【完結】偽物聖女ですが、恋だけは本物です

きゅちゃん

文字の大きさ
11 / 21

第11話 覚醒した力の謎

しおりを挟む
 教団事件から一週間が過ぎた。
 城には平和が戻り、人々も普段通りの生活を取り戻している。でも、私の心は晴れなかった。
 
 あの夜、私の体から溢れ出した光。あれは本当に私の力だったのだろうか。
 
「ルーナ様、お顔の色が優れませんが……」
 新しい侍女のメリッサが心配そうに声をかけてきた。アンナの後任として城に来た、優しい女性だ。
 
「大丈夫です。少し考え事をしているだけで」
 
 でも、メリッサは納得していないようだった。
 
「何か心配事がおありなら、お聞きしますよ」
 
 その優しさに、つい本音が漏れた。
 
「私って、本当に聖女なのでしょうか?」
 
「もちろんです」
 メリッサが即答した。
 「あの夜の光を見ました。あんな美しい光は、真の聖女にしか出せません」
 
「でも、私は——」
 
 扉がノックされた。
 
「ルーナ様、大司教様がお見えです」
 
 大司教が入ってきた時、その表情は普段より真剣だった。
 
「ルーナ、少しお話があります。一人でお聞きしたいことが」
 
 メリッサが部屋を出た後、大司教が口を開いた。
 
「あの夜の力について、疑問をお持ちですね?」
 
 やはり気づいていたのだ。
 
「はい。私には魔力がないはずなのに……」
 
「それについて、お話しすることがあります」
 大司教が古い本を取り出した。
 「これは、聖女の歴史について書かれた古文書です」
 
 ページを開くと、美しい挿絵が描かれていた。光に包まれた女性の絵だ。
 
「この方は、初代聖女アリシアです」
 
「初代聖女……」
 
「彼女もまた、最初は魔力を持っていませんでした」
 
 私は驚いた。
 
「魔力がなかったのですか?」
 
「ええ。でも、人を愛する心の強さが、やがて特別な力を覚醒させました」
 大司教がページをめくる。
 「それが『愛の聖女の力』です」
 
「愛の聖女の力……」
 
「通常の聖女の魔力は生まれつきのものです。でも、愛の聖女の力は違う」
 大司教の瞳が優しく光った。
 「人を愛し、愛されることで目覚める。最も純粋で、最も強力な力です」
 
 私の胸が高鳴った。
 
「それでは、私は——」
 
「あなたは愛の聖女です」
 大司教がはっきりと言った。
 「魔力の有無など関係ありません。あなたこそ、真の聖女です」
 
 涙が溢れそうになった。
 
 「でも、なぜ今まで力が出なかったのでしょう?」
 
「愛の聖女の力は、自分のためには使えません」
 大司教が説明した。
 「誰かを守りたい、救いたいという強い気持ちがあって初めて発動するのです」
 
 あの夜のことを思い出した。子どもたちを守りたい一心で、力が溢れ出したのだ。
 
「つまり、私の力は——」
 
「愛そのものです」
 
 その時、扉が開いてアルベルトが入ってきた。
 
「失礼します。大司教様、ルーナ様」
 
「ちょうど良いタイミングです」
 大司教が微笑んだ。
 「アルベルト、あなたにも聞いてもらいたい話がありました」
 
「何でしょうか?」
 
「ルーナは愛の聖女です」
 
 アルベルトの瞳が見開かれた。
 
「愛の聖女……まさか、伝説の……」
 
「ご存じですか?」
 
「はい。聖女検証官の研修で学びました」
 アルベルトが興奮気味に説明した。
 「数百年に一度現れると言われる、最も稀少な聖女です」
 
「そうです。そして——」
 大司教が意味深な笑みを浮かべた。
 「愛の聖女の力が完全に覚醒するには、条件があります」
 
「条件?」
 
「真の愛を知ることです」
 
 私とアルベルトが顔を見合わせた。
 
「つまり、恋をすることが必要なのです」
 
 私の顔が真っ赤になった。
 
「だ、大司教様! そんな……」
 
「事実です」
 大司教がにこやかに続けた。
 「愛の聖女は、人を愛し、愛されることで力を増していきます」
 
 アルベルトも赤くなっている。
 
「それでは、私は——」
 彼が口ごもった。
 「ルーナを愛することが、彼女の力になるということですか?」
 
「その通りです」
 
 気まずい沈黙が流れた。お互いの気持ちを知りながらも、まだはっきりと告白していない私たち。
 
「まあ、慌てる必要はありません」
 大司教が立ち上がった。
 「自然な流れに任せればよいでしょう」
 
 そして、部屋を出ていく前に振り返った。
 
「ちなみに、今夜は満月です。庭園の月見台で月を眺めるのも良いでしょうね」
 
 完全に二人きりになれという意味だった。
 
 大司教が去った後、私たちは気まずく立っていた。
 
「あの……ルーナ」
 アルベルトが口を開いた。
 
「はい?」
 
「愛の聖女のお話、驚きました」
 
「私もです。まさか自分が……」
 
「でも、納得もしました」
 
「え?」
 
「あなたほど人を愛する心を持った方を、私は知りません」
 アルベルトの瞳が真っ直ぐ私を見つめている。
 「きっと、最初から愛の聖女だったのでしょう」
 
 胸がドキドキした。
 
「アルベルト様……」
 
「今夜、時間はありますか?」
 
 大司教の提案を思い出した。月見台での月見……
 
「はい、あります」
 
「それでは、一緒に月を見ませんか?」
 
 私の頬が熱くなった。
 
「喜んで」
 
 夜になると、私は少し良いドレスに着替えた。淡いピンクのドレスに、お気に入りのリボン。
 
「ルーナ様、今夜はお美しいですね」
 メリッサが嬉しそうに言った。
 
「そ、そうですか?」
 
「きっとアルベルト様も、見惚れてしまわれますよ」
 
 庭園の月見台に向かう道すがら、私の心臓は太鼓のように響いていた。
 
 月見台に着くと、アルベルトがすでに待っていた。普段の制服ではなく、紺色の礼服を着ている。
 
「お待たせしました」
 
「いえ、私も今来たところです」
 彼が振り返った瞬間、息を飲んだ。
 月光に照らされた彼の横顔が、あまりにも美しくて——
 
「月が綺麗ですね」
 アルベルトが空を見上げた。
 
「ええ、本当に」
 
 でも、私は月よりも、隣にいる彼の方が気になっていた。
 
「ルーナ」
 
「はい?」
 
「今日、大司教様のお話を聞いて、改めて思ったことがあります」
 
 彼が私の方を向いた。
 
「あなたは本当に特別な方です」
 
「そんなこと——」
 
「いえ、本当です」
 アルベルトが一歩近づいた。
 「最初にお会いした時から、ずっと感じていました」
 
「最初の時から?」
 
「ええ。他の聖女とは何かが違う、と」
 
 彼の瞳が月明かりで輝いている。
 
「あなたといると、心が温かくなるのです」
 
 私の胸が締め付けられた。
 
「私も……」
 
「私も?」
 
「あなたといると、安心します」
 
 アルベルトが微笑んだ。
 
「それは、お互いを大切に思っているからでしょうね」
 
「大切に……」
 
「ルーナ」
 
 彼が両手で私の手を包んだ。
 
「私は、あなたを愛しています」
 
 ついに、その言葉が聞けた。
 
「私も……あなたを愛しています」
 
 月明かりの下で、私たちは初めて想いを交わした。
 
 その瞬間、私の体から再び光が溢れ出した。でも今度は優しい、温かい光だった。
 
「これが、愛の聖女の力……」
 
 アルベルトが感嘆している。
 
「美しい……」
 
 愛によって目覚めた力。これが、本当の私の力だった。
 
 でも、まだ物語は終わらない。
 愛の聖女として、これから新たな試練が待っているのかもしれない。
 
 それでも、アルベルトと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生バレ回避のはずが、領主の息子に見つかって恋をした。

黒蜜きな粉
恋愛
前世で遊び尽くしたRPGの世界に転生した少女ルーシ。 この世界で転生者は特別な存在として保護され、自由を奪われる。 英雄になんてなりたくない。 ルーシの望みはただひとつ──静かに暮らすこと。 しかし、瀕死の重傷を負った領主の息子アッシュを救ったことで、平穏な日常は崩れ始める。 才能への評価、王都への誘い、そして彼から向けられる想い。 特別になりたくない転生治癒師と、 彼女を見つけてしまった領主の息子の物語。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました

ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。 壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。

【旦那様は魔王様 外伝】魔界でいちばん大嫌い~絶対に好きになんて、ならないんだから!~

狭山ひびき
恋愛
「あんたなんか、大嫌いよ!」ミリアムは大きく息を吸い込んで、宣言した。はじめてアスヴィルと出会ったとき、彼は意地悪だった。二度と会いたくないと思うほど嫌っていたのに、ある日を境に、アスヴィルのミリアムに対する態度が激変する。突然アスヴィルは、ミリアムを愛していると言い出したのだ。しかしミリアムは昔のまま、彼のことが大嫌い。そんなミリアムを振り向かせようと、手紙やお菓子、果ては大声で愛を叫んで、気持ちを伝えようとするアスヴィル。果たして、アスヴィルの気持ちはミリアムに届くのか―― ※本作品は、【旦那様は魔王様!】の外伝ですが、本編からは独立したお話です。

白い結婚のはずでしたが、冷血辺境伯の溺愛は想定外です

鍛高譚
恋愛
――私の結婚は、愛も干渉もない『白い結婚』のはずでした。 侯爵令嬢クレスタは王太子アレクシオンから一方的に婚約破棄を告げられ、冷徹と名高い辺境伯ジークフリートと政略結婚をすることに。 しかしその結婚には、『互いに干渉しない』『身体の関係を持たない』という特別な契約があった。 形だけの夫婦を続けながらも、ジークフリートの優しさや温もりに触れるうち、クレスタの傷ついた心は少しずつ癒されていく。 一方で、クレスタを捨てた王太子と平民の少女ミーナは『真実の愛』を声高に叫ぶが、次第にその実態が暴かれ、彼らの運命は思わぬ方向へと転落していく。 やがて訪れるざまぁな展開の先にあるのは、真実の愛によって結ばれる二人の未来――。

気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

処理中です...