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アレンは訥々と語ってくれた。その言葉ひとつひとつを聞くたびに僕は何とも言えない気持ちになった。それと同時に同情の念を抱いた。こんな形で好きな人を失うことになるだなんて可哀想すぎると思ったからだ。
アレンの話によると、アレンとナターシャは幼馴染だったらしい。家が隣同士ということもあり、毎日のように遊んでいたそうだ。そんな2人はいつしか恋に落ちて結婚の約束まで交わすようになったらしい。しかし、ある日を境にアレンの両親が事故死してしまい、それによりアレンは公爵家の跡取りとして育てられることになったのだという。それ以来、アレンは次期公爵となるための厳しい教育を受けることとなったらしい。だが、それが苦痛で仕方がなかったらしく、毎日のように泣いていたそうだ。そんな彼を見かねたナターシャはある提案をしたらしい。
その内容というのが、公爵家を継ぐのはやめた方がいいというものだったらしいのだ。それを聞いたアレンはとても驚いたそうだが、同時に納得がいったという。確かに公爵家を継ぐとなれば自由恋愛など許されるはずがないのだから当然と言えば当然だと言えるだろう。だからこそ彼女なりに考えた結果だったのだろうと思う。実際、僕もそう思うしね。だけど、アレンはそれを受け入れるわけにはいかなかったのだろう。何故なら彼には夢があったからだ。幼い頃に両親を亡くしてからというもの、彼は両親の跡を継いで立派な貴族になることを目標に生きてきたのである。だからこそ諦めるわけにはいかないという思いが強かったのかもしれないね。けれど、結局は説得される形になってしまったようで渋々納得したようなのだが、それでも諦めきれなかったようで未だに未練があるようだった。だからこそ今でもこうして苦しんでいるのだと思われる。まあ無理もない話だと思うよ。僕だって同じ立場だったらきっと同じようなことになっていたはずだからね。でもさ、だからと言って暴力を振るうのは良くないと思うんだ。いくら相手が気に入らないからといって手を出すのはいけないことだと思わないかい?そう思わないのなら君達にも責任があるということだよ?ちゃんと反省してもらわないといけないかなって思うんだよね。だってそうだろう?相手を傷つけておいて謝罪もしないどころか開き直るような真似をするような人間なんて最低じゃないか。僕はそういう奴が大嫌いなんだよ。自分勝手な理由で人を傷つける奴なんか死ねばいいと思ってるくらいだからね。
だからもしまた同じことを繰り返すようであれば容赦はしないつもりだ。その時は覚悟しておくんだね。
さてと、前置きが長くなってしまったけれどそろそろ本題に入るとしようか。実はね、僕は君達にある依頼をしたいと思っているんだよ。というのも、僕にはどうしても手に入れたいものがあるんだ。それを手に入れるためにはどうしても君達の力が必要なのだよ。だからどうか協力して欲しいと思っているんだがどうだろう?引き受けてくれるかな?もちろん報酬は弾むつもりでいるからね。悪い話ではないだろうと思うのだがどうかな?引き受けてくれないだろうか?ああそれともう一つだけ付け加えておくことがあるんだけどね、実は僕の目的はそれだけではなくて他にも色々とやらねばならないことがあってだね、そのためにも是非とも協力してくれたら嬉しいと思っているんだよ。あ、そうそう忘れるところだったよ。大事なことを言い忘れていたんだけど、実は僕が欲しいと思っているものは一つだけじゃないんだ。つまり、全部で三つ必要だということなんだ。それを全て揃えないことには意味がないから慎重に行動しなければならないというわけなのだよ。とは言っても焦っても仕方がないから一つずつ確実に手に入れていくことにしようと思っているけどね。まずは一つ目を手に入れたら二つ目を探しに行くという感じでね。そうやって順番に回っていくつもりなのだ。その方が効率的だとは思わないかい?え?そんなことはどうでもいいから早く目的を教えろって?あははっ!せっかちだなぁ君は!まあいいけどさ。じゃあ教えてあげるとしようか。僕の目的はね、ズバリお金だよ!!金さえあれば何でも手に入るからね!!世の中金が全てだからさ!!それ以外に必要なものなんて何一つないんだ!!というわけで早速なんだけど、君達に頼みたいことがあるんだよ。聞いてくれるよね?断るなんて言わないよね??もし断ったりしたらどうなるかわかってるよね??わかってくれてるよね??そうだよね??わかってくれているならいいんだよそれで。うんうん、それでいいんだ。素直な子は嫌いじゃないよ。むしろ好きなくらいだ。というわけで改めて聞くことにするけどいいかな?僕の依頼を受けてくれるよね??はい決定!!!これでもう後には引けなくなったわけだけれども後悔はないかな??ないみたいだね??よかったよかった安心したよ!!それじゃあこれからよろしく頼むよ??期待しているからね??期待して待っているからさ??絶対に裏切らないように気をつけてくれよな??わかったな???よし良い子だ。それじゃあ早速取り掛かるとしようじゃないか!!」
そう言うと彼らは意気揚々と出かけて行ったのだった。その様子を見ていた私はホッと胸を撫で下ろしていた。どうやら上手くいったようだと思って安堵していたからである。それにしてもまさか彼らがあんなことを考えていただなんて思いもしなかったので驚きを隠せなかったけれどそれ以上に嬉しさの方が勝っていたのも事実だった。やはり私のことを愛してくれているのだと実感できた瞬間でもあったからだ。そう思うと自然と笑みがこぼれてきてしまった。
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