読者が増えない底辺作家が自棄を起こして全カテゴリ要素ブッ込んでみた結果→カオスに発展

花鳴カナリア

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    完成されたシナリオ その1

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 室内にノートパソコンのキーボードを叩く音が響く。
壁にはアニメのポスターとカレンダー。
後は炬燵こたつがあるだけの質素な和室の四畳半で、俺は某サイトに投稿する為の執筆作業の真っ最中だった。
物語のあらすじは至ってシンプル。
一人の少年が一目惚れの恋に落ち、様々な問題や苦難を乗り越えて少女に愛の告白をすると言うラブストーリーだ。

「これで俺は、ランキング首位を独走するんだぁーーっ‼」

たぎる闘志を抑えられず、思わず天井に拳を突き上げてしまった。
我ながら細い腕に情けなさが込み上げてくるが、子供の頃から周囲が止める程の運動音痴だから仕方がない。
顔だってどこにでもいるモブ顔だし、性能スペックにモテ要素が一切ないから三次元の恋愛は完全にあきらめている。

「あっ!お兄ちゃんがまた駄作書いてる」

襖を開けて勝手に入ってきたのは高校一年の妹、ひじりだ。
部屋のなかに風呂上がりのシャンプーの香りが広がる。

「お前こそ、またそんな格好してるのか。
さっさと着替えろよ」

バスタオルを一枚巻いただけの妹は、俺の言葉を無視して炬燵に潜り込んだ。

「…だって。
聖、お兄ちゃんとしたいんだもん」

うるんだ瞳で俺を見詰める聖。
そう言うのは美少女だけの特権だから、やめろ。

「断っとくけどな。
あんなクソゲー、俺は二度とやらねーからな」

演技がウザかったので冷たく突き放してやった。

「ひどっ?!
何度やっても勝てないからって妹の作った『オワコンクエスト』をクソゲー扱いするなんて!」

聖が嘘泣きをする横で俺はキーボードを打ち続けた。
兄は小説家、妹はゲームクリエイター。
それぞれに夢があるのは良い事なのだが、どうやら兄妹そろって仲良く挫折ざせつする事になりそうだ。
なぜなら俺達の才能は未来で花開くどころか、種の時点ですでに腐っているのだから。
プロを目指して投稿する俺の小説は読者もつかず、万年最下位。
妹がプログラミングしたゲームは若年層からお年寄りまでに幅広く、俺達は日々無駄な労力を費やしていた。

「…振り向くと彼女と目が合った。
夕陽が空を鬼灯ほおずき色に塗り、あ、コラッ?!」

呟きながら作業をしていると、いつの間に立ち上がったのか聖がノートパソコンをひょいと取り上げた。
その視線が液晶の画面ゲレンデを次々と滑走かっそうし、最後のページでピタリと止まる。

「ど、どうだ?」

俺は小説を読み終えたであろう聖に感想をたずねた。
自慢じゃないが、今回は恋愛モノのあらゆる売れ要素を詰め込んだ自信作だ。
さしもの妹も感動で言葉も出ないのかと思ったら、

「うん、駄作」

キッパリと、そして平然と言い放ちやがりました、この妹は。

「な、何が『うん、駄作』だっ!
お前にはこの良さが解らんのか?!」

思いきり叩きつけた拳で炬燵台が揺れた。
三ヶ月かけてプロットを練り、制作期間は一ヶ月半にも及ぶこの超大作が駄作である訳がない。

「だってこれ、全部どっかで見たような設定の詰め合わせじゃん」

妹はそういうとキーボードを操作し、空白の画面を俺に向けた。
さっきまで活字でびっしり埋め尽くされていた筈の、空、白の、何もない画面を。

「…お、おまっ、お前、そ、そ、そ、ソレ。
み、未来の大賞作品に何してんだよぉーーーーっ‼」

頭を抱えて畳の上を転がり、悶絶もんぜつする俺。
終わった。俺の作家人生はもう、終わった。

「聖、悪くないもん。
お兄ちゃんの小説がつまんないのが悪いんじゃん。
こんなの出したら恥だよ、恥」

聖はノートパソコンを俺の前に置くと隣に座って顔を近づけた。
ちらりとのぞく胸元に少しだけドキッとする。
子供の頃はぺちゃんこだったのに、よくもここまで育ったもんだ。

「それよりね。
今、すっごく良いコト思い付いちゃった」

元々大きな瞳を更に見開いて興奮気味の聖。
コイツがこんな顔する時は、大体ろくでもない事を閃いた時なんだよな。

「オワコン脳ミソのお前のアイデアなんか聞きたくもねー。
それよりどうすんだよ、俺の大作。
コンテストの締め切りは今日の零時れいじまでなんだぞ?!」

ぼう小説投稿サイトが定期的に開催している各テーマ別のコンテスト。
ここで大賞をれれば出版化が約束され、プロ作家への第一歩を踏み出す事が出来るのだ。
しかし、締め切りまで残り三時間。
さっきの作品を今から書き直しても絶対に間に合わないだろう。

「だから、聖が責任もって力を貸すって。
お兄ちゃんさ。
要するに全部ブッ込んじゃえば良いんだよ」

妹が何を言ってるのか理解するのに俺は数秒を要した。
…全部、ブッ込む?

「海鮮丼みたいに色んなジャンルの要素を入れて一つの物語にしちゃうのっ!
それって面白そうでしょ?」

妹よ、海鮮丼ではない。
それは『闇鍋やみなべ』と言うおぞましいゲテモノ料理だ。
心のなかではそう思ったが、興味を覚えたのも確かだった。
難易度はおそろしく高い。
しかし、成功すれば読者にとてつもなく大きなインパクトを与えるだろう。

「…闇鍋かぁ」
「海鮮丼だよっ?!」

否定する聖をよそに頭のなかで想像を巡らせてみる。
分類されているテーマは全部で十三。
ミステリー、ホラー、SF、ファンタジー、恋愛、青春、現代文学、大衆娯楽、経済・企業、歴史・時代、児童書・童話、絵本、BL。
これを全部一つの物語にブッ込む。
まさに、神をも恐れぬ所業。
しかし、次のランキングで一位を獲れなければ執筆活動から足を洗う。
そう決めていた俺にとって、禁忌タブーとも呼べるごうを背負う事こそ一番相応しいのではないか。
こうなりゃ、もう自棄やけ。ノルか、ソルかだ。
覚悟を決めた俺の視界はもはや、絶望にくもってはいなかった。

「…聖、俺決めたわ。
才能皆無の俺とお前で、
どうせなら一世一代の大恥かいてやろーぜ!」

こうして俺達兄妹の前代未聞にして前途多難、たった三時間の作家生命を賭けた挑戦が始まったのだった。




 



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