転生者Ｇ－転生前はゴキブリでした－

Ⅷ 死期と式

君のそばに

「私は、貴方を……絶対に許さない!」

ユリカは暮井戸の腕に思いきり噛みついた。

「この馬鹿女がっ!」

ライターの炎が引火し、たちまちユリカの全身を炎が包む。

「クハハハハッ!
ざまぁみろ!
この世に僕の思い通りにならない事など、一つもあっちゃいけないんだ!」

荒ぶる炎に身を焦がしながら、

「……Ｇ」

ユリカはＧに手を伸ばした。
皮膚が、服が、髪が、命が、燃えてゆく。
Ｇは暮井戸の指から必死で逃れようともがくが、小さな虫の力ではどうする事も出来ない。

「慌てるなよ、ゴキブリくん。
ほうら、今度はお前が火だるまになる番だぞ」

暮井戸はピンセットでＧを挟むと、その腹に火を点けた。
ジュッ。
異臭と共にパチパチとゴキブリの体が燃え、その拍子に床に落ちる。
だが、Ｇはその瞬間こそを待っていた。
－よくも、よくも二本足さんを!
暮井戸の体を這い上がり、その顔面に張り付く。

「ぐわっ!
この、忌々しいゴキブリがぁっ‼」

潔癖性の暮井戸は動転し、Ｇを手で払おうと躍起になるが捕える事が出来ない。
とうとうその場に尻餅を着いてしまった。
カンッ。
何かにぶつかった感触。
イタリア製の高級スーツに染みが広がる。

「……おい、よせ」

その時のＧに意識など残っていたのか、解らない。
しかし、小さな火の玉は迷う事なく真っ直ぐに、暮井戸に突っ込んだ。
たちまち炎に覆われ、暮井戸が床の上を転げ回る。
しかし、暴れれば暴れるほど火の勢いは強まるばかりだ。

「……じぃ」

声……。
二本足さんの、声がする。
もはや全身の殆どが焼け落ちた体で、Ｇはそれでもユリカの元によろよろと近付いた。

「……そばに……いてくれるの?
お前は……やさしい、ね」

一人と一匹は命を終える最期の時まで、いつまでも寄り添っていた。