増えると言われているからな、戦力増強になるぞ」

「そうですよ!きっとSSRがでます!」

三人にそう言われれば、もはや断る理由もない。

「じゃあ…ありがたく」

チケットをもらった俺は、三人に急き立てられるままに、ダナンの神殿へと向かった。
思えばここでニアと出会ったのが、ついこの間のことのようだ。
もうあの時のような、SSRへの執着はない。
ニアが隣で微笑んでいてくれること…それ以上の喜びがないことを、俺は知っているからだ。
とはいえ…ちょっとドキドキする。
レアガチャはいいぞ。

「じゃ、じゃあ引いてみますね」

アイテムボックスからレア召喚チケットを使用し、YESボタンを押し込んだ。
ガチャン、と重々しい音がして、あの時と同じように、祭壇に光エフェクトが発生。
俺たちは固唾を飲んで、その中心を見つめていた。
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