あまのじゃくの子

栗原みるく

文字の大きさ
37 / 59
第36話

中学時代、親友だった子から久しぶりのLINE

しおりを挟む
 部屋の一室に入った私はすぐにソファーベットへバターンと倒れ込んだ。
 
 私の体はもう限界だったのだろう……。


 緊張の糸がほどかれた瞬間、再び睡魔がやってきたのだ。


 やっぱり自分の部屋が一番癒される、、、、、、


 私の瞼はあっという間に落ちていった。

 小さな寝息を立てて無意識に寝返りを打つ私の体は上手にソファーベットの端
 ギリギリで止まり、次は逆方向へと寝返りを打つ。

 寝ている時の私は自由人だ。何も知らないということは幸せなことである。

 寝ている時は何も考えなくて済むから私はこの時間が結構好きだったりする。


 こんな時でさえ時間はマイペースに一定速度を保ちながら稼働している。


 チクタク…チクタク…秒針は刻々と右回りに回り続けている。

 休むことなく永遠に……

 もしも、時間が止まれば、それは電池が切れた時か故障した時だ。

 例え時計が動かなくとも朝は必ずやって来る―――ーーー。


 朝が来て、昼が来て、夜が来て、そしてまた朝が来る。


 そうやって繰り返される日々を皆、色んな思いを抱えながら生きている。


 何時間どれくらい、私は寝ていたのだろう……



 わからないくらい私は無防備に爆睡していた。


 そのうち3時間おきに鳴る柱時計の音楽が部屋中に響き渡った。

 爆睡している時の私はこの音楽さえもスルーして起きない。


 だけど、耳の奥にかすかに聞こえた音楽は『そろそろ起きる時間だよ』と
 教えてくれているみたいだった。

「ん―――--今、何時…?」

 私は瞼をゆっくりと開けていく。


 ―――が、まだ眠そうに目をこすりながら私は片手間でサイドテーブルに
    手を伸ばしスマホを探し出すと、その手に取る。


 このスマホでさえ、いつサイドテーブルに置いたのかと、私はまったく見覚えが
 なかったのだった。


 多分、明け方、トイレに起きた時だろう。その時にバックからスマホを取り出し
 時間を見ては「もう少し寝れる」と2度寝したのだと思う。

 その証拠にカーペットに転がったバックから中身が散乱している。

 これは無意識にバックの中身を出して、スマホを探したことを証明している。


 私の親指が無造作にスマホの中央にあるボタンに触れた。
 
 画面上が明るくなり上部に表示された時刻が一番最初に飛び込んできた。

 
 12:30―――


「うそ!? もう、こんな時間?」

 さっきまでの眠気が一気に覚め、私は勢いよく体を起こす。


「やばい、仕事…」

 内心寝過ごして『どうしよう』と大パニックだった。

 その反面、ふと脳裏に春陽はるき社長の言葉が蘇る。

『お前…今日、仕事休め』


 本当はお言葉に甘えて『それじゃ…』と、休んでもう一回、横になりたい
 気分だったが、『今日の接待は3時からだ…まだ、間に合うかも…』と、
 私はソファーベットを下り、〔仕事へ行く〕という選択肢に切り替え
 即行動に移す。


 そして、タンスから着替えを取り出し浴室へと向かったのだった。



 昨日、いや…もう今日になっていた深夜、お風呂も入らずに眠ってしまって
 いたことと、シャキッと目を覚ます為でもあった。


 浴室に入った私はバスタブにお湯を溜めず、シャワーを浴びることにした。
 ゆっくりとバスタブに浸かり癒されている時間などなかったからだ。

 私は手早く髪と体を洗い流し15分程度で浴室を出た。

 脱衣所に掛けられたドライヤーでサッと頭を乾かし、着替えを済ませて
 ダイニングキッチン・リビングに戻ると急にお腹が空いてきた。

「作っている時間もなし、何か適当に食べれるものは…」

 と、私は冷蔵庫を開けて覗いて見る。


「お、ちょうどいいものがあった」

 食材はほとんどなかったが、隙間だらけの冷蔵庫の奥にポツリと
 忘れられたように置かれたプリンに視線が釘付けになる。

「おお、プリンがある」

 その手は脇目もふらずに真っすぐと伸びていった。

 プリンを買ったのは5日前のこと。


〈賞味期限は大丈夫?〉

 私は賞味期限の記載表示に視線を向ける。


「ホッ…よかった…今日までだ、、、ギリギリセーフ」



「おお、プリン様ー、愛しのプリン様、忘れててごめんよぉ」

 私はプリンを頬にスリスリとすり寄せ、しみじみと愛着を感じていた。


 本当に都合のいいように解釈する。

「もう少しで無駄になるとこだった……」


 ダイニングテーブルの前に座った私は早速プリンの蓋を開ける。


 結局、プリンは私の口の中に入るのに可哀想に…

 でも、それもプリンの運命さだめなのさ。

「それじゃ、味わって一口…いっただきまーす」

 パクッ

「――ん、おいしいー。幸せー」


 萌衣は満面の笑みを浮べてプリンを頬張ほおばっていく。


 ブー、ブー (LINEメールの受信音)

「ん? メール?」

 私はテーブルにさりげなく置かれたスマホから鳴る音に目を傾け、
 片手間にスマホを操作しながらLINE画面を開ける。


【萌衣、久しぶり、元気してる? 急なんだけど、今週末予定開いてる?
中学のみんなで集まって同窓会しようって話になってさ。私が幹事することに
なって、、、】

 そのメールは中学時代の親友、井野上恵衣子いのがみえいこからだった。

 恵衣子とは中学、高校と一緒だったが高校卒業後は会うことも少し減って
 きたけど、ちょこちょこメールのやりとりはしていた。

 恵衣子からメールが来てもメンドくさがり屋の私は既読するものの、いつも
 返信は後回しにしている。それさえも忘れていることもしばしあり。

 ひどい時は忘れた頃に「あっ」と思い出し、返信するから恵衣子も
 戸惑うことがある。だが、そこは双方とも上手く聞き流している。

 恵衣子は『それが萌衣やもんね』と私をいつも笑って許してくれる。

「同窓会かあ…。懐かしいなあ…」



 谷野やの君も来るんだろうか……


 え、谷野やの君!? 脳裏に蘇る谷野やの君と行った過去。

 いったい、あれは何だったんだろう……

 谷野やの君の卒業写真の顔が違っていたことも気になる、、、


 もしかして、私は夢を見ていたの? 夢ならめちゃくちゃリアルな夢だ。

 でも、夢じゃないと確信している。

 だって現世に戻って来た時、春陽はるき社長のことははっきりと覚えていた。

 父や母、千恵子さんのことも覚えている。

 母があまのじゃくなのは子供の頃からだった。

 もう、何がなんだかわからない。

 どうなってるの? 頭の中がごちゃごちゃに混乱していた。


 谷野やの君とは高校は別々だったけど、中学の同窓会やもんな。

 ひょっとしたら来るかもしれない……。

 もしも、谷野やの君に会えば…何かがわかるかも……


 谷野やの君には聞きたいことがいっぱいある。



 ―――同窓会は多分、夜からだろう…。


 私はすぐに手帳を開け春陽はるき社長のスケジュール確認をする。

〈よし、今の所は予定なし。定時刻で帰れる〉


【うん。わかった。じゃ参加でよろしく】

 私は忘れないようにとりあえず返信だけ済ませる。


【了解♡】    ……既読



 恵衣子からすぐに返信メールが届いた。


 その後、私は残りのプリンを完食し、食べ終わった容器をゴミ箱に捨てると、
 仕事に行く準備をする。歯磨きは念入りに磨き、顔も洗顔で洗う。


 スーツに着替え、ビシッと髪を上の方にアップする。

 化粧は春陽はるき社長好みの薄化粧だ。


 前に化粧を濃いめにしていったら『お前には似合わん。落としてこいと』と
 言われたことがあった。確かに、朝、鏡を見て『似合わない』と思ったけど
 テレビドラマで見る秘書達はキレイに厚化粧をしていたし、会社の女性社員も
 濃い目の化粧をしている人もいた。

 その後、麗花さんに聞いたら、どうやら春陽はるき社長は薄化粧の女性が
 好きらしく、それ以来、私は見栄を張るのをやめた。

 麗花さんが秘書の時、濃い目に化粧をしてたのは仕事ができる女だとカッコよく
 見せたかったんだとか……。実際、本当に仕事はバリバリできるが…。

 そう言えば、母もあまり化粧をしていなかった気がする。

 外を歩く時は薄く化粧をしていたみたいだが、殆どスッピンに近かった気がする。

『化粧をすると肌が荒れるからね…』
  
 小学校入学式の時に母が言っていた。

 その後、
『本当は化粧を塗ったり、落としたりするのがめんどくさいだけ
 なんだけどね(笑)』と、母は私の耳元で囁いた。

 帰り道、二人で手を繋いで笑ったことを思い出した。

 大雑把なとこもあるけど、小まめに料理や掃除をする時もある。
 
 自分のことはいつも後回しにして優しい母だった。

 そんな母が私は大好きだった――――ーーー。


 支度が整え終えると、私はスッキリした顔で部屋を出た。



 今日は春陽はるき社長の好きな女性に一歩近づけたかな?


 ダメ出しの数が1つでも昨日より少なければ自分にまるをつけよう……。

 
   
 取り合えず、今日は失敗しないように頑張ります。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる

小豆缶
恋愛
国一の錬金術師アリエルは、私の師匠であり親代わり。 そんな師匠が、突然国の金を横領して総司令官と駆け落ちした――そんな噂に巻き込まれた一番弟子のミレイユ。 絶対に信じられない。師匠に駆け落ちをする理由がない 理不尽な取り調べに耐え、全てを奪われた彼女は、師匠が残した隠れ家へ逃げ込む。 電気も水道もない自然の中、錬金術の知識だけを頼りに生活を始めるミレイユ。 師匠の教えを胸に、どんな困難も乗り越えてみせる。 錬金術で切り開く未来と、師匠を信じる心。 それが、私の全て――。 真実が隠された陰謀の中で、師匠を巡る愛憎と、少女を支えるレオンハルトと歩む、希望と成長の物語。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

堅物御曹司は真面目女子に秘密の恋をしている

花野未季
恋愛
真面目女子が、やはり真面目で堅物な御曹司と知り合う純愛もの。 サラッと読める短編です♪

処理中です...