【完結】偽物聖女ですが、恋だけは本物です

きゅちゃん

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第21話(最終話) 偽物が見つけた本物の幸せ

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 結婚式から三ヶ月が経った。

 春の陽光が窓から差し込む中、私は聖女の執務室で書類に目を通していた。

「ルーナ様、東の村から感謝の手紙が届いています」

 メリッサが嬉しそうに報告してくれた。

「先日の病気の流行を、あなたの治癒の力で止められたと」

「それは良かった」

 私は微笑んだ。

 結婚しても、聖女としての仕事は続けている。むしろ、アルベルトの支えがあることで、以前よりも活発に活動できるようになった。

「今日の午後は、孤児院の視察ですね」

「ええ。トムたちに会うのが楽しみだわ」

 コンコン。

 扉がノックされ、エリスが入ってきた。

「おはよう、ルーナ」

「エリス様、おはようございます」

「もう『様』はいいわ」

 彼女が笑った。

「私たちは対等なパートナーでしょう?」

「それでは......エリス」

「ええ、その方が好きよ」

 エリスが報告書を広げた。

「北の国境付近で小さな諍いがあったけれど、話し合いで解決できたわ」

「良かった」

「あなたが『愛の大切さ』を説いたおかげね」

 彼女が私の肩を叩いた。

「一年前は想像もできなかったでしょう? 二人で国を治めるなんて」

「本当に」

 私は窓の外を見た。

 城下町には平和な日常が戻っている。市場では人々が笑顔で買い物をし、子どもたちが元気に遊び回っている。

「そういえば」

 エリスが声を潜めた。

「アルベルトから聞いたのだけれど......」

「何ですか?」

「あなた、もしかして......」

 彼女の視線が私のお腹に向けられた。

「えっ? い、いえ、まだそういうわけでは......」

 私の顔が真っ赤になった。

「冗談よ」

 エリスが楽しそうに笑った。

「でも、いつかはね」

「もう、エリス!」

 午後、私とアルベルトは孤児院を訪れた。

「聖女様!」

「アルベルト様!」

 子どもたちが駆け寄ってくる。

「みんな、元気そうね」

「はい! 毎日、勉強も訓練も頑張ってます!」

 トムが胸を張った。

「この前、剣術の試験に合格したんです」

「すごいわね」

「俺、いつか騎士団に入って、国を守りたいんです」

 彼の目が輝いている。

「きっとなれるわ」

 私は彼の頭を撫でた。

「でも、覚えていてね」

「何ですか?」

「本当に強い人は、力だけじゃなくて、心も強い人よ」

 トムが真剣に頷いた。

「はい。ルーナ様のように」

 孤児院の院長が近づいてきた。

「聖女様、いつもご支援ありがとうございます」

「いえ、私にできることは限られていますから」

「そんなことはありません」

 院長が微笑んだ。

「あなたが定期的に訪問してくださるおかげで、子どもたちに希望が生まれています」

 夕方、城に戻ると、意外な訪問者がいた。

「ノア?」

 元深淵の王、今はノアと名乗る青年が、庭で花の手入れをしていた。

「ルーナ様、お帰りなさい」

「あなた、ここで何を?」

「城の庭師として雇っていただきました」

 彼が照れくさそうに笑った。

「償いの一環として、美しいものを育てようと」

「素敵ね」

「かつて闇を広げた私が、今は花を育てている」

 ノアが一輪の薔薇を摘んで、私に差し出した。

「不思議なものです」

「人は変われるのよ」

 私は薔薇を受け取った。

「あなたが証明してくれたわ」

「ルーナ様のおかげです」

 彼が深々と頭を下げた。

「あなたが教えてくれた愛の力を、私も誰かに伝えていきたい」

 その夜、アルベルトと二人で夕食を取った。

 私たちの新居は、城の一角にある小さな館だった。

「今日も充実した一日でしたね」

 アルベルトが優しく微笑んだ。

「ええ。でも、少し疲れました」

「無理をしないでくださいね」

「大丈夫よ。あなたがいてくれるから」

 食後、私たちは暖炉の前で寛いでいた。

「ねえ、アルベルト」

「はい?」

「一年前を思い出すわ」

「どんなことを?」

「あなたに初めて会った日」

 私は彼の肩に頭を預けた。

「聖女検証官として、厳しい目で私を見ていたわね」

「今思えば、恥ずかしいですね」

 アルベルトが苦笑いした。

「あの時から、もう惹かれていたのかもしれません」

「本当?」

「ええ。だからこそ、厳しくしてしまった」

「私は、怖かったわ」

「それは申し訳ない」

 彼が私を抱きしめた。

「でも、今は違います。これからは、ずっとあなたを守ります」

「私も、あなたを支えます」

 静かな時間が流れた。

 暖炉の火がパチパチと音を立てている。

「ルーナ」

「何?」

「幸せですか?」

「ええ、とても」

 私は彼を見上げた。

「偽物の聖女だった私が、こんなに幸せになれるなんて」

「あなたは最初から本物でした」

「でも、魔力もなくて——」

「魔力がなくても、あなたの心は本物でした」

 アルベルトが私の手を握った。

「人を愛する心。それこそが、真の聖女の力です」

 涙が溢れそうになった。

「ありがとう」

「いいえ、私こそ」

 彼が私の額にキスをした。

「あなたに出会えて、人生が変わりました」

 翌朝、王様からの呼び出しがあった。

 謁見の間で、王様は厳かな表情で私たちを見ていた。

「ルーナ、アルベルト」

「はい」

「お前たちの活躍により、国は以前にも増して平和になった」

 王様が立ち上がった。

「民は二人を愛し、二人を頼りにしている」

「恐縮です」

「そこで」

 王様が宣言した。

「お前たちに、正式に『愛の大使』の称号を授ける」

「愛の大使......ですか?」

「そうだ。この国の愛と平和を象徴する存在として、他国との友好関係も築いていってほしい」

「光栄です」

 私とアルベルトは深々と頭を下げた。

 謁見の間を出ると、エリスが待っていた。

「おめでとう」

「ありがとう、エリス」

「これから、もっと忙しくなるわね」

「ええ。でも——」

 私はアルベルトの手を握った。

「二人なら、どんなことも乗り越えられるわ」

 その日の午後、私たちは城の屋上に上がった。

 あの結婚式の夜、星空の下でキスをした場所。

「懐かしいですね」

 アルベルトが言った。

「ええ。あれから、まだ三ヶ月なのに」

「ずっと一緒にいるような気がします」

「私もよ」

 風が優しく吹いている。

 城下町を見下ろすと、人々が平和に暮らしている様子が見えた。

「ねえ、アルベルト」

「はい?」

「私たち、きっとこれからもいろいろな困難に出会うわね」

「そうでしょうね」

「でも」

 私は彼を見つめた。

「一緒なら、大丈夫よね」

「ええ、必ず」

 彼が私を抱きしめた。

「どんな困難も、二人の愛で乗り越えましょう」

 遠くで、教会の鐘が鳴った。

 新しい時を告げる音。

 偽物の聖女だった私は、本物の愛を見つけた。

 そして今、その愛と共に、新しい未来へと歩み出している。

 この先、どんなことが待ち受けているかはわからない。

 でも、恐れることはない。

 なぜなら——

 愛する人が、そばにいてくれるから。

 仲間たちが、支えてくれるから。

 そして何より、私の心には、本物の愛があるから。

 空を見上げると、青い空に白い雲が浮かんでいた。

 まるで、祝福のように。

「さあ、行きましょう」

 私はアルベルトの手を取った。

「これからも、たくさんの人に愛を届けに」

「ええ」

 彼が微笑んだ。

「永遠に、一緒に」

 私たちは手を繋いで、階段を降りていった。

 新しい明日へ。

 愛に満ちた未来へ。

 偽物から始まった物語は、本物の幸せへとつながった。

 そして、その幸せは——

 これからも、ずっと続いていく。

 ——それから、五年の月日が流れた。

 城の庭園では、小さな女の子が花の間を走り回っていた。

「ママ、見て! 蝶々!」

「危ないわよ、エミリア」

 私は娘を優しく抱き上げた。

 エミリア——私たちの娘は、今年で三歳になった。

「パパはどこ?」

「お仕事よ。もうすぐ帰ってくるわ」

 その時、アルベルトが庭に現れた。

「ただいま」

「パパ!」

 エミリアが嬉しそうに駆け寄っていく。

「よしよし」

 アルベルトが娘を抱き上げた。

「今日は良い子にしていたかな?」

「うん! ママとお花を見てたの」

「そうか。えらいぞ」

 私はその光景を見て、胸が温かくなった。

 こんな幸せな日々が来るなんて、あの時は想像もできなかった。

「ルーナ」

 アルベルトが私に微笑みかけた。

「幸せですか?」

「ええ」

 私は彼に寄り添った。

「こんなに幸せでいいのかしらと思うほどよ」

「それは良かった」

 遠くで、エリスとノアが話をしているのが見えた。

 エリスは今も聖女として国を支え、ノアは立派な庭師として城で働いている。

 トムは騎士団に入り、子どもたちを守る立場になった。

 みんな、それぞれの幸せを見つけた。

「ねえ、エミリア」

 私は娘に話しかけた。

「ママはね、昔は偽物だったのよ」

「偽物?」

「ええ。でもね、本物の愛を見つけたの」

 娘はきょとんとしている。まだ難しい話だろう。

「いつか、大きくなったら教えてあげるわ」

「何を?」

「愛の大切さを」

 私はアルベルトと娘を抱きしめた。

「そして、どんな人でも幸せになれるということを」

 青い空の下、私たちの幸せな時間は続いていく。

 偽物だった私が見つけた、本物の幸せ。

 それは——

 永遠に輝き続けるのだ。
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