転生者Ｇ－転生前はゴキブリでした－

Ⅶ 王都の夜

人間として

(ザズさん、聞こえますか?)

ザズの頭にＧの声が響き、視界に半透明な地図が映し出される。

(今お見せしているのは街の全体図です。
動いている緑の点が味方、赤い点が敵の現在位置になります)

「……こりゃあ、たまげた。
これなら奇襲をかけ放題じゃねえか」
「Ｇサーチで見えている映像を明日、反乱軍全員の頭のなかに送信します」
「こっの、糞……チート野郎めっ!
気に入ったぜ‼」

ザズはＧの肩に手をかけるとニヤリと笑った。

「H、スケッチ、ワンタッチ～」

粉々に砕けていたザズのナイフの刃が復元される。

「これで元通りね」
「有り難うよ、リーダー。
ま、今回こいつの出番はねえけどな」

獲物を鞘に仕舞うザズ。

「いえいえ～。
あとは隊を分けて配置し、分散して行動するようにしましょう」
「冒険者級ランクが偏らないようにしねえとな」
「こちらにはS級の猫さんもいますしね」
「……級」

級の話はハルナーフには禁句だった。

「ど、どうせ私は最低のE級よぅ～!」
「しまった、リーダーが拗ねたぞ?!」
「ハルナーフ様、級なんてもんはただの目安であってですね……」
「でも、ジークはSだもん!
私より弱い癖に、最上級だもん～‼」
「た、たしかに一度も勝てた事はありませんけど、Ｇには攻撃系スキルが揃っていますからね。
ただ物質を変化させるだけのリーダーのスキルは、評価されにくいのですよ」
「うぅ、酷い言い方～。
せっかくこれ復元つくってあげたのにぃ」

ハルナーフはアメジスト色に輝くリンゴを掌に乗せた。
隠者の果実だ。

「いつの間に?!」
「ジークがザズとお話ししてる間に創っちゃった～。
でも意地悪言うなら、種に戻しちゃおうかしら」

絵筆を取り出され、慌ててそれを仕舞わせるＧ。

「……ジーク。
私達は死なないわ」

急に真顔になってハルナーフが呟いた。

「だから、貴方も死なないで。
ユリカさんを連れて、必ずみんな揃ってキジェットの村に帰りましょう」
「……リーダー」

この世界での母親の顔を知らないＧにとって、若いとはいえハルナーフは母のような存在だった。
彼女は何かを察しているのかも知れない。
Ｇはその手を握り締めると力強く頷いた。
もっと、この暖かな人達と同じ時間を生きていたい。
ゴキブリとしてではなく、同じ人間としてそう思った。