あまのじゃくの子

栗原みるく

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第11話

36年前の過去~メイン人物集結する~

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 【職員室】

 
 私が座るデスクの斜め右隣にいる男性がチラホラとこっちをみているような
 視線を感じていた。でも、気のせいかもしれないと思い、私は気づかない
 振りをして席を立つ。


 時計の針は3時を差す。



〈あ…やば…。もう、こんな時間…〉


 確か1年生の下校時間は3時だった。




〈いつも、先生は帰りの挨拶をしていたっけ〉


「それでは、帰りの挨拶がありますので、私はこれで…お疲れ様です」


 私は自分が小学1年生の頃を思い出しながら、未来から来たことを
 周囲の人達にさとられないように荷物を手に取ると静かに後退あとずさりする。


「あ、津山先生…」

 教頭先生の声を背中に感じていたが、私は素知らぬ態度で職員室を出た。
 廊下を足早に歩き、段々とその速度は速くなっていた。




 【1年1組】


 私が教室に入ると、子供達は帰る準備をして席についていた。

「セーフ」

 思わず私は小さく下の方で手を横に動かす。


「アウトだよ、先生」

 一人の男子生徒が壁に掛かった時計を指差して言った。



 時計の針は3時5分―――。


「ごめん、ごめん(笑)」

 愛想笑いを浮かべながら私は教壇の前に進む。

「先生、宿題は―」

 え? 宿題? そんなのすっかり忘れていた…。


 「ごめんね。先生、赴任してきたばかりでわからなくて…忘れました」


 「……?」

 子供達は唖然とした顔でこちらに注目していた。

「なので、今日は日記と音読をしてきてください」


「わあーい」
「マジでー」

「やったあ」
「三宅先生より津山先生の方がいいかもー」
「三宅先生、めっちゃ宿題出すもんね」
「女の先生なのにすぐ怒るし」
「ヒステリックすごかったよね」


 え? そうなの? こんな軽いノリでいいのかなあ…


 実際、私も宿題するの嫌いだったしななあ…。

 みんなも喜んでるし…まあ、いいか……


「でもさ春陽はるき君には優しかったよね」



「ハルはちょっと顔が可愛いからって、三宅先生、ひいきしてたし」

 雪子が口をとがらせて言う。


〈雪子ちゃん、その言い方は……〉


 母の幼少時代は結構気が強かったのね……。

 私の頬から冷汗が流れてきた。


「ヘン、凡人ぼんじん偉人いじんの違いだ。ユキバカめ」

 春陽はるきも負けずに突っかかっていく。


 ――――上から目線だ……小学生が言う言葉か……


「なによっ」

「っだよ」


 春陽はるきと雪子は席を立ち、今にも飛びかかりそうな勢いで
 互いにバチバチと視線を合わせている。


「まあ、まあ、春陽はるき君も雪子ちゃんも…落ち着いて」


 とりあえず、私は2人の間に入りケンカになる前に止める。


 ―――って、あれ? ハルとユキ? …どこかで聞いたような名前…

 どこだっけ……?



「先生、僕 塾があるから早く帰りの挨拶して」

「私もピアノの時間に遅れる」


 え? 1年生から塾に行ってるの? みんな、すごいね…


「ああ、ごめん、ごめん。じゃ、日直さん、お願いします」

「はい」
 
橋本葵はしもとあおいが手を上げる。

「起立」

 子供達は葵の号令で立ち上がる。

「先生、さようなら。みなさん、さようなら。また明日、元気で会いましょう。
さようなら」


「さようなら」



 へぇ、帰りの挨拶って少し変わってるんだ。

 私達の時はもっと単純だったような…。


「はい、さようなら(笑)」



 私はニコニコして手を振りながら子供達が教室を出て行く姿を見送っていた。
 まだ大きな悩みなどない小学1年生の子供達は無邪気で可愛い。


 私もこの頃が一番楽しかったかも…。


 だけど、2年生に進級する前に母は亡くなった。


 私にとって小学1年生の思い出はいつの間にか悲しい感情の方が
 強くなっていた。

 ハッと我に返った私の周りには誰もいなくなり教室にはポツリと
 私一人だけになっていた。


〈あ、そうだ。私はまだ母に聞きたいことがあったんだった〉

 
 私はとりあえず雪子ちゃんを追いかけた。

 
 子供達の足は意外と速く、雪子はもう玄関を出て校門に向かって
 歩いている。その前を春陽はるきが歩いている。


 その時、校門からいきなり黒色のボディをしたリムジン車が校庭に現れた。



 え? なにごと? すっごい豪華な車だ……。



 私は慌てるように靴に履き替えると早々と校庭に出て行った。


 子供達はリムジン車を避けるように立ち止まる。

「おお…」
「何度見ても、すっげ―」

春陽はるき君、迎えが来たみたいだよ」

「……」

 リムジン車は春陽はるきの前で停車すると、後部座席から執事が降りて来た。

「坊ちゃま、お迎えに参りました」



 坊ちゃまって? 春陽はるき君って金持ちの息子だったの?



「別に送り迎えなんていらねーよ。一人で帰れるし」


「それはダメでございます。旦那様に怒られます」


「くすっ」

 雪子が鼻で笑うように通っていく。雪子の隣には3年年下の男の子と女の子がいた。

 春陽はるきは雪子に視線を向けて、
「おい、凡人、羨ましいだろ。乗りてーか」
と、また嫌味な口調で言葉を吐く。

「別に」

「お前が乗りてーなら乗せてやってもいいぞ」


 また、あの二人は…

「別に! アンタの車なんか乗りたくないっつうの!!」

 雪子はケンカごしに言葉を放った後、足早に歩いていった。
 
「おい、雪子」と、雪子の後を追う男の子と「待って、康ちゃん」と、男の子を追う女の子の姿が私の目に映る。


「フン。帰るよ、生島きじま

「はい。坊ちゃま」

 生島きじまは後部座席を開けて春陽はるきを乗せると、自分も同乗する。

 その後、すぐにリムジン車は走り出した。



 あの子達は誰だろ? 雪子ちゃんの友達かな……。


 私は雪子ちゃんと一緒に帰っていた子達が気になっていた。


『ほんと、春陽はるき君と雪子ちゃんっていつもケンカしてるよね』

『でもさ、体育の時間はビックリだったよね。まさか、春陽はるき君が
雪子ちゃんをかばうなんて思ってなかったよ』

 女子達が小さな声で内緒話をしている。

『あのまま、ボールに当たればよかったんだよ』

 葵がボソッと呟く。


 私の耳に葵ちゃんと女子達の会話が入ってきた。

 〈あのねぇ…(苦笑)。昔からあるんだね。
 私が小学校の時もいたね、こんな女の子。女は男よりネチネチしてるからね〉



『葵ちゃん、それはちょっとひどくない?』

 控えめに言う彼女達を『なに? 文句ある?』という顔で葵が睨みつけると、彼女達は俯き加減で顔を見合わせていた。

 その後、葵ちゃんから少し距離を開けて彼女達は歩いていた。


 葵ちゃん…なんか、裏がありそうな子だ…。


「それにしても、雪子ちゃんと帰っていた子達は何者だ?」


「男の子の方は津山康介君で女の子の方は吉川千恵子ちゃんですよ」

「え!?」津山…康介って…。私の父? あの子が…マジか…

 私はその声がする方に視線を向ける。


「ずっと、視線を送っていたのに津山さん、全然気づいてくれないんだもんな」

「え?」

「僕の名前は谷野悟志やのさとし。そう言ったらわかるかな?」

 谷野やのって…まさか…


 そういえば同級生にそんな名前が…

「まさか…」

「その、まさかだよ。小6の時、隣の席になった谷野悟志やのさとしです」

「え」

「津山さん、僕の卒業文集を見て、将来の夢の欄に『小学校の先生』って書いてたよね」

「え、じゃ谷野やの君、ほんとに小学校の先生になったんだ」

「ーーなわけないでしょ。津山さんって天然なの」

「え?」

「今、何年だよ」

 …そうだった。私は36年前の過去に来てるんだった。
  
 その過去に同級生の谷野やの君がいるのはおかしい…

 しかも、私と同じ大人の男子だ…

「もしかして、谷野やの君も未来から?」

「正確に言うと津山さんが来た未来の更に5年先の未来からかな」

「え…じゃ…41年前? ねぇ、どうやって来たの? 私、現世に帰れるの?」

「聞きたい?」

「うん。聞きたい。春陽はるき君と雪子ちゃんがどうなるのかも知りたいし…」

「じゃ、今夜、僕に付き合って」

「え…」

「君が知りたいこと全部教えてあげるよ」


 そう言って谷野やの君は私に視線を向けると、ニヤリと口角を少々上げた、
 目を細くして笑みを浮かべていた。そして、谷野やの君の手が私の手に
 触れてくると、その指は次第に私の指の間をくぐって絡んできた―――。


「……」

 私は谷野やの君に視線を向ける。

「まさか、君は僕の気持ちに気づいてなかったの?」


 まったく、気づいてなかった……

 っていうか、もしかして話はベッドインが終わってからだとか……



 ……どうしよう……


   

 
 ヤバいんじゃない……この状況……いったい、どうするんだよ私……

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