タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

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第一章 異世界のアルコータス

第三の力

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 振り返ると、団長が巨人と対峙していた。
 巨人は躊躇することなく、鉄塊然とした拳を振り下ろす。
 甲高い金属音が響く。
 団長は巨人の腕を打ち払っていた。
 ホームランを打ったような大振りのフォームで。
 だが、ギルティープレジャーの軋む刃でも、刻み目をつけるのがやっとらしい。
 巨人は続いて、左足で蹴りあげてきた。
 団長は素早くかわし、この足も打ち払った。
 巨人は大きくバランスを崩したが、踏みとどまった。
 しかし、動きが止まる。
 この機を逃さない!
 俺は剣の切っ先を巨人の胸に向けた。
「剣・ビーム!」
 灼熱の光条が巨人の胸に当たり、火花がシャワーのように降りそそぐ。
 だが、ダメだ……。
 ビームは巨人の身体を溶かし、溝を彫ったが、そこまでだった。
 とても切断するまでには至らない。
 巨人のほうも痛みすら感じていない様子だ。
 マトイとヒサメの放った銃弾と矢が、巨人の頭に当たって弾かれる。
 これはもう、注意を逸らすことさえできない。
 巨人は団長を目標に据えたまま、横殴りの一撃を放つ。
 団長は後ろへ跳びながら、目の前を過ぎた巨人の腕を叩きつける。
 巨人は再びバランスを崩した。
 その隙に団長が叫ぶ。
「ナムリッド、とっておきを食らわせてやれぃ!」
「わかりました! 通常魔法陣展開!」
 ナムリッドの声に振り向く。
 彼女の足元には光と文字の輪が広がっていた。
 一瞬の間を置いて、ナムリッドはスタッフを振り上げた。
 瞳が金色に輝いている。
「メルティング・タール!」
 魔法の効果を見ようと、俺は巨人に目を向ける。
 また金属音が響き、団長が攻撃を弾いたところだった。
 変化は起きていた。
 鉄鉱石のような巨人の身体の表面に、黒いタールが染みだして煙を上げていた。
 タールは巨人の輪郭を侵食していく。
 魔法は効いていた。
 巨人の身体を溶かしている。
 だが、巨人は攻撃の手を緩めない。
 腕が溶け落ちるまで、まだ時間がかかりそうだった。
 ナムリッドは魔法陣の中心で瞳を輝かせ、硬直したように動きを止めていた。
 効果を持続させるのに、魔力を注ぎ込み続けなければならないらしい。
 巨人はしぶとかった。
 俺は、いや俺たち全員は、微動だにしないナムリッドと、敏捷に動きまわる団長とを見守るしかなかった。
 左右の連打が団長を襲う。
 団長は大きく二度、後ろへ跳んでこれを避けた。
 そこで不測の事態が起きた。
 どこかに潜んでいたダイアウルフに飛びかかられたアデーレが、ごろごろと転がり込んできたのだった。
 団長と入れ違いになる形だ。
 巨人は目標をアデーレに変えて、一歩を踏み込んだ。
 アデーレが潰される!

「ア」

 アデーレの名を呼ぼうとしたとき、周囲の時間が減速した。
 俺は心のうちで、別の言葉を叫んでいたのだった。
『緊急魔法陣多重展開!』
 赤く光る魔法陣が手首に現れる。
 手首だけじゃなかった。
 俺の関節のほとんどに、赤い輪が出現して回っていた。
 首から足首まで、身体中魔法陣だらけだ。

「デー」

『ブルート・ファクツ急速収斂!』
 身体中の魔法陣が、金色の靄を集める。
 力の奔流が駆け上ってくるのを感じた。
『魔力錬成!』
『対象魔法構成!』
『放出力量、限界突破!』

「レ!」は俺が守るッ!

 強大な力には強大な力を。
 時間の流れがもとに戻ったとき、俺は巨人に左手を向けて、魔力を解き放った。
「インクリーザーッ!」

 魔力の波が滝のように降りそそぐ。
 瞬時に巨人は魔法の影響下に入った。
 巨人は立っておられず、片膝をつく。
 次いで右腕をつき、左腕をついた。
 巨人の凶腕が、アデーレに届くことは無かった。
 うずくまった巨人が、自重でずぶりと地面に沈む。
 インクリーザーは、巨人に働く重力を強大に増加させる魔法だった。
 巨人が、頭の溶けた顔をのけぞらせて、金属的な喚き声を上げた。 
 魔法の力に抵抗しようとしている。
 俺は力を送り続けなければならない。
「通常魔法陣展開」
 俺の足元に光と文字の輪が広がる。
 そこから供給された力を、俺は巨人に放出し続けた。
 動くな!
 溶けきってしまうまで!
 俺が巨人の動きを止めるなか、ナムリッドの魔法が巨人を溶かしていく。
 アデーレはすでに団長によって救出されていた。
 ダイアウルフは二片になって転がっている。
 巨人はゆっくりと、確実に溶けていく。
 ナムリッドのメルティング・タールが、ついに致命的な一線を越えた。
 巨人の両腕が肩から外れて、土に刺さる。
 あごだけになった頭も、すぐ後を追った。
 しぶとかった非生物的な巨人も、これで終わりだ。
 胸まで溶けた巨体は、地響きを立てて横倒しになり、地面にめり込んだ。
 背後からナムリッドの声が聞こえた。
「もう大丈夫よ、タケツネ」
 その言葉で、魔法陣を解く。
 ふと気づけば、右手には剣を握ったままだった。
 剣を鞘に収め、俺はやっと一息ついた。
 刀を収めたトゥリーが、俺に微笑みを向ける。
「よくやったな、タネツケ。期待以上の働きだった」
 後ろから、マトイが抱きついてきた。
 右手には銃を持ったまま、左手で首に飛びついてくる。
「すごーい、タネツケ! 最初から使いなさいよ!」
「男は常に、ヒーローになれるタイミングを狙ってるんだよ」
 そう軽口で答えたものの、あながちデタラメでもないような気がしていた。
 危機的なタイミングに遭遇しないと、新たな魔法が生まれてこないようだった。
 ともかく、『インクリーザー』は俺にとって第三の力になった。
 ナムリッドも近づいてきて、心配そうな声を出した。
「具合は大丈夫、タケツネ? わたしからは、魔力を使いすぎに見えるんだけど……。並の魔道士なら、もう意識が無いぐらいのはずよ?」
「ん? なんてことないけど? それよりナムリッドのほうが顔色悪いんじゃないか?」
 ナムリッドは力を失ったように肩を落とし、顔面蒼白だった。
「わたしはもう、ふらふら。一休みしないと……」
「ゆっくり休めばいいさ。なんならトラックまで運んでやろうか?」
 マトイが銃で小突いてきた。
「ちょっと! ナムリッドに優しすぎない!?」
「え、いや、ともに戦った仲間としては、当然だろ……?」
 俺はマトイから目を逸らして、周囲を見回した。
 そこで異変に気づく。
 おかしい。
 あれだけ転がっていたオークやコボルトの死骸が、ほとんど消えていた。
「死体が……」
 そう言いかけたとき、クラウパーが話しかけてきた。
「姉貴を助けてくれてありがとう、タネツケ」
 クラウパーは右手にウォーハンマーを下げ、左手に卵大の青い宝石を持っていた。
 その見事な宝石を俺に差し出す。
「今日一番の大物らしい。団長からおまえへボーナスだってさ。受け取ってくれ」
 俺はとりあえず宝石を受け取った。
 ズシリと重い。
 マトイが覗きこんできて、声を上げる。
「すごい! 家が買えるよ、タネツケ! アタシたちの新居にする?」
「こんなもの、どこから出てきたんだ?」
 俺の疑問に、クラウパーが答える。
「ああ、知らなかったか? モンスターを倒すと、その身体は蒸発して、あとにこれが残ることがある。トリファクツ結晶さ」
「トリファクツ結晶……?」
 オークの死体が消えているのは、そういうわけか。
 蒸発してしまうとは。
 最初にオークを倒したときは、俺もマトイも初めてのアレで頭が一杯だったから、離れた場所のオークの死体なんか気にも止めなかったっけ……。
 クラウパーは続けた。
「トリファクツ結晶は、魔法の道具を作るのに欠かせない材料だ。マトイの銃、トークタグ、ナムリッドのスタッフにギルティープレジャー。全部、トリファクツ結晶が使われている。高値で売れるぞ。アルバの重要な収入源の一つだ」
 トゥリーが腰に手を当てながら、後を引きついで言う。
「マナ・ファクツにブルート・ファクツ。魔法を使うとマイアズマが発生して、マイアズマはモンスターを生み出す。そのモンスターの体内ではトリファクツ結晶が出来て、俺たちはそれを取り出して魔道具を作り、さらに魔法を使う。世の中、おもしろい具合に回ってて、感心しちまうだろ?」
「ああ、感心するね……」
 俺は手の中の青い宝石を弄びながら答えた。
 そのとき突然、胃の中のものが逆流してくるのを感じた。
「うぶっ?!」
 俺は宝石を落とし、身体を折る。
 凄まじい吐き気にこらえきれず、朝食べたものを嘔吐した。
 身体の力が急速に抜けていく。
 俺は咳き込みながら直感した。
 これが『魔力の使いすぎ』だ……。
 俺はあとから反動が出てくるタイプなのだろう。
 もつれる足を動かして、なんとか自分の反吐から離れた。
 安心して倒れこむ。
 たくさんの声で名前を呼ばれた気がしたが、もう意識は暗闇に落ちていくところだった……。
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