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第15話
お好み焼き屋・ふくちゃん
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放課後、私達はお好み焼き屋へと向かう。
前方を歩く葵ちゃんと春陽君を後ろから眺める雪子ちゃんを私は横目で見た。
春陽君とじゃれ合っていた谷野君が後方に下がり私の隣に来る。
私達はいつ飛ばされてもおかしくはない。こうして歩いていても何かのきっかけで
また別の世界へ移動する。過去か未来か? それは私達にさえわからないのだ。
もしも私達がここで消えても雪子ちゃんや葵ちゃん、春陽君は何事も
なかったように歩き続けるだろう。私達が消えた時点でこの世代に存在していた
私達は抹消され洗脳が解かれる。
そう、最初から私達はこの場所にいなかったことになる。
「津山さん…?」
「……?」
「そろそろ、準備しといた方がいいかも」
谷野君が私の耳元で囁いた。
「谷野君、わかるの?」
「はっきりとはわかんないけど…でも、未来の僕が作ったタイムスリップは
短い時間しか同じ場所に滞在できない物だって覆い出して…」
「まあ、確かに…。この世代に来る前は1日くらいしかいなかったし」
でも、あの時は急に頭が痛くなって、それから地震がきた。
何か時空が変わる予兆みたいなものがあった。
今、地震が来たらどうなるのだろう。建物は大丈夫だろうか?
だけど、そんな予測は不可能だ。だってそれは思いがけず突然
やってやってくるから。
「津山さん、雪子ちゃんともっと話しといた方がいいんじゃない?
もしかしたら、高校生の雪子ちゃんにはもう会えないかもしれないんだよ」
谷野君は私に小言を向けて呟いた。
だけど、話するって何を言えばいいのかわからない…
もしも、この世界で雪子ちゃんと春陽君が恋人同士になったとしても、
未来で康介君と雪子ちゃんが結婚してるってことは、その間のどこかで2人は別れる
ことでしょ。じゃなきゃ、未来は歪んでしまう。
私の存在自体がなかったことになってしまう。
「ううん。いい…」
多分、それは雪子ちゃん本人が気づいて言わなきゃダメだと思う。
母からもらった手紙には【好きな人に好きだって言えなかった】って書いていた。
だとすると、この世代の雪子ちゃんはあまのじゃくのままだ。
「春陽はやっぱ卒業したら親の会社、継ぐのか」
谷野が春陽に聞いた。
「ああ、一応な。でも親父が会社継ぐなら大学ぐらい行っとけって言うから
取りあえず大学は行こうかなって思ってるけど…。谷野は?」
「取りあえず、教師にでもなろうかな」
「じゃ、谷野君も大学行くんだ」
「うん、そのつもり」
〈すごっ。谷野君、みんなに会話を合わせている〉
噓ばっかりのくせに。
「春陽君はいいよね。将来、約束されてる次期社。じゃあさ。
じゃあさ春陽君が社長になったら私を雇ってよ」
「アオはファッション誌の会社行くんだろ? ファッション誌の編集してみたいって
言ってたじゃん」
「うん。そうだけどさ。萌衣ちゃんは?」
「ああ、私は受かればどこでもいい」
――――なんて、急に葵ちゃんがふってくるからビックリした。
私は何も考えていなかった。
「なんか雪子ちゃんみたい」
「え?」
「雪子ちゃんも受かればどこでもいいとか言ってたよね」
「ああ、うん…」
「ユキは夢とかねーのかよ。つまんねー女だな」
「うるさいな。ハルに言われたかないよーだ」
この世代の雪子ちゃんはまだ絵本作家の夢を見つけてなかったんだ。
「じゃ雪子ちゃん、絵本作家とかどう?」
私は聞いてみた。
「あー無理無理。私、絵、めっちゃヘタクソだもん」
「だよなー(笑)。ユキの絵は幼稚園以下なんだぜ」
「ぷいっ。ハルも絵ヘタクソじゃん」
雪子は膨れっ面の顔をしてそっぽを向く。
『まるで小学生のケンカだな』
『うん…』
私と谷野君は顔を見合わせてボソっと呟いた。
気づいたら私達は【お好み焼き屋‣ふくちゃん】の前で立ち止まっていた。
ドアの前に掛けられた【本日、臨時休業いたします】の看板が目に入る。
「えー、うそー。今日、休みじゃん」
「なんか、会ったのかな…」
「これからどうする?」
「私は帰るよ」
「じゃ、俺も帰ろうかな」と、先行く雪子と春陽を追うように、
「もう、春陽君も雪子ちゃんも待ってよ―」と葵が2人に
駆け寄って行く。
その時、湿った風が私の足元にひんやりと漂ってきた。
「ん?」
ふと、私は【お好み焼き屋・ふくちゃん】の看板に視線を向ける。
少し開いたドアが気になった私は静かに歩みよりドアを開けた―――
〈開いてるーーー〉
なんだか嫌な予感がした私はそっと店内へと入って行く―――ーーー。
そして、萌衣に視線を向けた谷野もその後を追って店内へと
入って行ったのだった。
前方を歩く葵ちゃんと春陽君を後ろから眺める雪子ちゃんを私は横目で見た。
春陽君とじゃれ合っていた谷野君が後方に下がり私の隣に来る。
私達はいつ飛ばされてもおかしくはない。こうして歩いていても何かのきっかけで
また別の世界へ移動する。過去か未来か? それは私達にさえわからないのだ。
もしも私達がここで消えても雪子ちゃんや葵ちゃん、春陽君は何事も
なかったように歩き続けるだろう。私達が消えた時点でこの世代に存在していた
私達は抹消され洗脳が解かれる。
そう、最初から私達はこの場所にいなかったことになる。
「津山さん…?」
「……?」
「そろそろ、準備しといた方がいいかも」
谷野君が私の耳元で囁いた。
「谷野君、わかるの?」
「はっきりとはわかんないけど…でも、未来の僕が作ったタイムスリップは
短い時間しか同じ場所に滞在できない物だって覆い出して…」
「まあ、確かに…。この世代に来る前は1日くらいしかいなかったし」
でも、あの時は急に頭が痛くなって、それから地震がきた。
何か時空が変わる予兆みたいなものがあった。
今、地震が来たらどうなるのだろう。建物は大丈夫だろうか?
だけど、そんな予測は不可能だ。だってそれは思いがけず突然
やってやってくるから。
「津山さん、雪子ちゃんともっと話しといた方がいいんじゃない?
もしかしたら、高校生の雪子ちゃんにはもう会えないかもしれないんだよ」
谷野君は私に小言を向けて呟いた。
だけど、話するって何を言えばいいのかわからない…
もしも、この世界で雪子ちゃんと春陽君が恋人同士になったとしても、
未来で康介君と雪子ちゃんが結婚してるってことは、その間のどこかで2人は別れる
ことでしょ。じゃなきゃ、未来は歪んでしまう。
私の存在自体がなかったことになってしまう。
「ううん。いい…」
多分、それは雪子ちゃん本人が気づいて言わなきゃダメだと思う。
母からもらった手紙には【好きな人に好きだって言えなかった】って書いていた。
だとすると、この世代の雪子ちゃんはあまのじゃくのままだ。
「春陽はやっぱ卒業したら親の会社、継ぐのか」
谷野が春陽に聞いた。
「ああ、一応な。でも親父が会社継ぐなら大学ぐらい行っとけって言うから
取りあえず大学は行こうかなって思ってるけど…。谷野は?」
「取りあえず、教師にでもなろうかな」
「じゃ、谷野君も大学行くんだ」
「うん、そのつもり」
〈すごっ。谷野君、みんなに会話を合わせている〉
噓ばっかりのくせに。
「春陽君はいいよね。将来、約束されてる次期社。じゃあさ。
じゃあさ春陽君が社長になったら私を雇ってよ」
「アオはファッション誌の会社行くんだろ? ファッション誌の編集してみたいって
言ってたじゃん」
「うん。そうだけどさ。萌衣ちゃんは?」
「ああ、私は受かればどこでもいい」
――――なんて、急に葵ちゃんがふってくるからビックリした。
私は何も考えていなかった。
「なんか雪子ちゃんみたい」
「え?」
「雪子ちゃんも受かればどこでもいいとか言ってたよね」
「ああ、うん…」
「ユキは夢とかねーのかよ。つまんねー女だな」
「うるさいな。ハルに言われたかないよーだ」
この世代の雪子ちゃんはまだ絵本作家の夢を見つけてなかったんだ。
「じゃ雪子ちゃん、絵本作家とかどう?」
私は聞いてみた。
「あー無理無理。私、絵、めっちゃヘタクソだもん」
「だよなー(笑)。ユキの絵は幼稚園以下なんだぜ」
「ぷいっ。ハルも絵ヘタクソじゃん」
雪子は膨れっ面の顔をしてそっぽを向く。
『まるで小学生のケンカだな』
『うん…』
私と谷野君は顔を見合わせてボソっと呟いた。
気づいたら私達は【お好み焼き屋‣ふくちゃん】の前で立ち止まっていた。
ドアの前に掛けられた【本日、臨時休業いたします】の看板が目に入る。
「えー、うそー。今日、休みじゃん」
「なんか、会ったのかな…」
「これからどうする?」
「私は帰るよ」
「じゃ、俺も帰ろうかな」と、先行く雪子と春陽を追うように、
「もう、春陽君も雪子ちゃんも待ってよ―」と葵が2人に
駆け寄って行く。
その時、湿った風が私の足元にひんやりと漂ってきた。
「ん?」
ふと、私は【お好み焼き屋・ふくちゃん】の看板に視線を向ける。
少し開いたドアが気になった私は静かに歩みよりドアを開けた―――
〈開いてるーーー〉
なんだか嫌な予感がした私はそっと店内へと入って行く―――ーーー。
そして、萌衣に視線を向けた谷野もその後を追って店内へと
入って行ったのだった。
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