あまのじゃくの子

栗原みるく

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第19話 あまのじゃくの子

現世へ――――ーーー

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 時計の針が進んでいくみたいに、気づいたら私達は見覚えのある部屋の
 一室にいた。

「ここは……私の部屋…」

 なんだかすごく懐かしいその部屋を見渡し、改めて私は少しずつ間隔を
 取り戻していく。

「よかった…戻って来れたんだ。あれ? 谷野やの君…」

 視野から離れた谷野やの君の姿を私は探す。

 谷野やの君は何か探し物をしているみたいだった。

谷野やの君? どうしたの?」

「んー」


 谷野やの君の返事はそっけなく、その視線はすぐに他の場所へ向けられ、
 移動しながら谷野やの君はソファーベットのクッションをどけたり、
 テレビの裏や戸棚の隙間を覗き込んだりしていた。

「何か探しているの? ねぇ、手伝おうか?」

 私は谷野やの君に近寄って行くと、チラホラと彼の行動を伺いながら
 一緒になって探し物を探す手伝いをする。

「ねぇ、どんなものなの? あ、もしかしてタイムスリップ関係もの?」

 具体的な物がわからなければ想像もつかない。

 私は谷野やの君に聞いてみたが、

「……」

 谷野やの君は口を閉ざしたまま黙々と探している。

 〈マジか、、、〉

 ホントいうと、私は谷野やの君の言葉を半信半疑信用してはいなかった。
 タイムスリップやタイムリープなんてことは実際のとこ現実にはありえないこと
 だって思っていたかだ。そして、それは作り話やおとぎ話の世界だけの話だと
 思っていた。母の過去に行った出来事こともきっと目覚めたら『夢でした』
 みたいな夢落ちに終わると思っていた。
 
 だけど、それはすごくリアルなィや光景だった―――――ーーー。


 夢と現実が撹乱かくらんする程、まだ鮮明に記憶に残っている。

 母の幼い顔も高校時代も20歳ハタチの同窓会も、母が『あまのじゃく』だと
 いうことも明らかに私の心に強く染みついていた。

 これは間違いなく現実の世界だ。


 でも、もしも本当に過去と現実を行き来できるような機械的物体が物理的に存在
 することが可能なら、私は母が死ぬ前に戻りたいーーー。

 そして、母の病気をもう少し早く発見することができたなら、母のガンは早期発見
 することができて助かったかもしれない。

 リビングのソファーベットには母が最期に描いた作品【あまのじゃくの恋・
 栗原ゆき】の絵本(メルフェン童話)がページの途中で開いたままになっている。


〈あ、思い出した。あの日、私は久しぶりに母の絵本を読んでいたら急に
 ウトウト眠くなってそのまま寝てしまったんだった〉

 熟睡していた私は谷野やの君がこの部屋に現れたことなど記憶になく、
 気づいた時には36年前にタイムスリップしていた。


「あ、ん?」

 不意に私はソファーベット前のシンプルなローテーブルの下に向く谷野やの君の
 視線をとらえた。谷野やの君は何かに気づいた様子で、その手は次第にゆっくり
 と伸びていった。

 谷野やの君の手にはコンパクトで折りたためる携帯電話によく似た形をした
 小型通信機のような物を持っていた。


「もしかして、それがタイムトラベルの機械?」

「ああ…」
〈まだ、試作品だけど…〉

 それはデジタル式になっていてタイマーをセットすれば持ち運びしなくても
 過去に行けるものだった。その時代で過ごせる滞在時間は最短で1時間、
 最長でも24時間(1日)程度のものだった。そして、その機器の画面上には
【0】と表示されていた。

「あ、よかった。これが無きゃ僕は元の世界に帰れない」


「ほんとに作ってたんだ、谷野やの君…。すごいね…もう発明家じゃん」 

「あのさ…谷野やの君、お願いがあるの」

「却下」

「はやっ、即答。私、まだ何も言ってないよ」

「津山さんの言いたいことはなんとなくわかるよ」

「え?」

「どうせ、津山さんのお母さんが亡くなる前にタイムスリップして助けたいとか
思ってるんでしょ?」

「うん」

 さすが、谷野やの君。鋭い察知力だわ…。

「それは無理だね」

「え、なんで?」

「人の寿命は最初から決まっているんだ。その時に運命を変えてもほんの数日
くらいしか長く生きられない。誰も寿命の進行を止めることはできないんだよ」

「そんな…」

「じゃ、谷野やの君はどうして過去に来たの? 誰かの運命を変えたかったん
じゃないの?」

「……」


「実はこの部屋…親友が住んでた部屋だったんだ」

「え?」

「でも、僕がこの部屋に来た時には親友は引っ越しした後で、その後、
津山さんが入居してきてた」

「そうなんだ。それで親友は?」

「事故で死んでいた」

「え…」

「もしかして…谷野やの君…」

「津山さんが想像している通りだよ。僕は彼が事故に遭う前にタイムリープして
止めたかったんだ。でも、僕がこの時代に来たせいで微妙に時間がズレてさ…
結局、間に合わなかった…」

「そんな…」

「親友と出会ったのは5年前の春だった。高校が同じでさ。結構、趣味とか
よく似てて…。好きな子のタイプとかもね 」


「へぇ…、そうだったんだ」

それが谷野やの君が過去に来た理由―――ーーー。



〈え、それって…〉


「まだ、試作段階でタイムスリップできるかわからなかったけど、取りあえず
5年前にセットして彼の名前を登録したらこの部屋にタイムリープしてきたってわけ」

「そうだったんだね」

「その時、津山さんはソファーで寝ていて、お母さんからの手紙が置いてあった。
だから、僕は36年前から少しずつ現世に戻れるようにオートタイマーをセットして
スタートボタンを押したんだ。別に津山さんを一緒に連れていくつもりなかったけど…。
なぜか津山さんも一緒に来てしまったってわけ」

「信じるよ」

「ありがとう…。それから僕自身の個人的な理由で津山さんを巻き込んでしまったこと、
ごめんね」

「ううん。私の方こそ、ありがとう…」

〈なんで、36年前なのか気になったけど私は聞かなかった〉

「え…」

「私も母のことが知れて嬉しかったから……」

「あ、僕、そろそろ帰らないと……」

「あ、ねぇまた会える?」

「多分、それは無理かもしれない」

「そっか…」

「キミはお母さんとお母さんと同じ過ちを繰り返したらダメだよ」

「それって…どういう…」

「これからキミが運命の男に会えるってことだよ。じゃ、健闘を祈る。
バイバイ萌衣ちゃん…」


 
 え……


「あ、谷野やの君――――--」


そう言って、谷野やの君は私の目の前から消えた――――ーーー。


谷野やの君……バイバイ……また、いつか、どこかで……』


 私は天を仰いでいた―――ーーー。


 谷野やの君ーーーありがとうーーー

 冒険ができて楽しかったよーーーー。



ーーーバイバイ萌衣ちゃん……

 一瞬、ドキッとした。


 あれは空耳だったのだろうか…。

 中学時代、私は谷野やの君に『萌衣ちゃん』なんて名前で呼ばれたことなんて
 一度もなかった。

 
 私は三段ボックスにしまい込んだままになっていた中学時代の卒業アルバムを
 取り出してきて久しぶりに開けて見た。

「……え、これは…どういうこと?」

 卒業アルバムに載っている谷野やの君の写真はさっきまで
 この部屋で私と会話していた谷野やの君とは別人の顔をしていた――ーー。
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