5 / 6
――――
しおりを挟む
例えばね、もしも君が道に迷っていて、帰り道がわからなくなっていたら
僕は必ず君を見つけて家まで送り届けてあげる。
例えばね、もしも君が困っていたら、僕は手を差しのべて、君の力になるよ。
僕はね、君と同じ景色を見ているだけで幸せなんだ。
僕は君と同じ空を見ているだけで心がとても穏やかで癒されるんだ。
晴れ渡る青空はいつになくキラキラ輝いて見える。
こんな天気のいい日は遠回りして帰えろう。
どうせ家に帰っても僕一人だから、つまらない。
僕の両親は共働きで父と最後に顔を合わせたのはいつだっけ?
思い出せないくらい 暫く、僕は父の顔を見ていない気がする。
母も同じだ。3つも仕事を掛け持ちして、いつご飯を食べているのか、
いつ寝ているのかもわからない。
僕が決まった時間に階段を下りて、ダイニングキッチンに行くと
いつも食事が用意されていた。僕はそれを食べて食器を片付けて、
後はお風呂に入って寝るだけさ。両親が帰る前に自分の部屋に入るから、
僕は両親が帰って来た時間なんて知らない。
そんな毎日の繰り返しだ。
参観日も運動会も両親が来たこともないし、個人懇談や家庭訪問さえ
先生はいつも僕の順番をとばしている。掃除当番やクラスの係りも僕だけ
忘れられている。
僕はいつだって空気のように軽い存在なんだ。
フワフワ飛んでいって皆の視界から消えている。
気づいたら僕の存在は消えていた―――ーーー。
人間の存在価値なんて量《はか》れるものじゃない。
誰が決めているの?
存在価値を決めていたのは僕自身だった。
存在を消したいほど怯えていた恐怖がチラホラと脳裏をかすめる。
だけど僕はそんな過去さえもこの手で消していた。
そのことに僕はまだ気づいてはいなかったーーーー。
この道を通るのは初めてかもしれない。
…いや、何度か通ったことがあったかもしれない。
ただ、僕の記憶になかっただけだ。
僕は幾度か通った道を初めて通ったような感覚に陥っていた。
「ヒューン」「ヒューン」
風の音ではない。風なんて吹いていない。
「ヒューン」「ヒューン」
僕は立ち止まり、視点を変えて見た。
「……!?」
その先に見えるものに、気づいたら僕は走り出していた。
土手から眺める景色の中に彼女の姿が映っていた。
僕は土手を下へ下へと駆け下りて行く。
ドサッ
「あ…」
コロコロコロ……
足元がもつれて、コロコロと転がりながらも僕は立上がり、
体を立て直すと、その足は止まることなく走り続けていた。
―――運命…なんて言ったら大げさだけど、
神様が僕にもう一度チャンスをくれたような気がした。
「はあ…はあ…はあ…」
彼女の手にブーメランが戻ってきた時、僕は息を切らせながら
彼女の前に辿り着く。
「……」
彼女の視線を感じていた。キョトンと不意を突かれたような顔をしている。
彼女に会いたいと思っていた僕は彼女に会えたことが嬉しくてその後の言葉を
全然考えていなかった。
でも……
「あの…僕と友達にならない?」
「ならない」
やっぱり一刀両断。 でも、僕だって……あきらめない。
ヒューン!
彼女はブーメランを飛ばし、ブーメランは思い通りに彼女の手の中に戻っていく。
「ブーメラン、すっごい上手だね。僕にもできるかな?」
「お前には無理だ」
彼女はいつだって強気で堂々としている。
彼女にとって友達なんか必要ない存在なのかもしれない。
「あ、もしかしてブーメランが友達とか? 思ってる?」
「……なわけないだろ」
そこは否定するんだ。
でも、僕だって…あきらめない。
「君も一人だろ? 僕も一人なんだ」
「だから?」
「友達にならない?」
「友達なんてめんどくさいもん必要ないよ」
「そりゃ、君は一人でも最強だけどさ…」
「……」
「2人ならもっと最強になれると思わない?」
「卒業まで5カ月もないんだよ。今更、友達なんて作ってどうすんのよ」
「どうもしないよ」
「え…」
「僕もこのまま誰にも気づかれないで空気みたいな存在のまま卒業するって
思ってた。でも、君に会って友達になりたいって思った。ただ、それだけ」
「お前は変わってるな」
「変わっているのは君も同じだろ。僕の名前は臼井大地」
「私は…」
「知っているよ。君の名前は猿渡空良―――この澄んだ青空と同じ…いい名前だね」
「空良って…お父さんが付けたんだ…」
「へぇ…そうなんだ。そのブーメラン…」
「これもお父さんが作ってくれたんだ」
「お父さんってめちゃくちゃ器用なんだね。羨ましいよ」
「羨ましい?」
「僕のお父さんは…」
僕は途中で言いかけて止めた。僕はお父さんを紹介できるほどお父さんのことを
よく知らなかったからだ。
「……何?」
「なんでもない…」
「ねぇ、僕と友達になってくれない?」
「友達って…人に言われてなるもんじゃないっしょ」
「え?」
「お前は頭いいから名門高校行くんだろ?」
「うん…そのつもり…」
「じゃ…友達になっても意味ないね」
「…え」
「私達…高校は別々だ。じゃね、秀才君」
彼女はそう言って帰って行った。僕は彼女の後ろ姿を暫く見つめていた。
空が次第に赤く染まり夕焼け空に移り変わった頃には彼女の姿はもう
見えなくなっていた。それでも僕はその場所に立ち竦んでいた。
彼女の言葉が頭中で幾度も繰り返し旋回《せんかい》して離れずにいた。
それでも、僕は彼女と友達でいたいと思ったんだ。
彼女と永遠の親友でありたいと思ったんだ――――ーーー。
僕は必ず君を見つけて家まで送り届けてあげる。
例えばね、もしも君が困っていたら、僕は手を差しのべて、君の力になるよ。
僕はね、君と同じ景色を見ているだけで幸せなんだ。
僕は君と同じ空を見ているだけで心がとても穏やかで癒されるんだ。
晴れ渡る青空はいつになくキラキラ輝いて見える。
こんな天気のいい日は遠回りして帰えろう。
どうせ家に帰っても僕一人だから、つまらない。
僕の両親は共働きで父と最後に顔を合わせたのはいつだっけ?
思い出せないくらい 暫く、僕は父の顔を見ていない気がする。
母も同じだ。3つも仕事を掛け持ちして、いつご飯を食べているのか、
いつ寝ているのかもわからない。
僕が決まった時間に階段を下りて、ダイニングキッチンに行くと
いつも食事が用意されていた。僕はそれを食べて食器を片付けて、
後はお風呂に入って寝るだけさ。両親が帰る前に自分の部屋に入るから、
僕は両親が帰って来た時間なんて知らない。
そんな毎日の繰り返しだ。
参観日も運動会も両親が来たこともないし、個人懇談や家庭訪問さえ
先生はいつも僕の順番をとばしている。掃除当番やクラスの係りも僕だけ
忘れられている。
僕はいつだって空気のように軽い存在なんだ。
フワフワ飛んでいって皆の視界から消えている。
気づいたら僕の存在は消えていた―――ーーー。
人間の存在価値なんて量《はか》れるものじゃない。
誰が決めているの?
存在価値を決めていたのは僕自身だった。
存在を消したいほど怯えていた恐怖がチラホラと脳裏をかすめる。
だけど僕はそんな過去さえもこの手で消していた。
そのことに僕はまだ気づいてはいなかったーーーー。
この道を通るのは初めてかもしれない。
…いや、何度か通ったことがあったかもしれない。
ただ、僕の記憶になかっただけだ。
僕は幾度か通った道を初めて通ったような感覚に陥っていた。
「ヒューン」「ヒューン」
風の音ではない。風なんて吹いていない。
「ヒューン」「ヒューン」
僕は立ち止まり、視点を変えて見た。
「……!?」
その先に見えるものに、気づいたら僕は走り出していた。
土手から眺める景色の中に彼女の姿が映っていた。
僕は土手を下へ下へと駆け下りて行く。
ドサッ
「あ…」
コロコロコロ……
足元がもつれて、コロコロと転がりながらも僕は立上がり、
体を立て直すと、その足は止まることなく走り続けていた。
―――運命…なんて言ったら大げさだけど、
神様が僕にもう一度チャンスをくれたような気がした。
「はあ…はあ…はあ…」
彼女の手にブーメランが戻ってきた時、僕は息を切らせながら
彼女の前に辿り着く。
「……」
彼女の視線を感じていた。キョトンと不意を突かれたような顔をしている。
彼女に会いたいと思っていた僕は彼女に会えたことが嬉しくてその後の言葉を
全然考えていなかった。
でも……
「あの…僕と友達にならない?」
「ならない」
やっぱり一刀両断。 でも、僕だって……あきらめない。
ヒューン!
彼女はブーメランを飛ばし、ブーメランは思い通りに彼女の手の中に戻っていく。
「ブーメラン、すっごい上手だね。僕にもできるかな?」
「お前には無理だ」
彼女はいつだって強気で堂々としている。
彼女にとって友達なんか必要ない存在なのかもしれない。
「あ、もしかしてブーメランが友達とか? 思ってる?」
「……なわけないだろ」
そこは否定するんだ。
でも、僕だって…あきらめない。
「君も一人だろ? 僕も一人なんだ」
「だから?」
「友達にならない?」
「友達なんてめんどくさいもん必要ないよ」
「そりゃ、君は一人でも最強だけどさ…」
「……」
「2人ならもっと最強になれると思わない?」
「卒業まで5カ月もないんだよ。今更、友達なんて作ってどうすんのよ」
「どうもしないよ」
「え…」
「僕もこのまま誰にも気づかれないで空気みたいな存在のまま卒業するって
思ってた。でも、君に会って友達になりたいって思った。ただ、それだけ」
「お前は変わってるな」
「変わっているのは君も同じだろ。僕の名前は臼井大地」
「私は…」
「知っているよ。君の名前は猿渡空良―――この澄んだ青空と同じ…いい名前だね」
「空良って…お父さんが付けたんだ…」
「へぇ…そうなんだ。そのブーメラン…」
「これもお父さんが作ってくれたんだ」
「お父さんってめちゃくちゃ器用なんだね。羨ましいよ」
「羨ましい?」
「僕のお父さんは…」
僕は途中で言いかけて止めた。僕はお父さんを紹介できるほどお父さんのことを
よく知らなかったからだ。
「……何?」
「なんでもない…」
「ねぇ、僕と友達になってくれない?」
「友達って…人に言われてなるもんじゃないっしょ」
「え?」
「お前は頭いいから名門高校行くんだろ?」
「うん…そのつもり…」
「じゃ…友達になっても意味ないね」
「…え」
「私達…高校は別々だ。じゃね、秀才君」
彼女はそう言って帰って行った。僕は彼女の後ろ姿を暫く見つめていた。
空が次第に赤く染まり夕焼け空に移り変わった頃には彼女の姿はもう
見えなくなっていた。それでも僕はその場所に立ち竦んでいた。
彼女の言葉が頭中で幾度も繰り返し旋回《せんかい》して離れずにいた。
それでも、僕は彼女と友達でいたいと思ったんだ。
彼女と永遠の親友でありたいと思ったんだ――――ーーー。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる